第12話旅の終わり…人気アイドルへ
愛が販売旅にでてから数週間後…。
大道マネージャーは、上司の清水部長に呼ばれた…。
不機嫌な部長は腕を組みながらため息をついた。
「はぁ。」
「なぜあんな番組に、平間 愛を出演させた?」
「支部長がウホウホ怒ってきたぞ。」
「違うのとってこいとよ。」
大道は自信ありげに言葉を返す。
「部長。」
「自分の感では、ございますが、」
「愛は、必ず売れます。」
「最初のきっかけが、あの番組なだけです。」
「問題ございません。」
「失礼します。」
大道は一礼してその場を去る。
(絶対売れる。)
(自分でも不思議に感じるが、)
(不安はない。)
…
マネージャー歴の長い大道…。
その感は当たっていた。
…
北の大地を数件回った愛は、東北地方に来ていた。
いつものようにデビュー曲を歌い、自ら販売する。
「みなさぁ~ん!」
「応援よろしくお願いしますぅ!」
(あーしんどい…。)
(まだ東北…。)
ちらほら集まる人々…。
…
「わさいちまいけれ。」
…
「なはめんこいな。」
…
「んだんだ。」
…
出身が違うので正直わからない愛…。
「ありがとうございますぅ…はは。」
…
外国人男性もいた。
「Je veux te tenir ce soir 」
愛は苦笑い…。
(またか。)
(わかんねぇっての!)
「1枚1000円ですぅ~。」
目を見開き肩をすくめる外国人男性。
「quelle?」
…
「quelle?」
…
イラつく愛…。
(日本語しゃべろー!)
「だぁかーらー。」
「1000円!」
都合良く解釈する外国人男性。
(dakara?…daccord!)
(7EURO?)
「Yay」
愛のCDをニコニコ顔で買う…。
「hotelekimae303」
外国人男性は去っていった…。
…
(駅前ホテルばっかり…。)
それはわかった愛。
…
東北地方を適当に回り、ステージトラックは中部地方に向かって進んで行く。
…
ステージトラックの助手席で、愛は景色を眺めながらいろいろ思い出していた…。
(ほんとふざけた番組だ。)
(ゆっくり寝たいなぁ。)
(カプセルホテルに、)
(ネットカフェばっかり…。)
(ビジネスホテルが良いなぁ。)
(また違うホテルじゃないだろうな?)
(普通…あんな所に泊まらせるか?)
…
それは北の大地の、とある町…。
熊田は、困った顔をしながら愛に伝える。
「愛ちゃん。」
「わりぃ。」
「ここら辺で泊まる所、」
「ここしかないんだよねぇ。」
スマホを見せ、指を差す熊田…。
スマホの画面を見る愛。
(素敵な一夜を…)
(…ラブホテル。)
(なに考えてんだこいつ。)
「はぁ?」
「嫌ですよ。」
「なに企んでるんですか?」
「こえぇわ!」
疲れも入ってイライラしている愛。
「大丈夫。」
「撮影するだけだから。」
「終わったら一人で部屋使って良いよ。」
「俺たちは車で寝るから。」
「わっはっは。」
「さぁ行きましょ。」
熊田は、明野の運転する車に乗る。
愛は、適当に見つけた空き地に停まっている、
ステージトラックキャビンベッドでくつろぐ五郎に伝える。
「五郎さん。」
「今日は私、ホテルだって。」
(もう寝てる?)
「また明日よろしくお願いします。」
「おやすみなさい。」
五郎は半分寝ていた。
「…はい。」
「お疲れさん。」
…
愛は熊田達の車に乗り、ラブホテルへ向かった。
(なんの撮影するんだよ。)
…
カーテンで目隠しできる駐車場に停まる…。
階段を上がり部屋に入る、愛とヒゲと暗顔カメラ…。
(初めて入った。)
(へぇ~キレイなんだな。)
(ベッドのところに鏡?)
(なっ!、あれは…。)
(…。)
(自販機の中はなにか…!?)
(やば…見るのやめよう。)
初めて見る物ばかりの部屋…。
ヒゲヅラ熊田が備え付けのバスローブを手に取る。
「愛ちゃん。」
「着替えて。」
バスローブを愛に渡す熊田…。
受け取り、立ち尽くす愛…。
(これを着ろってか?)
(なにさせる気だこのやろー。)
バストイレ付き洗面所へ向かう愛。
(…。)
…
「着ましたけど…。」
ふてくされまっしぐら…。
熊田は笑顔…。
「ベッドの上に色っぽく座って。」
「肩ちょっとだそうか。」
「わっはっは。」
バスローブを少しずらし肩を出す愛…。
(違う番組になるだろ。)
明野がカメラを愛に向ける…。
「Cmいく時使うから。」
「Cm明けも使うけど。」
「愛ちゃん。」
「笑顔で、両手振って。」
愛はひきつり笑顔でカメラに向かい両手を振る…。
(10分番組なんだろ?)
(Cm挟むのかよ!)
(なんだこれ?)
…
「はい!」
「おっけぃ。」
「それじゃお疲れさま。」
「明日適当に車に来て。」
…
備え付けの電話で話す熊田…。
「三人分とっても良いですよ。」
「ロック外してください。」
オートロックが外れ、熊田と明野は部屋からでていった…。
肩を出したまま呆然の愛…。
(…。)
…
ステージトラックの窓に向かってため息をつく。
「はぁ~。」
「帰りたい…。」
五郎はハンドルを握りながら笑った。
「でっけぇためいき、はは。」
「愛ちゃん。」
「楽しいべさ。」
「いろんな所さいけるし、」
「いろんな人と出会えるべ。」
…
中部地方、近畿地方、中国地方と数週間かけて回る…。
その間も番組はOAされ、朝寝夜起きのオタクな人達に愛は知られる。
可愛い顔と歌の上手さ…。
一流の振り付け…。
不思議な魅力に愛の虜になっていく人達。
反響の無かった動画の閲覧数も伸びていき…。
愛の人気は、どんどん上がっていく。
大道マネージャーは、愛が帰って来た時の為に、
有名音楽番組のプロデューサーや、
他の番組のプロデューサーなどと、
交渉をしていた。
売れると思っていたのは、大道だけではなく、
有岡も愛は売れると思っていた。
いずれライブができるよう曲を作り、愛の帰りを待っている…。
…
ステージトラックは日本海側を走り、九州地方で折り返し、太平洋側を走って関東地方を目指す。
近畿地方まで戻って来た頃には、愛の知名度はかなりのもので、ステージトラックライブはファンで盛り上がってしまい、店に迷惑をかけてしまう。
熊田は撮影を打ち切りにした。
その日の夜…。
適当に見つけた居酒屋で打ち上げをする。
個室のテーブルに並ぶ、
刺身の盛り合わせや、唐揚げなど…。
熊田はビールを持ち、乾杯の挨拶をする。
「愛ちゃん。」
「五郎さん。」
「本当にお疲れさまでした。」
「今日をもちまして、」
「撮影は終わりとします。」
「適当な番組にお付き合いいただき、」
「ありがとうございました。」
「明野もお疲れ。」
「最後も適当ということで…。」
「乾杯!」
愛はオレンジジュースを持ち乾杯をする。
「乾杯。」
(やったぁー。)
(やっと終わった…。)
(ながすぎるんだよ!)
(ったく。)
…
…
そして…。
関東地方に戻った愛…。
ステージトラックは相田プロ本社の駐車場に停まる。
と、同時に五郎との最後の別れ…。
人気アイドルになった愛は、
大道マネージャーが送り迎えをする。
帰ってくる途中、
会社から容赦なく契約終了の電話がかかってくる…。
愛は助手席で聞こえていた…。
キャビンの中で五郎さんに感謝の思いを伝える愛…。
「五郎さん。」
「お疲れ様でした。」
「本当に今まで…」
「ありがとうございました。」
…
五郎の目は涙を溜めていた…。
「なんもだよ。」
「愛ちゃんの運転手できて、」
「たのすかった…。」
「頑張ってな。」
…
愛は、スポーツバッグを手に取り…
キャビンから降りた…。
(さようなら…。)
(五郎さん。)
…
…
愛は、大道マネージャーのところへ行く…。
愛の帰りを駐車場で待っていてくれた。
「お疲れさん。」
「明日からレコーディングだ。」
「今日は帰って休め。」
「ここからが本番だ。」
…
愛もうすうす気づいていた…。
(忙しくなりそうだな。)
(…。)
(人気アイドルか…。)
(あの頃のアイリと同じ…。)
…
大道マネージャーの車に乗り、
久しぶりの我が家へ帰った愛…。
母は、愛をねぎらい、
ご馳走を用意してくれた。
…
母と一緒にご馳走をつまみながら、
録画していてくれた自分の番組を見る…。
(外国人男性は、)
(なんて言ってたのかな?)
…
画面の字幕を読む…。
(君、可愛いね。)
(今夜抱きたい…。)
(…。)
(もう一人は?)
(…。)
(今夜抱きたい…。)
(…。)
「同じ事言ってんじゃねー!」
テレビに向かって突っ込む愛…。
…
わからない言葉には、気をつけようと思う愛だった。
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