第16話ずっと…大好き

不安な気持ちを拭い切れないまま、愛は寮に帰ってきた。

暗い部屋の中、着替えもせず、真っ直ぐベッドに寝転び天井を見つめる…。

(アイリ…泣いてたな。)

(こんなのが俺の望んだ事なのか…。)

(…違う…違うんだ…本当の俺は…)

「愛よ。」

カナ・エールが現れる…。

愛は身体を起こし、ベッドに座ってうつむいた…。

(もう消すなら消してくれ。)

カナ・エールは愛になにかを渡す…。

無言で受け取る愛…。

(…。)

「すでに夢は儚く…散っていた。」

「繋ぎ止めるか…消えゆくか…。」

「お前が決めよ。」

そう言い残し…カナ・エールは消えた。

愛は渡された物を確認するため明かりをつける…。

(これは…ボイスレコーダーか。)

再生ボタンを押す愛…。

「あぁーうめぇ!冷えてんなぁ。」

「おぉほんとだ、冷えたビールは最高だ。」

(桜庭ゆうま!…もう一人は誰だ?)

(なんで今こいつの声を…。)

愛はどきどきしながらボイスレコーダーの声を聞く。

「なぁ、アイリちゃんと仲良くやってんの?」

「はぁ?テレビも週刊誌も見てねぇのか?」

「見る訳ないだろ、こないだまで映画で海外だし、その後すぐドラマだし。」

「そうか…教えてやるよ…もうとっくの前に捨てた。」

「えぇ?捨てた…もったいねぇ…なんで?」

「つまんねぇんだ、あいつ、それにもう用済みよ。」

「なんだよ用済みって?」

「あいつ人気アイドルだっただろ…付き合ってりゃあメディアが嗅ぎ付けてくる…スクープされて俺の名前は全国よ。」

「はぁ…炎上商法か。」

「謝罪動画でオタども煽って更に大炎上…俺のファン擁護…ますます有名になる俺…うひゃひゃ。」

「アイリちゃん可哀想…こんなバカに引っ掛かって。」

「賢いんだよ…アイドル引っ掛けるのなんか簡単よ、連絡先渡したらすぐ食いついて来たぜ…もらっておいて連絡しないのもな…だってバカだよね。」

「アイリちゃん、お前に悪いと思ったんだろ!バカじゃねぇよ、純粋なんだよ、バカはお前だ。」

ボイスレコーダーの声は切れた…。

(なんて奴だ。)

(くそ…アイリは捨てられてたのか。)

(そうとも知らず、俺はアイリにひどい事…はっ?…こんな奴だ、きっとアイリは傷つけられたよな。)

(なんか嫌な予感がしてきた…。)

(…謝りたい…アイドルでいて欲しい。)

(俺はやっぱり…アイリが好きだ!)

(早く朝になってくれ…。)

(悪い予感が止まらない…。)

愛は眠れない一夜を過ごす…。

そして朝が来た…。

ゴスロリ服に身を包み、ボイスレコーダーを可愛い肩掛けバックに入れる…。

(これを大道さんに渡すか…。)

愛は寮を出て走った…。

(俺を迎えに来る前に会社にいるはず…。)

走って相田プロ本社を目指す…。

(頼む…居てくれよ。)

ひたすらに走る愛…。

(…着いた。)

「はぁ…意外と遠かったなぁ。」

相田プロ本社に愛は、急いで入ろうとする。

自動ドアの動きがおそく感じた。

(どこだどこだ…あ!)

大道はロビーを歩き部署に行こうとしていた。

「大道さん!」

大声で叫び大道に近づく愛…。

愛の声に気づき、振り向く大道…。

「なっ…どうしたなにかあったか?」

愛はバックからボイスレコーダーを取り出し、大道に渡す…。

「アイリは?」

「アイリの居場所…わからない?」

無意識にボイスレコーダーを受けとる大道…。

「アイリ?」

「あっ!お前、昨日アイリになにか…」

愛は大道の言葉を最後まで聞く事なく、本社から走って飛びだす…。

(アイリ…どこだ。)

(悪い予感が止まらない…。)

愛は無意識に近くの駅まで走っていた…。

(どこだ…どこに居る。)

アイリがいる保証なんて無い…。

だが、愛はがむしゃらに駅の中を探した…。

(頼むよ…居てくれよ。)

(アイリ。)

(いないか…あ!ホームは…。)

バックから財布を取り出し、愛は適当に切符を買った…。

駅のホームに向かう…。

(頼む…居てくれ。)

愛の願いが叶い、アイリはホームに居た…。

寂しそうにぽつんと一人佇むアイリ…。

愛は大声でアイリの名を呼んだ…。

「アイリぃー!」

アイリは我に帰ったように愛の方を見た…。

「…愛さん。」

「どうしてここに?」

愛は走ってアイリに近づき、

アイリを抱きしめる…。

「ごめんなさい。」

「アイリ…お願い…アイドル辞めないで!」

アイリはその言葉を受け入れなかった…。

「もう…いいよ…」

「私…もう諦めたの。」

愛はさらに力強く抱きしめ叫ぶ…。

「そんな事言わないで!」

「俺…ずっと応援するから…」

「いつまでもアイリのこと…大好きでいるから…」

「だからお願い…アイドル辞めないで!」

眩い閃光が辺りを照らす…。

愛は実家の自分の部屋に居た…。

「あれ?」

(自分の部屋…?)

カナ・エールが現れ愛に質問をする…。

「お前の望む姿はなんだ?」

愛は答える…。

「俺は…アイリのことを、ずっと大好きな男でいたい。」

カナ・エールの目が光る…。

明るい空に眩い閃光が走り、すべてを照らす…。

人々から愛の記憶は消えた…。

「鏡を見よ。」

カナ・エールは魔道の力で全身鏡を召還する。

鏡を覗く愛…。

(うわ!)

「元に戻ってる…。」

「あら~。」

カナ・エールは鏡を消す…。

「愛の存在は消えた。」

「無になったのだ。」

ひろしは少しがっかりした。

(愛の存在が全て消えたのか…。)

(頑張ってきたことが全部無くなった。)

肩を落とす…が、

すぐにアイリのことを想いはじめる…。

(まぁいっか…アイリのこと抱けたしなぁ。)

(アイリの身体…細かったぁ…むふふ。)

カナ・エールは、ひろしに怖い目をして顔を近づける。

「まじきも。」

「なんか臭いし。」

吐き捨ててカナ・エールは消えた…。

(ひどい…。)

元の姿、元の日常に戻ったひろし…。

捨ててしまったアイリのグッズをまた買いに、ひろしはとなり街に向かうのだった。

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