10/9 Sun. 安中祭1日目――恋人になって欲しい女子ではない
という訳で女子の部がスタートした。司会進行は男子の広報にチェンジするのかなと思ったのに、
『男子が女子に色々と質問すると叩かれるからイヤだと言われちゃいました!』
まいたけのMC再任が決定された。女子が色々と聞くのは許されるのに男子は許されないとかさ。男女平等っやつはまじでどうなってんだろね。
『私はこれでも広報長ですから! 部下を守らねばならぬのです!』
これは口から出まかせって訳でもない。会計、広報、書記、庶務はそれぞれ長がいる。その上で庶務12名は他の役職12名の担当秘書みたいな役割もあるため、まいたけは実質的に広報2名と庶務1名の上司と言えるような立場だ。
なお、生徒会長のマネージメントを担当する庶務は原則として庶務長となるが、今期に限ってはヒラ庶務の牧野となっている。そのせいでさっきも2組のエース的な立場なのに、上条先輩の気まぐれで生徒会室に呼び出されてたらしい。災難だね!
だったら牧野にコーラを買いにいかせなよって思っちゃうけど、それはパワハラ的ないじめになるからね。と言っても、約束通りに焼きそばパンを買いにパシらせて、生徒会室で一緒に食べたことはあるらしいが。
『なので私の番のときはやどりんにMCをやって貰おうかなって!』
大歓声。よく分かってるね! って感じでまいたけが讃えられてる。
「宿理に務まるの?」
紀紗ちゃんが顔をしかめてる。分かってないなって言いたそうだ。
『ちなみに去年の女王である油野宿理さんの出番は最後になりますので、やどりん目的でご来場の方はしばらくのご辛抱をお願いしまーす』
そして宿理先輩を除いた9名によるくじ引きが行われ、
『ではではー! 早速ですが始めていきまっしょい!』
えぇ。まじかよ。
『ではではー! クラスとお名前をお願いしまっす!』
『3年5組の北條花楓です!』
いつもの制服姿でにこにこしていらっしゃるわ。テンションたっけえな。
『みんなー! 元気ー?』
元気~! とコールアンドレスポンスまでしちゃってる。テンションたっけえな!
『はい! というわけで去年のファイナリストでもある花楓先輩です! 相変わらず可愛らしい御方ですね!』
さっきまでメッセージに絵文字を1つも使わないくらい落ちてましたけどね。
『では早速ですが! きっと皆さんが気になっているであろうあれからいきますか! ズバリ! 好きな男子のタイプを教えていただきましょう!』
男子の部より全体的に歓声がでかいな。やっぱ男子なんてオワコンなんや。男子も女子も真に愛でたいと思えるのは女子なんや。
てか初っ端から際どい質問を飛ばしてきやがるな、あのきのこ。
『そうですねぇ。実は私って結構な食いしん坊なんですよ』
せやな。俺の周りの女子ってよく食べるタイプが多いから、そのことを鑑みると北條先輩はまだ食べない方に分類されるけどね。
『え! すっごく痩せてるらっしゃるのに! もっと食べた方がいいですよって言いたいくらいなのに! 舞茸をおすすめしようと思ってたのに!』
『あっ、舞茸と言えば、料理研究会が舞茸料理を出してるみたいだね』
『よくご存じで! お目が高い!』
こいつ、絶対にブルスケッタじゃなくて舞茸本体のことを称賛してるだろ。
『それでー、好きな男子のタイプなんですけどー』
北條先輩がもじもじしてるよ。男子的にはポイントの高い仕草だな。
『お料理が上手だと惹かれちゃいますね。それにやっぱり優しいといいかな。困ってるときにそっと手を差し伸べてくれるとキュンキュンしちゃいます』
容姿よりスキルと心根が大事らしい。これは多くの男子が喜ぶ回答だね。実際に喧しいくらいに盛り上がった。そのせいでまいたけがレスを躊躇ってる。
ふむ。北條先輩が源田氏にいつ惚れたかは聞いてないけど、そういうイベントでもあったのかなって思わされるコメントだ。
「……これ、カドくんのことじゃないよね?」
優姫さんが目を鋭くしてる。アホかな?
「料理上手。優しい。手を差し伸べる。たしかにおかみさん」
紀紗ちゃんも乗っかってきた。なんでやねん。答えを知らないとそう思うのか。
「そんなん久保田だって当てはまるだろ。てか俺は優しくする相手としない相手を明確にしてるから、そこの部分は賛否両論があると思うんだけど」
えー、リフィスと内炭さんが苦笑しちゃってるわ。嘘じゃないよ。牧野に聞いてみればいいじゃん。俺、まじであいつに優しくしてないぜ?
『いいですね! 舞茸料理が上手だと特にいいですね!』
喧騒が収まるのと同時にまいたけが賛同した。北條先輩は笑顔で頷き、
『麻衣ちゃんは碓氷くんのブルスケッタってもう食べたの?』
おいおい。宣伝は有難いけど、急に碓氷とかいうやつの名前を出すと場が混乱するだろ。
『3つ食べました! 美味しかったです! あれ、マイタケッタって言うんです!』
最終的に押し切られる形で同意しちゃったからね。反論はしないよ。
『それで言うと、さっきの条件って碓氷くんも当てはまりません?』
おいこら。まいたけのせいで優姫さんが睨んできたじゃねえか。
『当てはまりますね!』
え。なんで笑顔で肯定しちゃってんの。バカなの?
『立会演説の一件で色々と言われてるとは思いますけど、あれはただいじめを許せないっていう気持ちが爆発しちゃっただけで、根はすごくいい子なんだって確信してます。私も困ってるときに手を差し伸べて貰ったことがありますし』
まだ結果が伴ってないのに何を言ってんだか。これだからプロセス至上主義は困るね。手を差し伸べるだけじゃ何の足しにもならんのだよ。
『あれ? もしかして碓氷くんにラブですか?』
違うと思ってるからこそできる質問だ。まいたけめ、俺を出汁に使いやがって。
『申し訳ないですけど、ラブではないですね』
ほらみなさい! 期待しなくてよかったわ! 優姫は俺に謝れ!
『でも好きですよ?』
は?
「は?」
結局は優姫に睨まれる俺である。俺、何も悪いことをしてないのに。
恐い。天然、まじで恐い。
『分かります! 私も碓氷くんのこと好きです!』
まいたけのこれは打算しか見えないから安心して聞ける。
『よく舞茸を買ってくれるし! 舞茸料理を作ってくれるし! マイタケッタを差し入れでくれるし! 明日は違う舞茸料理を持ってきてくれるし!』
安心できねえわ。なんか最後にむちゃぶりが入ってるし。
そんな感じでインタビューは続き、大きな拍手をもって北條先輩は出番を終えた。
かえで:碓氷くんの好感度をあげといたよ!
クソみたいなLINEが来たけど既読スルーしとこう。だって、
「サラはなんだかんだで女子に好かれますよね」
「カドくんの女ったらし!」
「やっぱり誰にでも優しくするのはよくないんじゃない?」
「おかみさん、たらし」
「碓氷くん、わたしにもっと手を差し伸べて欲しいな」
「碓氷に料理勝負で勝てば俺にもワンチャンあるか……?」
批難ごうごうですもん。好感度の上昇が見られませんもん。
メガネに関してはそのうち叩きのめすとして、
『ではお次ー!』
2番手は夏希先輩。画面内に巨乳の女子が2人並ぶという暴挙。お陰でカメラの担当が女子だって分かったよ。映像が上下に揺れないもん。
『2年6組、稲垣夏希でーす』
チアリーダーの格好のままだ。改めて見るとすごく煽情的だね。
『ではなっきーにも好きな男子のタイプを教えて貰おっかな?』
『んー、私も料理上手な人がいいかなー。北條先輩とはちょっと違う意味になっちゃうけどねー。少なくとも、料理は女子がするものだって決めつけてくる人は嫌だってこと。料理男子はそんな時代遅れなことを考えてないからねー』
『わかるー。ぜひとも私は食べる係になりたい!』
『なりたいよねー。私も料理はできるけど、部活中だとついついカックン、じゃないや、碓氷くんにおねだりしちゃうんだよねー』
『おお! また碓氷くん! モテモテですな!』
煽ってくれるじゃねえか。
『ラブではないけどねー』
これやめてくんないかな。なんかコクってもないのにふられた気分になるんだよ。
『どっちかって言うと、都合の良い男子ってカテゴリかなー。例えば、しつこい男子をふるために彼氏のフリをしてってお願いしたら二つ返事でOKしてくれそう』
「おかみさん、そんなことしちゃだめだよ?」
どの口が。じゃあもう紀紗ちゃんの頼みでもしないことにします。
『なっきーは中学のときからモテるもんね!』
『年齢=彼氏いない歴だけどねー』
『それは私も同じ!』
こうしてただただ世間話っぽい恋愛トークが続いていき、これまた大盛況のうちに夏希先輩は下がっていった。
そして3番手が誰なのかを知った時、俺は天を仰いでしまったね。
『2年2組。上条飛白だ。今期の生徒会長を務めている』
去年で予選落ちしたとは思えないくらいの大歓声。ツラだけはいいからね。ツラだけはね。その代償が性格に向かってるってお話。
『はい! 皆さんご存じの、当校で初めて女子生徒会長となった、かすりんです!』
上条先輩が右手を挙げたらそれに合わせて歓声が起きた。満足げに手を下げ、直後に歓声が止む。どうやらその事象に悦を感じたらしい。
上条先輩がまた右手を挙げた。起こる歓声。手を下げると歓声が止む。何百って数の人を右手1本で操る快感が堪らないみたいだね。旗揚げゲームかよってくらいに手を上下させる。まいたけはそろそろ仕事しないとダメだよ。
『はい! ではそろそろいいですかね!』
『仕方ないね。王様気分を味わうのはここまでにしておこうか』
にやにやしちゃってまあ。
『では恒例のやついきます! 好きな男子のタイプは!?』
『料理上手な男子がいいね。特に焼きそばを上手に作れる子が好ましい』
出たよ。露骨なフリが。
『そういえばさっきお昼に碓氷くんの焼きそバーガーを食べてましたね! 美味しそうにもぐもぐと! これは! これはまさか!』
『そのまさかさ。照れるね』
はにかむ美少女ってのは本当に可愛い。可愛いからこそ邪悪さが目立つ。
『でもかすりんって立会演説で碓氷くんをふってなかったっけ?』
あの超絶に理不尽なやつな。
『そりゃそうさ。だってラブではないからね』
またふられちゃったよ。もうこれあれだな。3連続でやられたらテンプレになっちゃうよな。言わなきゃいけない空気になっちまった気がする。
恋人になって欲しいって思われてる女子達に10連続でふられるのはさすがにへこむわ。かと言って川辺さんが「わたしはラブですけどね!」とか言ったら大変なことになるから、やっぱふられることを願っておこう。
「あたしはラブだけどねー」
こいつ。優姫のせいで不安が強くなっちゃったじゃねえか。
今のうちにLINEでお願いしとこうかな。いや、それって自意識過剰じゃね?
って思ったのに。
『碓氷くんのハンバーグ美味しくて好きだなー』
4番手の空良先輩がさっき出会ったばっかなのに乗っかってきやがった。
『碓氷くんってほんとに人気者だね! 恋コンは予選落ちなのにね!』
喧しいわ。
『ラブじゃないけどねー。なんてゆーか、碓氷くんの料理ラブ?』
つれえ。ハートは少しもブレイクしてないのにやたらとつれえ。
一緒に画面を眺めてる連中も憐みの目を向けてきてるくらいにつれえ。
『ではでは次ですがー、この美少女ちゃんです!』
けど5番手の姿を目の当たりにして、ここで悲劇が終わるかもって思った。
このぺこりとお辞儀した狐さんには彼氏がいる。この中で唯一の彼氏持ちだ。
8番手とか9番手くらいだったら嫌でも言わなきゃいけない空気になってたかもしれないが、今ならまだ間に合う。間に合うはずだ。
『1年3組の水谷千早です。よろしくお願いします。彼氏がいるので当然ながら碓氷くんに対してはラブじゃないです』
あの女! 自己紹介に混ぜてきやがった! 挨拶がてらにふってきやがった!
「ウチの娘がすみませんね」
リフィスが笑ってやがる。教え子の意外な一面を見られて嬉しいって感じなのかもね。俺にとっては最悪でしかないけどね。
よし。もう川辺さんにLINEを送っとこう。ついでに北條先輩にもクレームを入れておこう。
はぁ。恋コン、さっさと終わらねえかなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます