第11話適当な番組
相田プロ本社の駐車場にステージトラックが、
エンジンをかけたまま停まっている。
愛は助手席に乗り、スポーツバッグをキャビン後ろのベッドに置く。
運転席には、田中五郎が乗っていた。
「五郎さんだと安心だわ、よろしくお願いします。」
挨拶をする愛。
五郎はどや顔をする。
「トラック転がし、よんずぅ~ごねん。」
「まかすなさい!」
ブォン
ブォン
ブ~ン!
ステージトラックを走らせる五郎。
愛は始めて乗るトラックの大きさに興奮しながらも、
外の景色を眺め思いにふける…。
(新人アイドルか…。)
(まさかこんなことになるとは…)
(夢にも思わなかった。)
(あの魔道師…。)
(なにを企んでいるんだ?)
(はぁ。)
(考えてもしょうがないか…。)
(消されないように頑張るしかない。)
…
走ること約2時間…。
ステージトラックはフェリー乗り場に付く。
五郎は独り言を言いながら、キョロキョロ外を見ていた。
「たすかここで待つ合わせのはんずだが?」
「あのふたりかぁ?」
「そうだがんや、カメラ持っとるわ。」
「愛ちゃん、デレクターさんでないかい?」
…
愛は、トラックから降りて二人を見る。
男性二人が愛に近づく。
ヒゲぼーぼーの男が愛に声をかける。
「いやいや立派なトラックだ。」
「さすが相田プロだね。」
「愛ちゃんでしょ?」
「ディレクターの熊田です。」
「わっはっは。」
愛は戸惑いながら挨拶をする。
(なにこの適当感…。)
(さすが深夜10分だわ…。)
(はぁ。)
(めんどくせー。)
「は、始めまして。」
「このたびは、ありがとございます。」
「よ、よろしくお願いしますぅ。」
(なんか嫌になってきた…。)
暗い顔をしてカメラを持っている男が愛に挨拶をする。
「明野です。」
「撮れだか期待しません。」
愛は開いた口がふさがらない…。
(ひどすぎないか…。)
…
熊田はさっそく仕事を愛にふる。
「オープニングここで撮ります。」
「適当でいいんで。」
「はい、いきます。」
あたふたする愛。
(ちょっと待てこの!)
明野が愛にカメラを向け、熊田がキューだしをする。
「3、2、1、キュー。」
苦笑いで手を振り、カメラを見る愛。
「どうもぉ~。」
「新人アイドルの平間 愛です。」
「よろしくぅ~。」
「これからき…」
ディレクターが手をたたく…。
「はい!」
「次はフェリーのデッキで撮ります。」
話してる途中で切られる愛…。
(おい!)
(ふざけんな。)
…
ステージトラックとワゴン車…
そして、
愛と五郎…
ヒゲと暗い顔を乗せたフェリーは出航した…。
熊田は愛に言う。
「部屋に荷物置いたらデッキに来て下さい。」
…
熊田に言われた通り、個室の部屋に荷物を置き、
デッキに向かった愛。
海は少し荒れていた…。
明野がカメラを愛に向け、
熊田が、愛に指示をだす。
「どこに行くか、言って下さい。」
「3、2、1、キュー」
揺れるデッキでカメラを見る愛…。
「は~い。」
「これから私…」
「は…北の大地…」
「を…目指し…ま…ぅ…す。」
(う…やばいやばい。)
(早くぅ~。)
青ざめてる愛。
…
青ざめた熊田。
「お…け…。」
でそうな明野。
(うぅ。)
一目散に部屋に戻る、青ざめた人達…。
…
フェリーに揺られ約1日…
(暇すぎる…。)
(長い…。)
…
ようやく着いた北の大地…。
フェリーから降りても、揺れてる感覚に落ちる愛。
熊田は、あらかじめ許可のとってある場所を、五郎に説明していた。
「運転手さん。」
「ここね。」
地図を指差し五郎に見せる…。
「はいはい。」
「わかったよぉ。」
「オラはどこでもいけるべ。」
運転手歴よんずぅごねんは、いろんな場所を知っている。
ステージトラックは、とある町の、とあるショピングセンターに向かう…。
(あぁ~。)
(移動長い…。)
海沿いを約1時間走らせた所にある、賑わっているような、いないような町のショピングセンターに着く。
ステージトラックのウイングが開き、熊田、明野が、いろいろ準備をする。
…
「愛ちゃん。」
「適当にやって。」
「合わせるから。」
「わっはっは。」
熊田はそう言ってスタンバイする。
「カメラ良いです。」
明野はステージにカメラを向ける。
…
愛はステージに上がり、マイクで呼びかける…。
(適当にって…。)
「みなさ~ん。」
「こんにちは。」
「新人アイドルの、平間 愛でぇ~す。」
(全然人いない…。)
…
買い物客が、興味本位で、ちらほら集まってきた。
…
「なんだ?」
…
「あら?可愛い娘だべさ。」
…
「WHY?」
…
集まること十数人…。
…
愛の初舞台が幕を開ける…。
…
愛は作り笑顔…。
(なんだかなぁ…。)
「これから私のデビュー曲を歌いまぁ~す。」
…
パチパチ!
…
「いいどぉ~!」
…
客達のささやかな声援。
…
マイクを握る力が強くなる愛…。
(ふぅ。)
(よし!)
(歌うか。)
「それでは聴いてください。」
「激しくミツメテ…。」
♪~。
…
♪ー。
…
♪「あなたの才能ぉ~。」♪「見抜ぅけない私…。」
♪「いつもぉ~文句言っちゃうのー。」
♪ーー。
♪ー。
♪「抱ぁきしめてぇ。」♪「狂おしい程にぃ。」
♪「激しく…ミ…ツ…メ…テ…。」
♪「あ~ン…。」
♪ー。
まり子仕込みの振り付けを舞う愛…。
…
パチパチ!
…
「いいどー!」
…
「Ya。」
…
♪ー。
♪「忘れないでぇ~。」♪「いつも見ぃて欲しぃ。」
…
フルコーラスを歌った愛…。
決めポーズで客に視線を贈る…。
(やりきった。)
(なんで途中で帰るかな。)
(ったく。)
…
パチパチ!
…
「ありがとうございました。」
「もし良かったら買って下さい。」
「これから私が売ります。」
…
ステージから降りる愛。
熊田が用意した簡素な台でCDを販売する。
…
並ぶ数人…。
…
「あんた可愛いな。」
「一枚買っちゃる。」
「なんぼさ?」
始めて売れる愛のCD…。
「ありがとうございます。」
(やったぁ。)
「1000円です。」
(なんか嬉しいな。)
両手でCDを渡す愛。
…
「1000円。」
「ちょっきりね。」
客が愛に1000円札を渡す…。
…
愛は少し考えた。
(ちょっきり?)
(ちょうど?)
(だろうな…。)
…
買ってくれる人達…。
…
「新人さんだべ?」
…
「頑張ってな。」
…
「歌、うまいんでしょ。」
…
「そうだべさ。」
…
旅行に来ている外国人男性もいた…。
…
「You're cute」
「I won't to hord you tonight」
愛は英語がわからない…。
(なに言ってるんだ?)
「オーケー、オーケー。」
「イぇースぅ~。」
「サンキュー。」
喜ぶ外国人男性。
「really」
「it's ekimae hotel room 303.」
愛は、わからないのに答える。
「オーケー。」
「あはは…。」
(日本語しゃべろ!)
ニコニコ顔の外国人…。
CDに指を差す…。
そして、
一枚買ってくれた。
手を上げ去っていく外国人。
…
愛は苦笑いで手を振る。
(まったくわからん…。)
…
客達が居なくなり後片付けを始める。
明野はカメラを止めて愛に言う。
「むやみやたらに、」
「良いって言わないほうが、」
「良いよ…。」
愛は意味がわからなかった…。
(どういうことだろ?)
(まぁいいや。)
「はい。」
…
愛のCD販売旅はまだ続く…。
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