第31話凡人…出会いと別れ…

「あぁ…良かったぁ…気がつかれましたか?」

「ここは?」

心配そうにこちらを見る美しい女性…。

そして、見たことの無い家の中…。

ベッドに寝かされていた…。

「安心して下さい…バラック小屋ではございますが私の隠れ家でございます…あなた様のお名前は?」

(あれ?なんだっけ?あ…そうだ。)

「愛です!」

口に手を当てて美しい女性は笑った…。

「ご冗談を…あなた様は男性ではございませんか…面白いお方…。」

(え?男?)

自分の身体を確認する男…。

(あ、ある…女じゃなかったか?…名前…あ!)

「ひろしです。」

「ひろし様…素敵なお名前…私は聖女アイリでございます…お待ち下さい、今食事の用意を。」

そう言って聖女アイリは簡素な台所へ向かった。

ベッドの上に座っているひろし…。

(なにも思いだせないなぁ~ここはどこなんだ?)

聖女アイリは少しのおかゆを持ってきて、ひろしに渡す…。

「申し訳ございません、もう…これだけしか…。」

ひろしは受けとり笑顔で頂く。

(可愛いは正義…美味しい!)

「ありがとうございます…ところであの~アイリさん?…なにも記憶が無くて…ここはいったいどこなんですか?」

聖女アイリは悲しそうな表情で語る…。

「ここは魔道師カナエルにより、闇に覆われてしまった世界…死者達は町や村を襲い、人々は恐怖に怯え、作物も育てられず、もうどうしたら良いか…。」

聖女アイリはうつむき涙をながした…。

「わかりました、アイリさん…俺、カナエルを倒します!」

ベッドの上に立ち上がり拳を突き上げるひろし。

「いけません!ひろし様!カナエルは恐ろしい術を使い、とてつもなく強い!勝てるはずが…無い…。」

聖女アイリは必死にひろしを止めた。

「大丈夫!必ず倒す!」

自信満々のひろし。

(このお方は止めても無駄…。)

「私も行きます…あなた一人ではいかせません。」

こうしてカナエル討伐の旅に出るひろしと聖女アイリ。

二人は旅の準備を整える為、近くの村へ行く事にした。

その道中、死者達に襲われるひろしと聖女アイリ。

「ケケケ。」

「こいつらが死者か…これでもくらえ!」

ひろしは道端に落ちていた木の棒で死者達に殴りかかる。

「ケケケ。」

死者達にはきかなかった。

うろたえるひろし。

「闇の者達よ、消えなさい!」

聖女アイリの手が光り、次々と死者達を消していく。

そして死者達はすべて消えた。

「ふぅ…大丈夫ですか?ひろし様。」

聖女アイリは、ただ逃げまわっていたひろしを心配した。

逃げまわりながらアイリの手が気になったひろし…。

「だ、大丈夫です…アイリさん、その光る手はなんですか?」

「私は治癒の光術使いです、死者達くらいなら倒せます…ひろし様の術は?」

興味津々の聖女アイリ。

「無いです。」

「え?」

ひろしは術など使えない。

(どよ~ん…。)

聖女アイリは少しだけ驚いた。

(術を使えないのにカナエルに立ち向かおうとするお姿…きっと勇者様…老師様に会えば…。)

「ひろし様、これから向かう村に老師様がいます…きっとお力になってくれます。」

肩を落としてしょんぼりしているひろしを勇気づける聖女アイリ。

(お願い老師様…なんとかしてぇ。)

まだ見ぬ老師に期待するひろし。

村までの道中は死者達に襲われる。

聖女アイリはバタバタ死者達を倒していく。

逃げまわるだけでなんの役にもたっていないひろし。

そもそもひろしは、恐ろしい術を使うと言われたにも関わらず、木の棒一本で立ち向かおうとしていた…ただのアホだった。

そして村に着いた聖女アイリとただのアホ…。

「お久しぶりでございます…ダイドウ老師様…。」

聖女アイリは一人の老人に声をかけた。

「これは、これは聖女アイリ様…おや?こちらの方は?」

ダイドウ老師は古臭い小屋の前につっ立っていた。

「勇者ひろし様でございます…カナエル討伐に立ち上がってくれたのです。」

満面の笑みで言う聖女アイリ。

「これは凄い事じゃ!勇者様はどんな術を使うのでございますか?」

(やっぱり雷?意外と氷?風?なにかなぁ?)

ひろしを見て満面の笑みで期待するダイドウ老師。

「術…使えません。」

グギィ!

「はぅ!」

びっくりして腰が砕けたダイドウ老師…。

(なに?どういうこと?術無しでいくの?なんのしばり?なんだこいつ?アイリ様だまされてる?)

「そ、そうか…では仲間をみつけよ、二人で良い…みつけたらわしのところへ来るのだ…さすれば道が開かれる、となりの町に仲間はいるはず…一人でいくのだ、アイリ様はこの者を待たれよ。」

引き離される二人…。

「ひろし様、必ず戻って来てください…いつまでもお待ちしています。」

聖女アイリはそう言ってひろしを見送った…。

話しの流れに逆えず、ひろしは一人でとなり町へ向かう。

「来るなー!うわー!助けてくれー!」

となり町への道中は当然死者達に襲われるひろし。

ひろしは逃げまわったが、死者達に囲まれ絶体絶命になってしまった。

「も、もうだめだー!」

死者達がひろしを攻撃しようとする…その時…。

スパーン!

ポロポロポロポロ…。

カチン!

「なにをしている?こんなところで…。」

一人の剣士がひろしを救った。

助かったひろしはお礼を言って事情を説明する。

「良かった…聖女アイリ様が生きておられた…話しはわかった、俺は手刀術使いのアリオカよろしくな!」

ひろしの仲間になったアリオカ…。

心強い味方ができたひろし。

二人はとなり町へ向かう。

道中の死者達はアリオカが全部かたづけてくれた。

そして、となり町に着いたひろしとアリオカ。

辺りを見回すアリオカ…。

「この町には名前は知らないがデカイ男がいるはずだ!彼なら仲間になってくれる!」

ひろしとアリオカは町の中を歩き、デカイ男を探していた。

「うっふぅ~ん、お兄さん達、遊ばな~い?」

「た、食べるものをくだされー。」

「なにさぁ。」

なかなかデカイ男は見つからない。

「はぁ…こりゃだめか?」

ひろしが諦めようとしたその時…。

「死者だー!死者達が攻めてきたぞー!」

「いやぁ~ん!助けてぇ~ん!」

「みんなー!早く逃げろー!」

逃げ惑う町の人々…。

「ちっ!死者達め!」

アリオカが死者達と戦う…。

スパーン!

スパーン!

「くっ!数が多い…これじゃ、きりがない…斬ってるのに…。」

苦戦するアリオカ。

バキッ!

ドカ!

「うほ!」

デカイ男がアリオカに加勢する。

アリオカとデカイ男は死者達を町からおい払った…。

「加勢助かった…あなたを探していた。」

デカイ男にお礼を言って、事情を説明するアリオカ…。

「アイリ様は無事に…うほぉ!」

喜ぶデカイ男。

「あなたの名前を教えてくれ!」

デカイ男に聞くアリオカ…。

「ゴリラだ!俺は体が鋼鉄になるマッチョ術使いだ、うほ。」

胸をうほ!

「よろしく頼む、ゴリラ!」

仲間になるゴリラ…。

こうしてひろしは二人の仲間ができた。

(アイリ…今行くからね!)

ひろしはアリオカ、ゴリラと共に聖女アイリが待つ村へ戻る。

道中はアリオカとゴリラが死者達を片付けてくれた。

あと少しの所へ来た時、村から煙が上がっているのが見えた。

「村が大変な事に…アイリぃ!」

ひろしは走った。

「聖女アイリ様!どうかご無事で…。」

アリオカとゴリラも走る。

村は死者達に襲われ人々は息絶えていた…。

「アイリぃ!アイリぃ!」

必死にアイリを探すひろし、ふと見るとダイドウ老師が道端に倒れていた。

「老師ぃ!しっかりしてください。老師ぃ!」

老師の身体を起こしてひろしは叫んだ。

「す、すまぬ…アイリ様は…魔道三人衆に…よ、よいか若者よ…ふ、深い森に…ガク。」

ダイドウ老師は息絶えた。

「くそぉ!…魔道三人衆…許さない!」

ひろしは深い森へ行く事を決意した。

「俺達も行くぞ!」

ひろし達はアリオカの道案内で深い森へ向かう。

「この森には伝説がある…俺は以前、気になって来てみたが、見つける事はできなかった…。」

そう話すアリオカ…。

ひろしは不気味な深い森をへっぴり腰で歩いていた。

「で、伝説…はぁ。」

(うぅ…怖いなぁ。)

バナナを食べながら歩くゴリラ。

「うほ!」

ハァァア!

キャー!

アァ…。

「な、なんか今…変な声しなかった?」

怖くて足がガクガクするひろし。

シャキーン!

「化け物か?来るならこい!」

アリオカは構える。

「うほ。」

体が鋼鉄になるゴリラ。

キャー!

ひろしの前に突然現れた化け物。

化け物は金棒をひろしの頭を目掛け振り落とす。

ドン!

「あ、あぶねぇ…。」

間一髪でかわすひろし…。

「化け物め、これでもくらえ!」

アリオカが化け物に攻撃を仕掛けた。

ばこぉ~ん!

金棒でふっ飛ばされたアリオカ…。

「くっ!…はっ?こいつは赤おびのキード…。」

赤おびのキードは深い森に住む伝説の番人だった。

この世を恨むような恐ろしい顔した赤おびのキード。

「ハァァア!」

ヒュン!

「キャー!」

テレポート術を使いゴリラに襲いかかった。

ガシッ!

赤おびのキードをがっちり掴んだゴリラ。

「早く逃げるうほ。」

ひろしは無我夢中で走って逃げた…。

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