第3話 出会い

「わわわわわ、ちょっと危ない!」


 【瞬間移動】が終わった途端、そんな声が耳に入ってきた。


 どしんっ。声を認識し終わる前に、全身に何かのぶつかる衝撃を感じる。それに伴い、俺の身体はひっくり返る。


 どうやら俺は屋根の上に移動していたらしい。で、バランスを崩した俺の身体は、そのまま屋根瓦の上を転がっていく。


 だが、その回転運動も束の間で終わり、俺の身体は宙に投げ出される。逆さまになった視界が開ける。


 ・・・・・・まずい、このままだと地面に落下、激突だ。


「【無重力】」

 俺は素早く魔法を発動させる。途端、落下運動は収まり、俺の身体にかかっていた重力はゼロになる。


 とっさにこの【無重力】とかいう、使える魔法が見つかって良かった。おかげで、地面にたたき付けられずに済んだ。


「ほぉー、これで一安心・・・・・・」


 安堵の息を漏らす俺。そのとき、背後から声がした。

「ちょっとあなた・・・・・・一体これはどういうこと?」


 振り向くと、一人の少女がいた。


 年齢は俺と同じくらいか。長い黒髪は、重力を失い無秩序に中空にぶわっと広がっていた。 


 彼女は不思議そうな表情をしていた。そこには半ば困惑した雰囲気も混ざっていた。


「あなた、いきなり屋根の上に出現したわよね?」

「あ、それは【瞬間移動】で・・・・・・」

 今し方使用した魔法をしどろもどろで告げる俺。だが、その会話も唐突に遮られる。


「おい、いたぞ!」

「逃がすなよ」


 声がした方を見ると、そこには漆黒の厳つい鎧を身にまとった男たちが四名、空を飛びながらこちらに向かっていた。


 黒髪の少女は言う。

「ちっ、しつこい奴らね・・・・・・どこまで追ってきたら気が済むのかしら・・・・・・【火焔弾・改】!」


 詠唱と共に、彼女の手から炎が湧く。無秩序に大気を揺るがす炎は、すぐさま収斂して、いくつもの火球へと変貌する。


「それっ!」


 手先から生まれ出たあまたの火球は、漆黒の鎧の男たちへと放たれる。


 火球は次々と男たちを直撃する。火球は盛大な火花を散らしながら、鎧の表面ではじけ飛び、虚空へと消えた。


 その様子を見て、少女の顔に絶望の色が広がる。


「うそ、なんで・・・・・・【火焔弾】の魔法が効かないの」

「ふはははは、お前が何の魔法で反撃してくるか、こっちは最初から予想済みよ。この鎧を何だと思う?上級攻撃魔法までは一切通用しない、アーロイ合金で作成されたものだ。お前は上級攻撃魔法までしか使えんのだろ?」

「くっ・・・・・・!」

 少女は悔しそうに唸る。


 えーと、これってどっちを助ければいいのかな?この女の子か、それともあのおっさんたちか。


 うーん、とりあえずこの女の子を助けようかな。直感だけれど、こっちの方が何か正しそうだし。


「おいおい、ちょっと待ちな、おっさんたち」


 俺の呼びかけに、黒い鎧の男たちは、鋭い視線を向けてくる。


「多人数で女の子一人を追い回して、恥ずかしくないの?」

「あぁん?なんだこの小僧。まとめて始末しとくか」


 すごい形相でにらんでくる男たち。だが、俺は怯まない。


 俺は【千里眼・解析】を発動させる。


 おっさんたちの黒光りしている鎧のステータスと弱点がたちまち俺の眼前に提示される。


「ふーん、上級魔法には強いけれど、それより上になると駄目なんだ」

「何か言ったか?」

 すごんでくるおっさんたち。


「【凍りの旋風・氷神竜の慟哭】」


 呪文を詠唱した途端、辺りが肌を突き刺すような冷気に満たされる。それに伴い、俺の周囲には、無数の微細な雹のごとき氷の粒が集まってくる。


「まさか、そんな、いやありえない・・・・・・なぜこんなガキが超上級魔法を・・・・・・?」


 黒い鎧のおっさんたちの間に、動揺が広がる。だが、そんなのにいちいち耳を傾けるひまはない。


「ほらよ」

 【凍りの旋風・氷神竜の慟哭】をおっさんたちへと放つ。


 冷気に満たされた旋風は、その漆黒の鎧を容赦なく引き裂いていく。うわ、あの鎧って金属だよね。こんな紙みたいに破れるなんて・・・・・・。自分で発動しておきながら、その威力にびびる俺。


「ぎゃああぁっ」

「うおっ」

「ぐほぉっ!」

「おぉぉっ・・・・・・」


 四人の漆黒の騎士たちは、断末魔をあげながら、遠くへと吹き飛ばされていった。


 ・・・・・・やり過ぎたかな。いやでも、これくらいは許容範囲でしょ。


「ありがとう・・・・・・」

 ふわふわと空中に浮いたまま、少女はお礼を言ってくる。


「いや、これくらい大したことない」

 同様に浮いたまま、俺は返事をする。


「ところで、あなた何者なの?見たところ、私と同じ年齢くらいに見えるけれど・・・・・・超上級魔法を使えるなんて」

「あー、これね・・・・・・話せば長くなるんだけれど・・・・・・」


 俺は辺りを見回す。先程のド派手な空中での戦闘。付近の建物の窓から、人々が何事かと顔をのぞかせている。宙に浮かんでいる俺たちの足下の広場にも、人だかりが出来ている。


「とりあえず、どこか場所を移さないか?野次馬どもも集まってきているし」


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