9/8 Thu. 因果応報――中編

『本日は生徒会会長に立候補したお二方の演説をお聞きください。まずは2年5組、織田悠真さんの演説です』


 アナウンスを聞きながら思った。これってフェミが怒りそうだよね。上条先輩は2年2組。クラス順にすればいいのにわざわざ男を先にした。当然、五十音順の可能性もある訳だが、表彰式がクラス順の上に五十音順だから違和感があるわ。


『全校生徒の皆さん、こんにちは。このたび生徒会会長に立候補しました、2年5組の織田悠真です。ご存じでない方もいるかとは思いますが、現生徒会副会長でもあります。なので生徒会の職務については熟知していると言えるでしょう。ところで、現在の生徒会長が昨年まで調理部の部長を担っていたことをご存じでしょうか。なぜ尋ねたかと言いますと、僕は現在、調理部の部長を任されているからです。調理部の部長が生徒会長になるケースは過去3年間で5回もあり、既定路線とまで言われているので、推薦人となる現会長にも日々プレッシャーをぶつけられて困っています』


「非論理的だね」


 ヒハクが鼻で笑った。


「世襲による安心感を与えたいんですかね。俺には肩書自慢にしか聞こえませんが」


「さすが少年。捻くれているね」


 あんたに言われたくねえわ。


『さて、我が校におきましては、幸いにも歴代の会長の尽力もあって早急に改革すべき箇所が見当たりません。なので僕が会長になっても真新しいことはしないと思います。ただ、現状をさらに良くするのみです。つまらないと感じるかもしれませんが、いたずらに変化を求めても、それが必ずしもポジティブに働くとは限りません。現会長には保守的だなと笑われもしました。ですが、時には地盤を整えることも大事だと思います。より良い学校を、より良い未来を盤石な形で作り上げるために。皆さん、僕にチャンスをください。どうかよろしくお願い致します』


『以上、織田悠真さんの演説でした。3分のインターバルを挟み、2年2組、上条飛白さんの放送演説を始めます』


「意外とまともなことを言いましたね」


 正直、驚いた。上ばかりを見ていたら足元の石に躓いてケガをするかもしれないから、まずは地面を綺麗に仕上げる。上を見るのはそれからでも遅くない。何よりそうすれば上だけに集中できる。実に論理的だね。


「そうかい? 早急に改革すべき箇所なんていくらでもあると思うけど」


「ふむ。例えば?」


「購買で焼きそばパンを買っても、レンジを置いてないから美味しくいただけない」


 アホかな? って思ったのに、


「あっ、わかる」


 通りすがりの何組かも分からん男子が同意してきた。右手にコロッケパンがある。


「冬はポットも欲しいよね。大した量もないコーンポタージュに100円は高い。マイマグカップで粉末のコーンスープを飲めるなら1杯30円程度になるんだよ?」


「それ最高。カフェオレとかも欲しいな」


「カフェオレならブランド次第で20円を切るね」


「たまらんな。あんたみたいなのが生徒会長になってくれたらいいのに」


 おいおい。


「織田くんでは不服かな?」


「挨拶からして堅苦しかったじゃん。あんなの意識の高い提案しかしないんじゃね」


「それは偏見だと思うけど。少なくとも上条飛白は今みたいな提案をするね」


 実際にしてるからな。


「まじで? 見たことがない先輩だけど投票してみよっかな」


「今みたいに不真面目な提案ばかりをするかもしれないよ?」


「えー、いいじゃん。俗に言う国民目線ってやつでしょ? 学校だから生徒目線だけどさ。さっきのやつは庶民の気持ちが分からん感じがするんだよ」


「そこは同意する。そもそもがね。たかだか生徒会の一役員が学校をよくしますって息巻くこと自体がおかしいんだ。自惚れも甚だしい」


「それな」


 また違う男子が足を止めて同意してきた。なんだこれ。


「居眠りする国会議員とかもそうじゃん。我々は国民の代表だって威張るだけ威張ってグースカやってるだろ? デカいことを言うやつほど信用できねえわ」


「そうだね。せめて過去にあげた成果を並べてくれたら話は変わるけど」


「まじでそれ。さっきのやつも副会長やってますアピールと生徒会長に気に入られてますアピールをするだけだったし。俺らとしては、じゃあお前はその立場で何をしたんだって話なんだよ。ほんとうさんくせえ」


「分かります」


 女子もやってきた。いや、こいつはただのヒハク目当てだな。他の男子を見てないもん。そもそもこんな紙袋野郎がいるとこに女子が近付くはずねえし。


「やるやる詐欺ですよね。私、織田先輩と同じ中学なんですけど、あの人が中学で生徒会長をやったとき、選挙の公約を全然守らなかったんですよ。しかも友達が問い詰めたら、思ってたより大変だったからって答えたんです。ふざけてますよ」


「まじかよ、ゴミじゃん」


「選挙って言ったもん勝ちなところがありますよね」


「あー、それでふわっとした言い方しかしなかったんだな。中学の時みたいに後でケチを付けられないためによ。最初から逃げ道を用意してるってどうなん?」


 なんか楽しそうだな。俺もいっちょディスカッションに参加してみるか。


「俺、上条先輩と同じ中学なんだけど、あの人はレンジを置くって言ったら職員室からパクってきてでも置くし、ポットを置くって言ったら職員用の給湯室を潰すくらいのことはするよ。結果ありきで手段なんか選ばないからね」


「まじかよ。やべえな。てかお前のソレもやべえな。なんで紙袋?」


「そこは触れてくれるな。上条先輩がクレイジーってことだけ分かればいい」


『それでは、2年2組、上条飛白さんの演説です』


 やばい。クレイジーってことを分からせたタイミングで放送になっちゃった。


『全校生徒の諸君。ごきげんよう。2年2組の上条飛白だ。早速だけど、私はさほど生徒会長になりたいと思っていない。ただ、その肩書があればやりたいことをやれるかもって思っただけなんだ。平たく言えばアプリのダウンロードみたいなものだね。生徒会長アプリを起動して学校を自分好みにカスタマイズしてみようって話さ』


「まじでクレイジーじゃん」


 周囲から笑い声が上がった。


 えぇ。これって事前に教師が検閲しないの? こんなの通すのかよ。


『私に公約と呼べるものはないから、そのアプリで何をしたいかを語るとしようか。例えば今は渡り廊下や体育館、購買や昇降口くらいにしか自販機がないけど、各階の階段付近にも置きたいね。だってわざわざそこまで買いに行くのが面倒だし』


 驚いた。さっきと比べて明らかにふざけた内容なのに、廊下にいる生徒は誰もかれもが耳を傾けてる。それはきっと織田先輩が抽象的なことしか言わなかったのに対して、上条先輩が具体的なことを言ってるからだと思う。


 あぁ、これは俺らに関係のある話だ。そう思って聞いてるんだ。


『自販機の内容もみんなで決めよう。生徒の自主性を育むためって名目にすればいけると思うんだ。推しのドリンクを募集して、その推薦人に応援演説をさせてみるのも面白い。そして実際に投票をして上位15種までを並べてみれば、自分の持つ1票の重さを感じられると思う。民主制や選挙制を学ぶいい機会になるわけだね』


 この人、本当に人心の掌握に長けてるな。


 俺ですらもう生徒会選挙よりドリンク選挙の方が興味あるもん。冬季に向けてホットほうじ茶のために長々と演説することもやぶさかではない。


『まあ、今のは建前だけどね。飲みたいものが売り切れになっているのに、こんなの絶対に飲まないでしょってものが残っているとイラっとするんだよ』


 めっちゃわかるー、ってあちこちから聞こえた。


『んー、購買の品揃えについても言いたかったけど、そっちは当選したらでいいや。あー、でもこれだけは言っておこうかな。織田悠真くん、きみが当選したら焼きそばパンの納入数を増やしてくれると嬉しいな』


 らしすぎて笑えてくるな。周囲の連中もにやにやしちゃってるわ。


『本当はこのくらいで終えようと思ってたんだけど、ちょっと言いたいことが増えたから制限時間いっぱいまで話させて貰うね』


 もっと話を聞きたい。そんな顔ばっか見当たる。


『少し真面目な話をしよう。さっきの自販機と購買の件はより良い学校生活を送るための、言わば足し算的な意味合いの提案だ。しかし足してばかりでは芸がない。なので、これがなければより良い学校生活を送れるのになっという、言わば引き算的な意味合いの提案もしておこうと思うんだ。差し当たって真っ先に浮かぶのは』


 なるほどね。こういう論理か。


『いじめだ』


 2組の教室内に焦燥が生まれた。それは膨大で、濃厚で、濃密な。隠しようのないほどの焦りだった。ご清聴いただいていた分、その変化は実に分かりやすい。


『私はいじめを許さない。でもいじめをやめろと言ったところで、本人にその自覚がなかったり、高慢な性格に身を任せたり、自分がいじめられないためにいじめに加担したり、友達がやっているから自分もやってしまったりということもあるよね』


 どれも言い訳にしか聞こえんけどな。


『憎まれっ子は世に憚るものだと分かっていても、いじめられている子がそれで納得しようはずもない。いじめている側にも理由があるのかもしれないけどさ』


 一転。その声に宵が訪れる。


『そんなのは知ったことじゃない。私が許さないと言った以上は許さないんだ』


 そこかしこで息を呑む気配を感じた。


『当然のことだけど、いじめは悪いことだ。小学生でも知っている。なのに高校生になってもそんなことをするのなら、その子にはもう言葉以外の手法で教え込むしかないと思うんだ。他にいい方法があるのならそっちも検討するけどね』


 上条先輩の顔を見た。笑っていない。ただ、牧野を見つめている。


『ここに誓おう。いじめっ子の諸君。私はきみ達をいじめることにする』


 一方の牧野は口をぽかんと開けて突っ立ってる。


『体験させてあげよう。自分がどれほどのことをしたのかを』


 目の前の教室から悲鳴が聞こえた。


『経験させてあげよう。それがどれほどの苦痛と恐怖を伴うのかを』


 傍目でも分かるくらいに動揺が広がっていく。


『ではこれにて終了としようか。いじめっ子の諸君は待っていてくれたまえ』


 いつもの声色。いつもの口調でそう言って、


『いま。会いに行くからね』


 仄暗い声を残して、その放送は途切れた。ホラーかな?


『い、以上、上条さんの演説でした。明日は副会長の放送演説をお送り致します』


 放送部の人なのかな。上条先輩がフルネームじゃなくなってるよ。


「少年」


「承知」


 大多数の生徒は放心でもしたかのように上の方を向いてる。静寂に満たされた廊下では呆然と立ち尽くす者も多かった。俺らはその合間を縫って2組に入る。


 優姫の席にまとわり付いてた奴らは牧野の元に移動していた。お陰で目的地まではフリーパス。机に突っ伏すゆるふわヘッドの左右に男装野郎と紙袋野郎が集った。


「優姫」


 ぞっとするほど柔らかい声。その音色に導かれるようにして優姫の頭が上がる。


「え?」


 優姫の目には涙が溜まっていた。自然と、俺の両手が固く握られた。


 ヒハクはこんな状態でも前髪をふぁさっとかき上げて、


「きみに会いたくて氷の加護を授かってきた。冷え切ったこの身体に、きみの温もりを分けてくれないかい?」


 俺は胸中で笑った。だってそんなことを言ったら。ほら、タックルされた。


「よしよし。いい子だ。後はオレに任せるといい」


 ヒハクが教室の入口を一瞥した。見れば油野、水谷さん、内炭さんの姿がある。


 正直、上条先輩のアドリブにまったく付いていけない。


 昨晩に伝えられた脚本で言えば、まずヒハクの姿で「きみの着ぐるみ姿を楽しみにしているよ」と囁き、牧野の「どうせ相山さんの着ぐるみ姿なんて誰も見ようと思わないし」の反証を行うって内容だったのになぁ。


 もうそんなことをやる空気じゃないよね。思えばあの放送演説の音源っていつ用意したのかな。相談したのって昨日の昼休み中だけど。


 牧野達はとっくに俺らのことに気付いてる様子だったが、見たこともないイケメンと紙袋野郎にどう接していいか分からないようだ。


 それも「いじめは絶対に許さない」と宣言した人のせいだと思う。優姫に対しては無論のこと、紙袋に対するケチだって付けにくいもんな。


 図らずも場は膠着状態となった。どうしたらいいのか分からない。


 けどね。そんなのは杞憂ってやつだ。


 どうあがいたところで俺はモブに過ぎない。この場を動かす力なんてないんだ。


 けどな。この場には物語に出てきそうなヒロインやヒーローがいるんだよ。 


「あら? ヒハクじゃないの」


 どんな心臓をしてるのやら。水谷さんが軽やかな足取りでやってきた。油野も緊張したような面持ちで来たものの、内炭さんはチキって教室の外だ。分かるよ。


「どうしたの?」


 たった5文字。この悪魔はそれだけで埒をこじ明けた。


「どうしたもこうしたもないさ」


 これぞ悪魔の悪魔たる所以。2人はラプラスの導きに従って言葉を紡いでいく。


「優姫が文化祭で猫を演じると聞いてね」


「私も聞いたわ。2組のみんなで猫の着ぐるみ姿になるって話よね」


「そうなのか。オレは詳細を知らなくてね。それは実に楽しみだ」


「ええ。私も楽しみだわ。圭介もそう思わない?」


 MCの唐突なフリに、油野は目を泳がせながらも、


「そうだな。女子のああいう格好は。素直に萌えるな」


 内炭さんが目を光らせた気がするけど放っておこう。


「それで? どうして2人は抱き合ってるの?」


「それがだね。どうやら嫌なことがあったらしいんだ。オレはさっきまでこの紙袋の妖精とそこの廊下で話していたから、多少は察することができるけど」


「どういうこと?」


 水谷さんが紙袋を見てくる。シュールだな。


 てか周囲の視線がきつい。美男美女が集まったせいで廊下の連中もこっちを見てるし、2組の生徒なんてそのほとんどがこっちに注目してる。


 なのに何も言おうとしないのは、この美男美女による会話の糸をぶった切ることがそれだけ難しいからだろね。経験上、カースト上位の会話を遮るのは『調子に乗ってる』ってやつになるみたいだし。


 けど俺はしゃべることができる。だってその天上の人物に尋ねられたんだから。


「そうだな。俺の主観でよければ話せるが」


 優姫が顔を上げた。まあ、顔を隠しても声でバレるよね。


「2組の連中にいじめられてたんじゃないかな」


「へぇ」


 背筋が凍ったわ。ヒハクと水谷さんが鋭利な視線をあちこちに放った。きっとその視線を受けた連中も冷やりとしたに違いない。


 しかし。その告発をしたのは訳の分からん紙袋野郎だ。カースト上位じゃない。


「おい! てめえ! 勝手なことを抜かしてんじゃねえよ!」


 陽キャの男子が鬼の形相で怒鳴ってきた。


 それに対してヒハクと水谷さんの柳眉が跳ね上がり、だが俺のターンはまだ終わっていない。2人が何かを言う前に人差し指をそいつに向けてやる。


「相山さーん、メシ食わなくていいのー?」


 美少女2人はキョトンとしたが、指をさされた陽キャは言葉を失った。


 俺が何をしたのかを真っ先に理解したのはやはり優姫だった。次いで油野だな。


 幼馴染だからね。さすがに俺の性格の悪さをよく分かってらっしゃる。


 指先をスライドさせる。陽キャの右にいる女子だ。


「ダイエットしてるんじゃない? ほら。脂肪がついてるし」


 その女子がビクッとした。一方で油野が溜息を吐く。


 俺の指は次々と向きを変えた。


「着ぐるみを嫌がったのもサイズが合わないからだったりしてー。胸がデカいと態度もデカいって聞くけど本当だよね。てか髪を巻いてくんなっての。大したツラでもないくせにさ。しょうがないよ。だって学年で300位って話だし」


 指の向きを変えるたびに小さな悲鳴が聞こえた。


「あー、それじゃあしょうがないかもね。典型的な胸だけが取り柄の女子ってやつ? わかるー。他にいいとこがあるなら教えて欲しいくらいだし。クラスの足手まといって自覚くらい持って欲しいんだけどなぁ」


 ヒハクと水谷さんが呆れてる。脳のリソースの無駄遣いって思ってんのかな。これほど有意義な使い道はないと思うけど。


「ムリムリ。そんなのができたら猫カフェに反対してないって。空気を読める頭じゃないからな。油野くんもこんなのに付きまとわれてカワイソー。相手にされてるようには見えんけどね。ウケる」


 そして、


「こらこら、みんな」


 その怯え切った醜い顔を、この指で刺し貫けないのが口惜しいね。


「本当のことを言ったら可哀想でしょ」


 これにて紙袋野郎のステージは終了。けど一応は言っとくかな。


「勝手なことを抜かしちゃってごめんねええええ? どこか間違いが合ったら訂正してくれると助かりますうう! どうなの? 合ってた? ねえ皆さん、どうなの?」


 油野に背中を叩かれた。いや、失敬。イライラしてたもんで。


「なるほど。訂正がないのなら今のはいじめだったとオレは判断するね。千早は?」


「いじめでしょ。まあ本当に言ったっていう証拠はないけれども」


 水谷さんが一縷の望みを2組に与えた。本当に性格が悪い。


「そんなものは優姫に確認をすれば分かることだ。いじめは痴漢と同じで被害者の言葉がそのまま証言となるからね」


 希望の芽をヒハクが速攻で摘み取った。本当に性格が悪い。


「てかどこまで拾えてるか分からんけど録音してあるよ」


 希望を摘み取った後は絶望の種を撒かないとね。俺も本当に性格が悪いなぁ。事実上の盗聴と言えるから証拠として使えるかは微妙なのに。


 もはや反論の言葉はない。論より証拠。事実を前に何を言ったとしても空々しい。


「ところで諸君。今はどんな気持ちかな?」


 ヒハクが挑戦的かつ挑発的な笑みを振りまいた。


「そこの」


 ヒハクが指さしたのは最初に突っかかってきた陽キャだ。彼はビクッとしつつも、


「いや、いじめとか。そんなつもりはなかったんだけど」


 一発で地雷を踏み抜いたね。それはヒハクの大嫌いな言葉だと言うのに。


「さっきの放送は聞いていなかったのかな?」


「は? 聞いてたけど?」


「本人にその自覚がなくとも知ったことじゃない。そう言ったじゃないか」


「はぁ? そんなのあんたと関係ないだろ。てか誰だよあんた」


 あぁ、本当に。この人がこういう時に見せる笑顔って。魅力的って言葉に尽きる。


「紹介が遅れたね」


 ヒハクは唖然としてる優姫を俺に渡してきた。人の目があるけど、俺は気にせずに抱き締めて、優姫もそうしてきた。愛しいゆるふわの髪を撫でてやる。


 周囲がどよめいた。俺らに対するものじゃない。ヒハクがウィッグを外し、その中に隠れてたウィッグネットも取って長い髪を右手で払った。


「このたび、生徒会会長に立候補いたしました、2年2組の上条飛白でございます」


 40人近い、いや、廊下に集まってるのも合わせれば70人以上のだな。その度肝を一斉に引っこ抜きやがった。


「名前だけでも憶えて貰えると嬉しいね」


 上条先輩は実に嬉しげだった。そりゃそうだよ。


 だってこいつらはもう、上条飛白という名を忘れられないだろうからね。


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