第19話後悔と出逢い

優真からの一方的な別れを告げられた愛梨…。

愛梨は何度も電話を掛けるが優真に繋がる事はなかった…。

自宅の部屋のベッドに顔を埋め泣き崩れる愛梨…。

(どうして…なの?…私は遊ばれてただけ…。)

愛梨は傷つきその日は眠れなかった…。

愛梨は脱け殻のように元気が無くなる…。

次の日の仕事は空元気で乗り越えた…。

そして週刊誌が朝一番に…コンビニに並ぶ。

愛梨は失恋で、相変わらず気が重かったが仕事に行く為用意をしていた。

その時電話が鳴った…。

愛梨は優真からとの期待を胸にスマホを見る…。

優真からではなく、大道マネージャーからだった。

電話にでる愛梨…。

愛梨の言葉を待たず、大道は怒鳴り声を上げていた…。

「さっさと支度して外にでてろぉー!もうすぐ着く。」

そう言われて電話が切れた。

愛梨は訳がわからないまま急いで支度をして外で大道を待つ…。

間もなくして大道の車が勢いよく愛梨の前に停まった…。

後部座席に乗る愛梨…。

大道はおもいきり愛梨に向かって週刊誌を投げつけた…。

「なにやってんだ、ばかやろう!こんなもの撮られやがって…。」

大道は勢いよくアクセルを踏み車を走らせた。

投げつけられた週刊誌を開く愛梨…。

持つ手が震える…。

(あ…あの時の帰り…いつの間に…なんなのこの記事…ひどい…。)

大道はルームミラー越しに愛梨を見る…。

「覚悟しておけ…作田常務に呼ばれた…。」

常務取締役…作田 厚。

相田プロに尽力して会社を大きくさせた有力者の一人。

普段は温厚で大体の事には目をつぶる。

だが、1つだけご法度があった。

それは、ひろしと同様…アイドルが恋人を作る事…。

大道は作田常務を知っている…。

愛梨と大道は、気が重く、重い足取りで、相田プロ本社の常務室へ向かう…。

コン!

コン!

コン!

大道が常務室の扉をノックして入る…。

震える大道の声…。

「し、失礼致します…。」

暗い表情で元気のない愛梨…。

「…失礼…します。」

作田常務は皮張りの高級ひじ掛け椅子にひじを掛け、

二人を睨んだ…。

「そこに座れ。」

愛梨と大道はうつむきながら、応援椅子に座り無言。

作田常務は最近ハゲてきてボウズ頭にしたばかり…。

いかつい顔にボウズ頭はダブルパンチだった。

さらに怒るとドスを利かせまくし立てる…。

「おまえらぁー!アイドルって仕事…わかってねぇのかぁー!…アイドルってのはなぁ、夢を売るんだよ!…疑似恋愛させるんだよ!ふざけんじゃねぇぞこの…そんなはっきり男がいる女なんか誰が追いかけるんだ?このばかやろうがぁ!大道ぉー!てめぇなにやってやがった?あんな三流なんかに載せられやがって…愛梨ぃ!お前はしばらく謹慎だ…仕事は全部他の人に差し替える…大道ぉ!てめぇはもう外れろ、他のマネージャーやれ…話しは終わりだ…帰れぇ!てめぇら。」

謹慎を言い渡された愛梨…。

優真を失い…仕事も失い…人気アイドルの座も失う…。

無言のまま大道に送られ、自宅に帰って来た愛梨…。

愛梨の心はもう…ずたぼろのぼろ雑巾のようだった。

なにも手に付かず、食事も喉を通らない…。

ただひたすらに後悔の念と涙が溢れてくる。

そんな日々を過ごしていた。

ある日の事…。

謹慎生活は忙しかった愛梨の身体を休ませ、心も少し落ち着きを取り戻していた…。

電話が鳴る…。

愛梨はドキッとして恐る恐るスマホを見る…。

相田プロからだった…。

電話の相手は新しく愛梨に付く新人マネージャーの池内…。

謹慎が解け、小さな日帰り営業がぽつらぽつら入っているとの事だった。

夢を捨てきれない愛梨は小さな仕事も受け入れる。

少し前の華やかな物ではなかったが、愚痴を言わず、

真剣に仕事に向き合う。

忙しかった頃と違い時間に余裕のある愛梨…。

元々アイドルが好きな愛梨は暇を持てあまし、スマホでアイドルの動画サイトを見る様になっていた。

ある日の事…。

スマホでアイドル動画を探す愛梨…。

(ん?あぁ!この娘可愛いなぁ…平間 愛…所属は相田プロ…私の後輩かぁ。)

またある日の事…。

愛の動画を観る愛梨…。

(歌も上手…振り付けも凄い…きっとまり子先生ね…ふふ…愛ちゃんも泣いたかな?)

またまたある日の事…。

愛の魅力に惹かれていく愛梨…。

(これは深夜の放送かぁ…とりあえず録画予約をして…10分?撮りためてまとめて観よ。)

動画だけでなくテレビもチェックし、すっかり愛のファンになった…。

またまたまたある日の事…。

あの旅番組をまとめて観る愛梨…。

(愛ちゃん船酔いしてない?…どうしてバスローブ?…あらら…良いよなんか言ったらだめだよ…凄ぉい!…一気に人が集まってる…愛ちゃん人気者だぁ…あぁ打ち切りかぁ…しょうがないね。)

またまたまたまたある日の事…。

愛の旅番組の裏を話した動画を観る愛梨…。

スタッフからの質問形式で、スタッフの声はカットされ字幕になっていた。

あの旅番組どうだった本音を聞かせて?

「え?ほんとに言って良いの?…言っちゃうよ…最低な番組だったよ。」

どんな所が?

「とにかく適当なの…泊まる所なんてネットカフェとカプセルホテルだよ…あとラブホテルにも泊まらせたんだよ…ほんと信じられない。」

え…ラブホテル…バスローブのシーンはひょっとして?

「そうだよ…あれ…ラブホテルで撮られた…ヒゲとカメラマンと私だけの三人で…怖かったぁ。」

抱かれた?

「そんな訳ないだろ!抱かれてあんなの撮れるかぁ!」

撮った後、抱かれたとか?

「だから抱かれてないっての!すぐ出て行ったもんあの二人…。」

使った?

「なにをだよ?」

手動?

「はぁ?」

あとは?

「無い。」

愛梨は自分には無いものを持っている愛を大好きになる。

愛の出演している番組を欠かさず観る愛梨…。

自分とは違う魅力で人気アイドルになっていく愛に憧れを抱く。

愛梨はいつか逢えるようにと願い、細々と小さな仕事を頑張っていた。

だが、

一度転落したアイドルに吹く世間の風はあまりにも冷たかった。


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