第15話愛し過ぎたゆえに

愛の人気は留まる事を知らない…。

会社はここぞとばかりに愛に歌わせCDを発売する。

デビュー曲を含む12曲入りベストアルバムが発売された…。

それを記念に愛のライブが決まる。

相田プロ主催…所有する相田記念会館での単独ライブ。

愛と大道は相田プロ本社で動画の撮影の合間、小会議室で、休憩がてら単独ライブの話しをする…。

「チケットは完売だそうだ…思ってた以上に早かったなー。」

「幹部の連中は、もうルンルンだ…ギャラも上がる…良かったな、愛。」

大道は笑顔を見せ、愛を喜ばせようとした。

愛は真顔で大道を見つめ質問をする…。

「ねぇ…単独ライブにゲストは呼べないの?」

笑顔からキョトンとした顔になる大道…。

「ゲスト…?」

「誰か来て欲しい人でも居るのか?」

「加藤…アイリ…。」

「ずっと憧れてた人…大好きだった…。」

真剣な眼差しで見つめる愛…。

大道はあごに手をあて考える…。

(アイリか…。)

(憧れてた人…うーん…呼べなくもないがなぁ…アイリにとっては大勢の前に出るチャンスかぁ…。)

(先輩からの初ライブ祝いにでもするか…。)

「わかった、アイリのマネージャーに連絡してみる。」

「愛が呼びたいって言ってると言えば、会社もOKだすだろう。」

大道に見えないよう頭を下げ、髪で顔を隠した愛…。

「よろしく…お願いします。」

(今の俺はトップアイドル…)

(アイリはどんな顔するかな?)

(せいぜい悔しがる顔を見せてくれよ。)

含み笑いで復讐を企む…。

アイリはオファーを受け入れた…。

そして…

単独ライブ打ち合わせの日…。

午前中はゲーム番組…ゲーム買ってよGOに出演する愛…。

芸人…チート村岡が司会をする。

「始まりました。」

「非対称対戦ゲーム…DDD対決ぅ~!」

レギュラーのプロゲーマー…タニシと、

ギャルゲーマー…羽子が盛り上げる。

「イェーイー!カチカチぃ。」

「ちょべりぐー!」

パソコン4台がそれぞれの台に置かれ、各自座っている…。

チート村岡がテレビカメラに向かい拍手をする…。

ぱち!

ぱち!

「本日のゲストプレイヤーは…愛姫でーす。」

タニシは頭に巻いていたBANダナを振り回す…。

「イェーイヒャッホーあい姫ぇー!姫!、姫!うおー。」

ガン!

パソコン台に手をぶつけた…。

唖然とする愛…。

(…。)

「よろしく…お願いします…。」

非対称対戦ゲーム…DDD…一人が狩人をプレイし、

逃げる狩られ人を、縄で柱にくくりつけ全滅を狙う。

残りの三人は狩られ人をプレイする。

フィールドに張り巡らされた配線ケーブル5本を切り、電流門から逃げる。

縄で3回くくられると終わり…他の人を助ける事可能…。

狩られ人をプレイする愛…。

(怖いの苦手なんだよなぁ。)

(…うわ!来た。)

「あわわわ…助けてぇー!」

ひたすらパソコンに向かう4人の絵づら…。

初回にして最終回になった。

愛は午後から、相田プロ本社での、単独ライブ打ち合わせに向かう…。

本社に着いた愛は、大道と会議室までの廊下を歩く…。

さまざまな想いが愛の心に渦巻いていた…。

(いよいよ逢えるんだな…アイリ本人に…。)

(俺が受けた苦しみと悲しみ…必ずぶつけてやる!)

会議室の扉を開く…。

スタッフ数名と加藤アイリが談笑をして、主役の愛を待っていた…。

愛に挨拶をするスタッフ。

加藤アイリをただ眺めてしまうだけになる愛…。

(…。)

(本物…可愛い。)

画面の中のアイリとは当然違う…。

本物を目の前にした愛は衝撃をうけた。

クリーム色のニットで黒のショーパンに黒ブーツ…。

艶やかな長い黒髪…。

私服の可愛い加藤アイリは笑顔で、ぼぉ~とつっ立っている愛に近づき、挨拶をする。

「初めまして…加藤アイリです。」

「いつも見てますよ…愛さん。」

愛はアイリの声で我に帰り、挨拶を返した…。

(…。)

「は?」

「あ…初めまして…平間 愛です…。」

少しの沈黙…。

大道がイスに座り声をかける。

「とりあえず、愛もアイリも座って。」

打ち合わせが始まる…。

アイリは真剣に参加している…。

「ここで愛さんに花束わたすんですね?」

「少しトークして歌う…。」

「お友達な感じでいっても良いですか?」

「…愛さん?」

アイリを眺めて上の空だった愛。

(真剣だなぁ…可愛いなぁ。)

(…くっ!)

(だけどアイリはもう…あの野郎の…。)

(ちくしょ…ちくしょー!)

アイリの顔を眺めていると悔しくてしょうがない…。

仲良くしたところで、所詮ゆうまの彼女…。

更に今は女の娘。

アイリがふて腐れた態度だったら、それを理由に怒りもぶつけれただろうが、アイリは真剣…。

しょぼい予想が外れた愛は苦しんだ。

アイリと仲良くもできず、一人で勝手に苦しんでいる愛…。

ステージでのリハーサルも、ながら作業でアイリを眺める…。

真剣な眼差しで、リハーサルに打ち込むアイリ…。

ぼぉ~っと、つっ立っている愛。

(なんか切なくなってきた…。)

(あーダメだ、ライブ失敗はだめだ。)

(…がっかりするよな…みんな…絶対ダメだ。)

応援してくれるファンや愛に尽くしてくれた人達の事を思い出し、リハーサルを真剣にする事にした愛。

アイリとは軽いトークの合わせだけで、仲良くはできなかった。

結局、仲良くもできず、気持ちをぶつける事もできず、単独ライブ本番の日を迎える…。

本当は、アイリの事が大好きで大好きで、しょうがない愛…。

だが、熱愛報道がテレビから流れてきた時のショックで泣き崩れた深い悲しみや、苦しみも心の中にある…。

モヤモヤしながら始まる単独ライブ…。

相田記念会館は愛のファン達で埋め尽くされている…。

♪ー

曲が流れ始め…。

響き渡る雷鳴のような愛コール…。

愛ぃーーー!

愛ぃ!

(ふぅ…凄い声援だな…みんなありがとう…)

(なんか…わくわくしてきた!)

スポットライトがフリフリキュートで可愛い衣装の愛を照らす…。

あぁーーいぃーー!

キャーーーー!

♪「いつまでも君を忘れぇないわ…」♪「離ぁれても…」♪「心に残るぅ…あの日の笑顔ぉ…」

ハイ!

ハイ!

あーいー!

♪「急に居なくなぁってしまう…」♪「あなた…」

♪「今も元気にしてる…」♪「私は待つわぁ…」

おぉーっハイ!

♪「いつまでも…」

新曲ラブウェアーから始まった愛のライブ…。

愛のファン達は熱狂的に盛り上がる…。

マイハート…。

♪「そばに…居て欲しい…」♪「愛しい…」

しんみり…。

愛デンティティ…。

♪「不…思…議なぁ女の娘ぉ」♪「ちょっぴぃりぃ」

♪「ピーなぁ…」

愛!

ハイ!

愛!

ハイ!

ライブでファン達と盛り上がる曲…

そして…。

トークタイムからアイリを呼ぶ…。

「みんなぁ盛り上がってるぅ?」

イェーイ!

愛ぃー!

愛は笑顔でノリノリ…。

「イェーイ…あはは。」

「今日は来て頂きありがとうございます。」

「えぇ…なんと!初ライブということで…私の先輩アイドル…アイリちゃんがお祝いに駆けつけて来てくれましたぁー!イェーイ!拍手~。」

アイリが花束を持ってステージに登場…。

愛に花束を渡すアイリ…。

「愛ちゃーん。」

「初ライブおめでとー。」

おぉー!

アイリぃー!

愛ぃ!

アイリがステージに現れ、愛のファン達は盛り上がった。

「愛ちゃんまり子先生に教わったでしょ?」

「私もなの…厳しいよねぇー。」

「ほんとに辛かった…」

ワハハハ!

「あぁ!笑うけどねぇ…ほんとに厳しいんだから…鬼ババなんだよ…あ?…。」

(やべ…本音でちゃった…怒られる。)

ワハハ!

「せっかく来て頂いたので…アイリちゃんに歌ってもらいましょー!」

イェーイ!

アイリー!

アイリの曲が流れ、スポットライトはアイリを照らす。

愛はスタッフに花束を渡しアイリの歌を聴く…。

辛く、苦しい時、いつもアイリの歌を聴いては元気を取り戻していた愛…。

アイリを追いかけ、アイリ一筋だった頃を思い出す。

嬉しくもなり、悲しくもなり、辛くもなる。

「アイリちゃん…ありがとうございましたぁ!」

アイリは愛のファン達に一礼してステージから去っていく。

イェーイ!

ぱち!

ぱち!

後半もファン達は熱狂的に盛り上がる。

ハイ!

ハイ!

ハイ!

「みんなぁ~!」

「今日は来てくれてありがとね!」

「ばいばーい!」

あーい!

はーい!

愛の初ライブは無事に終わった…。

DVD特典のライブ後のインタビューが待っている。

愛は小さな控え室で休憩に入る。

大道も居た…。

「凄い盛り上がりだったな…いゃあー良かった。」

愛はイスに座って、どこか遠くを見つめていた…。

(もう…アイリには逢えないのか…寂しい…。)

(アイリと一緒に居たいよ…どうして…どうして…あんな男に…。)

(なんで走ったんだよ…アイリ。)

盛り上がった後の静けさは、寂しさを増幅させる…。

コン!

コン!

コン!

控え室の扉をノックする音…。

大道は扉を開けた…。

「はい。」

「お?アイリ…お疲れさん…。」

アイリは、愛に挨拶をするため控え室に来た。

「愛さん。」

「呼んで頂き…ありがとうございました。」

頭を下げるアイリ…。

「大道さん…アイリさんと二人で話ししたい…。」

(女同士の話しか…。)

「わかったよ。」

大道は控え室を出ていった…。

アイリは笑顔で愛を見つめる。

愛は悲しげな表情をして、扉の前に立つアイリに近づく…。

(どうして…どうして…)

(その笑顔がもう…辛い…。)

「どうして男なんかに走ったの?」

「アイリは裏切った…。」

「あんたと私は…名前がかぶってる…ほんと迷惑。」

「もう…アイドル辞めちゃえば。」

大好きなアイリに放ってしまう、

自分のモヤモヤした心の叫びと、

どうしようもない苦しさからくる、

素直になれない裏の言葉…。

アイリの目から涙が溢れてくる…。

「…愛さん。」

「今日はほんとにありがとうございました…。」

一礼して控え室から出て行くアイリ…。

愛は立ち尽くしたまま扉を見つめていた…。

(これで良かったんだよな…)

(言いたかった事は言えた…。)

(…心が晴れない。)

頃合いをみて大道が控え室に戻ってくる。

「どうした…疲れたか?」

「そろそろインタビューにいくぞ。」

(なんだろう…この不安。)

愛は不安な気持ちを残したままインタビューを受け、

寮に帰れたのは深夜だった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る