第4話 セレスティーヌの事情

【瞬間移動】で、俺たちは少し離れた公園へと待避した。


 公園にはほとんど人気がなかった。皆、先ほどの戦闘を見物しに行ったのだろうか。


 俺たちは、手近なところにあった石造りのベンチに並んで腰掛ける。


「自己紹介がまだだったわね。私の名前はセレスティーヌよ。セレスティーヌ・レ・シルフィ」

「俺の名前はレイだ」

「よろしく」

「ああ、こちらこそよろしく」

「それで・・・・・・いったいどうして、あなたは超上級魔法を使えるのかしら?」

「えーと・・・・・・質問に質問で返すようで悪いんだが・・・・・・その超上級魔法、て何だ」

「は?」

 何か信じられないものを見た、といった表情になるセレスティーヌ。


「ちょっと待って・・・・・・あなた本気で言っているの?初級、中級、上級、最上級、超上級っていう魔法の階級は、魔法学園の初等科で習うでしょ」 

「いや、俺さ、実は学校行っていないんだよね・・・・・・」


 曖昧に言葉を濁しながら、俺は考える。俺がこの世界に転生してきたこと、その際に何かの手違いで魔力無限、全魔法を解除されていること、この初対面の少女にいったいどこまで話すべきか・・・・・・。


「え?学校に通ったことがないの?ただの一度も?」

 俺は無言で頷く。まあ嘘ではない。前世でも学校ほとんど行っていなかったしな。


 腕を組んでセレスティーヌはしばし考え込む。そして納得したように首肯する。


「ああ、なるほど。そういうことね。あなた、家が貧乏だったか、あるいは何らかの他の事情で学校に行くことが出来なかった。それで、図書館に籠もるなり何なりして、魔法を独学した。そうでしょう?」

「まあ、そうだな。ひとまずそんなところだ」


 また詳しいことはいずれ、と俺は強引に話題をそらす。


「で、今度はお前の番だ。いったいどうしてさっきは追いかけられていたんだ?」

「話は長くなるけれど、いいかしら?」

「もちろん。時間はたっぷりあるからな」

「ありがとう。それでは・・・・・・」

 セレスティーヌは語り出す。



 セレスティーヌの話は、こんなものだった。


 セレスティーヌは教育熱心な地方の家庭に生まれた。両親とも魔法術の教師で、幼い頃にはすでに初等科レベルの魔法術が使えたという。


 この世界の教育課程は、主に魔法を学ぶかそうでないかで分けられるという。それくらい魔法が重視される世界で、セレスティーヌは英才教育を受けたというわけだ。


 セレスティーヌ自身も、魔法を使うことが好きで好きでたまらなかったので、勉強自体は特に苦にならなかった。そういうわけで、めきめきと力をつけて、頭角を表していった。


 だが魔法学校の初等科にいる時点で困った問題が発生した。あまりにもできが良すぎるセレスティーヌに、もうセレスティーヌに教えられる教師がいなくなってしまったのだ。


 ちなみに、魔法学校というのは日本における小学校くらいの年齢が入るらしい。その上に魔法学園というのがあって、これは丁度中学・高校にあたる。その上に魔法学院というのがあって、これが大学くらいのレベル。さらに上が魔法学府で、これはもう魔法研究機関とでも呼ぶべき代物らしい。


 で、地方の魔法学校ではもう何も学ぶことがなくなったセレスティーヌは、王都スレミアの王立パルシア魔法学園の飛び級試験を受けることになった。十才のときのことだった。


 ちなみに、俺が今いるこの場所はリーティア王国という所らしい。首都は王都スレミア。そこそこ広大な領土と、魔法教育を中心とした国力増強で、国際社会でも一定の存在感を放っている国とのこと。


 それで、セレスティーヌは見事、パルシア魔法学園の試験に一発合格した。全国から選び抜かれた俊英たちが受験するパルシア魔法学園入試試験、その倍率はなんと三百五十倍だったらしいので、いかに狭き門かがよく分かる。


 ところが、恐るべきというか何というか、ここでもセレスティーヌはずば抜けた成績を挙げることになる。早熟の天才、とでも言うべきなのか、年齢が七つも八つも離れている同期を差し置いて学年トップの成績を維持し続けたらしい。


 十三才にして、セレスティーヌは魔法学園で学ぶことすらなくなった。通常、十二才から十八才までの六年間で終わる課程を、十~十三才の三年で終えてしまったのだ。


 ということで、セレスティーヌは魔法学院にも飛び級で行くことになった。


 魔法学院、というのはそれまでの学園とは異なり、かなり多種多様な課程がある。新しい魔法を創り出す方面に向かうものもいれば、より高度な魔法を身につけようとするものもいる。言うなれば、学園までは基礎の段階で、学院からが本格的に魔法を学ぶことが出来るというわけ。


 セレスティーヌは魔法学院では、更に上級の魔法を習得すべく学問に励んだ。年上の同期に囲まれて、学院生活を満喫した。


 だが、その楽しかった生活も一年ばかりのことだった。セレスティーヌは次の学年に進級した際、魔法学園の知り合いの男子生徒が学院に入学(入院?)してきた。


 学園時代、その知り合い――ルディと言う名らしい――はとにかく成績優秀なセレスティーヌをやっかんでいた。怨嗟の念を直接にぶつけてきたことも一度や二度ではなかった。その度に、セレスティーヌは実力行使でルディをねじ伏せてきたらしい。


 そうしてどうにかこうにか学園生活をしのいだセレスティーヌ。晴れて学院生活を満喫していたのに、ルディの奴がまたしてもその生活を乱し始めた。


 ルディのセレスティーヌに対する嫉妬の念は、ますますひどいものとなっていた。年下のセレスティーヌに、後輩として扱われることがさぞ不愉快だったのだろう。学院に入って早々、ルディはセレスティーヌについて根も葉もない噂を流し始めた。飛び級出来たのはセレスティーヌが学院長に身体を売ったからだ、本当の実力なんてたかがしれている。


 セレスティーヌはそんな流言飛語に負けなかった。日々勉学に打ち込んで、必死にその噂を実力をもって否定しようと頑張った。


 だが、噂が止むことはなかった。むしろ、良い成績をとればとるほど、カンニングとか不正試験をしているだの教授たちに取り入って成績をかさ上げしてもらっているだの、悪しきデマはひどくなるばかりだった。


 そして更に、今年に入ってからはついに物理的な嫌がらせが始まった。ノートや鞄、帽子など所持品の盗難が相次いだのだ。


 当然だが、セレスティーヌは学院側に何度も訴えた。だが学院側も、飛び級したセレスティーヌをあまり快く思っていなかったようで、なしのつぶてだった。


 物理的ないやがらせは日増しにエスカレートしていった。身の回りの物の盗難どころか、身の危険にさらされるようになったのだ。何気に学院内の庭園を歩いていると、どこからともなく攻撃魔法の火球が飛んできたり、あるいは教室に入ったときに洪水魔法を起こされて溺れそうになったりした。


 それでもセレスティーヌはめげなかった。魔法の学習に更に没入して、飛んでくる火球を素早く水の防御魔法で除去し、洪水にも瞬間移動で対抗するようになった。


 で、ついにいやがらせは行き着くところまでいった。


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