第8話鬼の振り付け師まり子先生

扉を開くとすでにダンスのレッスンが始まっていた。

デビュー前のアイドル4人が曲に合わせて、汗を流しながら練習をしている。

そして、先生と思われる女性が4人にダンスの指導をしていた。

1人の動きが曲から少しズレてしまった…。

先生は恐ろしい顔で、怒号を飛ばす。

「おまえー!なんでいつもここでズレるんだよ!やる気あんのか!」

怒号をくらった女の娘は、大きな声で返事をする。

「はいー!」

愛はその雰囲気に圧倒され、ただ眺めていた。

(うわぁ…厳しそう。)

誰も愛に声をかけることなく練習に打ち込んでいる。

曲が終わり、練習していた4人は汗を拭いて少しの休憩をする。

愛に気づいていた先生は、愛に向かって怒号を飛ばす。

「なにぼーっとしてるんだおまえ!早くこっちにこい!」

駆け足で先生のところへ行く愛。

(うわわわこえー。)

先生の顔は恐ろしく怖い顔をしている…。

「おまえ愛だろ、会社から事情は聞いてる…鬼怒まり子だ。」

鬼怒まり子…。

業界内では厳しくて有名な、一流振り付け師。

鬼のような形相…。

怒号や罵声を撒き散らしながら教える…。

その厳しさから、

耐えられず、脱落した娘もいた…。

愛は緊張しながら挨拶をする。

「今日からお世話になりますよろしくお願いします。」

まり子は4人に紹介した。

「今日から一緒に練習する愛だ。」

愛は4人に自己紹介をする。

「平間 愛ですよろしくお願いします。」

まり子はすぐに練習を開始する。

散り散りになる4人と愛。

(ここで良いのかな?)

まり子が身体を動かす。

「基礎やるよ…愛は真似してやって。」

愛はぎこちなく動く…。

動きながら見ているまり子…。

(身体固い女だな…こいつは基礎中の基礎からだな…へっへっへ鍛えがい有りそう、徹底的にやってやる。)

「はい!次やるよ…愛は見てるだけでいいわ。」

壁のほうへ行き、みんなの動きを見ている愛。

曲が流れ、練習が始まる。

まり子は容赦なく、罵声や怒号を撒き散らす。

「なんだその動きー!」

「教えたのと違うだろーがー!」

「だからこうだって言ってんだろー!」

「タコが踊ってんのかー!」

「きめるところはきちっときめろー!」

「泣いてる暇なんか無ーい!」

「返事しろ!」

「このやろー!」

「あ?」

「野郎ではない。」

「こんちくしょーがー!」

「もうでてこねーわー!」

「あーつかれたわー!」

「きょーはおわりー!」

夜遅くに練習は終わった…。

「ありがとうございました。」

まり子に挨拶をして4人は帰って行く。

愛も帰ろうとした時、まり子に呼び止められた…。

「愛ぃ!ちょっとこっちへこい!」

愛はまり子のところへ行く。

「はいー!」

(な、なんだろう?)

まり子は鬼の形相でニヤけた…。

「愛は遅刻してくるよねー?みんなにおいていかれちゃうね?」意味、わかるかなー?」

愛は悪寒がした…。

「い…居残り練習…でしょうか…?」

鬼は笑う…。

「ピンポーン…特別にしてあげるよ…さぁ始めようか…。」

(へぇ~へっへっへっへ。)

地獄の居残りマンツーマン…。

愛の固い身体をほぐしてあげる鬼…。

座って股を開き屈伸する愛…。

(これ以上は、いかないな…。)

鬼は愛の後ろに回り、押してあげる…。

ぐぐぐぐぐー。

ぴきぃ~。

悶絶する愛…。

「あー!いでででででー!」

鬼は叫ぶ…。

「いでででででー、じゃない!可愛い顔してるくせにもっと女らしく…いったぁ~いとか言えー!」

「次ー!」

ぐぐぐぐぐー!

ミシミシ…。

悶絶する愛…。

「あー!あだだだ!いで…いっだぁ~あはぁーいー!」

大の字に寝る愛…。

(つらい…。)

深夜まで地獄は続いた…。

(キツすぎる…。)

練習は終わり、

まり子は愛に帰りの事を伝える。

「外に車が待ってるはずだ…それに乗って帰りなさい。」

「明日も楽しみだね。」

(へっへっへ。)

愛は疲れきった顔でまり子に挨拶をする。

「あ、ありがと…ございました…。」

愛は痛みが残る身体で、更衣室に行き荷物を取りに行く…。

(今日はこのまま…痛っ。)

エレベーターで1階へ行き、外に出た愛。

1BOXの車が停まっていて、年配男性がタバコを吸っていた。

愛に気づいた年配男性…。

「あら?平間の愛さんかい?」

愛は苦痛な顔をしながら答えた。

「は、はい…。」

タバコを踏み消し、ポケット灰皿に吸いがらを入れる年配男性…。

「わだし愛さんのうんてんしゅしますぅ田中五郎ですぅ、トラックうんてんしゅよんずぅごねんやってましたぁ安心してくださいぃ。」

五郎は、愛の荷物を持って車に入れてくれる。

愛は痛む身体を押さえながら車に乗った…。

「家に着くまで、お休みくださいぃ。」

五郎は車を走らせる…。

「すいません…五郎さん…寝かせてもらいます…。」

そう言って愛は椅子を倒し、眠った…。

愛を乗せた車が家に着く頃には、

朝日が昇り始める時間だった…。

「着いたよ、愛さん。」

愛は眠い目を擦りながら、痛む身体を起こし、

車から降りた…。

荷物を五郎から受け取る。

「ありがとう…ございます…。」

五郎を見送り、

愛は家に入る。

そのまま真っ直ぐ部屋のベッドに横なり、

もう一眠りした…。

こんな日が毎日続く…。

さらに、

学校が休みの日は、朝からダンスのレッスンに通っていた…。

数週間後…。

休み無しでいた愛は、もう心が折れそうだった…。

明け方、家に帰ってきた愛はベッドに倒れこむ。

(もう…辞めたい…どうしてこんなに辛い思いをしないといけないんだ…なんであんな魔道師なんか来たんだ…アイリのせいだ…男なんかに走らなければこんなことには…。)

アイリへの恨みが増していく愛…。

辛くて、苦しくて、やりきれない思いでジタバタしたかったが…身体は疲れきって動いてくれなかった…。

「愛よ。」

カナ・エールが現れる…。

疲労困ぱいの愛は、無理やり身体を起こし、

カナ・エールを無気力に眺める…。

辛くて涙が溢れそうになっていた…。

だが…、

カナ・エールの無慈悲な言葉…。

「良い顔だもっと我に見せよ…諦めるは大切な者を失う。」

そう言い残し、

カナ・エールは消えた…。

無気力な中で考える愛。

(あの魔道師逆らったらお母さんまで…それは嫌だ。)

カナ・エールの恐怖に怯えながら愛は歯をくいしばり

辛い日々を耐えていく。

ダンスレッスンはもう少しだけ続いた…。

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