第6話 魔法学院潜入

 そういうわけで、俺たちはパルシア魔法学院に来た。


「えーと、あ、これなら良さそうだな」

 使用可能な魔法の一覧を見ながら言う。


「【透明化】」

 瞬時に俺たちの姿は見えなくなる。ただ、俺とセレスティーヌは互いに相手の存在が視認できるようになっている。


「これでとりあえず、姿は見えないぞ」

「へ~、あなたこういうのも使えるのね」

「ああ。というか、これは学校で習わなかったのか?」

「うん。多分、最上級魔法なんじゃないかな」


 パルシア魔法学院の敷地はかなり広かった。いったい何人の学生を擁しているのだろうか。 透明化した俺たちは、校門をすり抜ける。暇そうな警備員さんを横目に進む。


 所々に噴水も置かれているような、中庭。その先には、壮麗な建物がいくつもそびえている。


「で、お前の住んでいた寮ってどこなんだ」「えーと、ね。こっちよ」

 俺はセレスティーヌに導かれるままに、学院内を歩く。 程なくして、俺たちは寮に着く。


 ・・・・・・これ、本当に寮なのか?


 豪勢な作りのその建物は、さながら高級マンションといったところだ。


 だが、そのマンションの一角には、黒く巨大な焦げた穴が空いている。


 その穴を指さしながら俺は

「あれがセレスティーヌの部屋か?」

「ええ。そうよ」

「あらためて見ると、ひどいものだな・・・・・・」

「でしょ?少しは私がどんな目に遭ったか分かったかしら?」

「分かった分かった。もう充分だよ」

「だったらさっさとお財布を取りにいこうよ。ホント、もうここにはあんまり長居したくないし」


 俺たちは、いそいそとセレスティーヌの部屋へと向かう。


 寮内には、人っ子一人見当たらなかった。セレスティーヌが言うには、今朝から人の気配がなかったとのことだが、何かの偶然だろうか? 


「ここが目的の階よ・・・・・・この先を進めば、私の部屋」

 トーンの低い声でセレスティーヌは教えてくれる。俺は言われるまま、セレスティーヌの部屋へと行く。


 部屋の惨状は想像以上のものだった。机やイス、ベッドといった家具類は、原型を留めておらず、黒焦げの破片が四散していた。壁に穿たれた巨大な穴からは、外の世界が一望できる。


「・・・・・・セレスティーヌ、そもそもこんな状態なら、財布も跡形もなく爆散しているんじゃないのか?」

「うーん、ちょっと待って。多分大丈夫なはずだけれど・・・・・・あ、あった」


 セレスティーヌは部屋の隅っこを何やらごそごそと探したかと思うと、俺に近寄ってくる。その手にはしっかりと財布が握られていた。


「貴重品には、防御魔法を施しておく。これって常識でしょ?」

「えーと、そうなのか?」

 曖昧に誤魔化す俺。


「ま、いいでしょ。じゃ、おごってあげましょうか。何がいいかな?」

「そうだな・・・・・・とりあえず一端ここから離れないか」

「そうね、そうしましょ」

 透明化した俺たちは堂々と正門から退場する。


「セレスティーヌ、何か美味い店知らないのか?」

「えーとね・・・・・・」

 セレスティーヌは言葉を濁す。


「別にそんな高い店じゃなくてもいいぞ。とにかく腹が減ってたまらないから、満腹になれば何でもオーケーだ」

「うーん・・・・・・」

 相変わらず、曖昧な返事をするセレスティーヌ。


「どうした?もしかして、お金が足りないとか?」

「いや、お金はあるのだけれど・・・・・・私、レストランとかのお店、全然知らないのよ」

「え?でも、しばらく住んでいたんだよな、この辺りに。だったら、少しくらいは知っていても・・・・・・」

「・・・・・・ごめんなさい。私、基本的に寮か学内の食堂でしか食事していなかったの。だから、食事する場所がどういうところにあるのか、分からないのよ」


 少し落ち込み、肩を落とすセレスティーヌ。そんな彼女を俺は慰める。


「まあまあ。うーん、そうだな。だったらギルドに行かねえか?」

「ギルド?」

「ああ。お前と衝突したあの場所。そもそも俺、ギルドに行こうとしていたんだよ。あそこの食堂でどうだ?」

「そうね。他に行くあてもないし。そこで今後のことでも話し合いましょう」

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