第9話ちぢれ麺有岡
愛はダンスレッスンを受ける為、本社に来ていた。
エレベーターから降りようとした時、
男が前に立っていた。
(縮れ麺…ふっ。)
「お、お疲れ様です。」
(ヤバい…早めに…。)
愛は軽く会釈をして、足早に通り過ぎる。
男はエレベーターに乗らず、
振り返り、愛に声をかける。
「君!レッスン受けてる娘?」
後ろからの突然大きな声に、愛は身体をビクつかせ、
振り返った…。
「はいそう…ふっ…ですけど。」
(笑いそう…。)
…
男は、
夜なのにサングラス…。
赤いTシャツにレザージャケット…。
レザーパンツ…。
そして…、
縮れ麺のようなロン毛パーマ…。
小太りだった…。
(おぉ~。)
(この娘を見たら、)
(曲が浮かんだぞ。)
(おぉ~、おぉ~、おぉ~。)
「名前は?」
笑いをこらえる…。
「ひ…ひらま……あいです。」
男は愛に名刺を渡し、
エレベーターに乗り…、
去って行った。
…
愛は名刺を見る。
…
相田プロ傘下
有岡音楽スタジオジャパン
音楽プロデューサー 有岡 尊
(ふーん。)
愛は名刺をスポーツバッグのポケットに入れ、
更衣室に向かった。
(はぁ~。)
…
着替えた愛。
(…。)
鬼の待つ…
ダンススタジオへ…。
…
(待ってたよ愛ちゃん。)
…
怒号と罵声の金棒をふりまわす鬼…。
こてんぱんにやられる愛。
(くっ、根をあげるわけには…いかない!)
…
ビシ!
バシ!
ビシ!
バシ!
…
チ~ン。
(へっへっへ。)
鬼は強かった…。
…
それから、
数週間後…。
…
愛はいつものように、
スタジオでダンスの練習をしていた。
かなり上達した愛…。
まり子先生は、怖い顔をしながらも、
優しい目で愛を見ていた…。
(成長したな愛…いよいよか…。)
…
まり子は数日前、デモテープを会社から渡された。
それは、
愛のデビュー曲の音源…。
会社から振り付けをお願いされた。
…
初めは愛を気に入らなかった、まり子…。
会社から特別待遇されている、
甘ったれた娘…。
すぐに根をあげる…。
そう思っていたが、
違った…。
必死になって練習に励む愛…。
厳しくしても食らいついてくる…。
いつしか、まり子の大切な、
可愛い教え子の一人になっていた。
そんな愛の為に、素敵な振り付けをまり子は考えていた。
…
愛が練習を始めてから1時間ほどたった時、
ダンススタジオに、少し背の高いスーツ姿の中年男性が現れる。
まり子に向かい会釈する男性…。
まり子は男性に気づき、練習中の教え子達に言う。
「ちょっと練習してて…愛、一緒に来て。」
まり子と愛は、中年男性とスタジオから出た。
同じフロアにある、小会議室に向かう中年男性…。
まり子は中年男性の横に並んで歩き、
愛は二人の後ろを歩いていた…。
まり子は中年男性と話し始める。
「元気にしてたの?大道さん。」
…
大道 昇…相田プロマネジメント事業部所属。
加藤アイリの元マネージャー。
売り込み上手で優しい人。
…
大道は、まり子に頭を下げる。
「はい…ご心配を御掛けして申し訳ございません。」
まり子と大道は、話しを続ける。
「アイリは?今どうしてるの?誰も教えてくれないから心配で…。」
不安な顔をしているまり子。
「今は新人がついて小さな仕事を細々と…本当に申し訳ございません。」
大道の言葉を聞いて、まり子は安堵な顔をした。
「そう…大丈夫よ、あの娘なら絶対這い上がるわよ…私信じてる。」
そんな話しを二人はしていた。
後ろを歩きながら聞いていた愛…。
(アイリ…名前を聞くと腹が立つ…あんなに好きだったのに…愛しくて胸が張り裂けそうなほど大好きだったのに…今頃男と仲良くしてるのか…あぁ!ほんとムカついてくるわ!)
…
テレビやパソコンなど、
見る暇もないほど、忙しい日々を送っていた愛。
知るはずもなかった。
この時には既にアイリは、ゆうまに捨てられていた。
なにも知らない愛は、アイリとゆうまへの復讐を考える。
だが、手段は思い浮かばなかった…。
…
小会議室で話し合う三人…。
大道とまり子は隣どうしに座り、
愛はその対面に向かい合って座る。
大道が話し始めた。
「今日から君のマネージャーになった大道 昇です、よろしく…で、さっそくだが愛…明日から有岡先生の所へも通ってもらう。」
愛は忘れている…。
「有岡先生?誰ですか?」
大道は戸惑った顔…。
「あれ?会ったんだろ?音楽プロデューサーの有岡先生…。」
愛は名刺を思いだした…。
「あぁ、思いだしました。」
(あのちぢれ麺か。)
真顔に戻った大道…。
「有岡先生は、愛に曲を作ってくれている…直接指導したいともおっしゃっている…これは正直凄いことだ…。」
まり子が話しに入る。
「その曲の振り付けは、私が考えてるから…皆様に観てもらうためのもの…練習…がんばろうね…。」
愛は悪寒がした…。
…
そして次の日…。
…
学校が終わり都内の駅に着いた愛。
大道マネージャーが迎えに来ていた。
「お疲れさん…行こうか。」
…
大道が運転する車で有岡のスタジオへ向かう。
相田プロ本社から少し離れた所にあった…。
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