8/20 Sat. 二律背反――後編
客足は19時頃にようやく落ち着きを見せた。それを見計らったかのように、
「お疲れ様です。助かりました」
第一の悪魔リフィスのご帰還となった。
ホールにはお客さんが多少とはいえまだいるからか、厨房の面々とだけ1人ずつ手短に話をし、また頭を下げていった。
心なしか覇気を感じないな。まあ大変だったから疲れてんだろね。
「ここ数日の数字を追ってきますね」
今日くらいゆっくりすればいいのに。
きっとみんながそう思ったが、リフィスは一礼して厨房から去った。
さて、もう挽き肉もないし、イートインもラストオーダーが19時だからこれと言った出番もない。どうしようかね。
あれ。プリンチームの水谷さんとケーキチームの弥生さんが首脳会談をしてる。明日以降の打ち合わせでもしてんのかな。それならリフィスを交えた方が合理的かつ効率的だと思うけど。
なんて考えてたら2人がこっちにやってきた。イートインのリーダーたる我らがヅッキーも加えての三ヶ国会議に発展か。なんて非合理なことを。
「碓氷くん、ちょっといい?」
俺かよ。しかも返事をしてないのに水谷さんが右腕を、弥生さんが左腕をがっちりと掴んで強引に連れて行こうとする。なにこれ。基本的人権の尊重はどこいった。
川辺さんが顔を思いっきりしかめてるけど大丈夫かな。後で親友同士のガチバトルにならなきゃいいけど。
さて、どこに連れていかれるのかなと思ったら厨房を出るだけだった。2枚扉のどちらも上部にアクリル製の窓があるから中が見えるし、中からもこっちが見える。そのお陰で川辺さんと目が合った。にこっとしてくれたから大丈夫っぽいね。日本の女性は総じて外面似菩薩内心如夜叉って言うから保証はできんけど。
「どう思った?」
水谷さんの天才語が炸裂。いい加減にしとけ?
タイミング的にリフィスのことだってのは想像が付くけど、
「リフィスの元気がないなってこと?」
水谷さんと弥生さんが顔を見合わせた。違うのかよ。
「糸魚川。怒ってなかった?」
ん? これは完全に想定外だった。反応を見るに水谷さんも同意見なのか。
「疲れてるってイメージだったけど」
「先生は人前で疲れなんて見せないわよ。特に5連勤をしてる私達の前でそんなのを表に出すような人じゃない。あと1歩で倒れるのだとしても隠し通すはずだわ」
んなもん知るか。俺はあんたらみたいなリフィスマニアじゃねえんだよ。
「なら見解の相違ってことで」
踵を返して厨房に、入れない。2人が腕をがっちりと捕まえてやがる。
「こらこら。なんで逃げようとするのよ」
弥生さんが訳の分からんことを言ってくる。逃げてませんけど。
「怒ってる2票の疲れてる1票で結論が出たじゃん。俺は異議申し立てをする気がないからリフィスが怒ってるってことでいいよ。だから議論は終了。OK?」
「そこまではOKだけどね」
水谷さんが美しい顔で睨みを利かせてくる。恐いってば。
「なんで怒ってると思う?」
「知らんがな。そもそも俺は怒ってるって思ってないんだってば」
てかさ。
「気になるなら本人に尋ねればよくない? こっちが勝手に推測したとこで合ってるかも分からんし、そもそも本当に怒ってのかも不明だし、何よりそっちの方が」
「合理的だし効率的よね」
「分かってんじゃん」
「正論は正論として受け止めるわよ。でも怒ってる人に『どうして怒ってるの?』って聞くのは火に油を注ぐ行為じゃないかしら」
「かもね。じゃあほっとけば?」
「でも気になるじゃないの」
「じゃあ尋ねれば?」
「同じことを言って欲しいの?」
「二者択一なんだからどっちかを選ぶしかないでしょうよって言ってんの。そんなのは水谷さんだって言われなくても分かってんでしょ?」
おこですよ。水谷さんが珍しく表情に出して怒ってますよ。
「碓氷くん」
「はい」
そりゃ敬語にもなるよ。
「何か困ったことがあれば言ってくれって先月に言ったわよね」
「……言いましたね」
渡り廊下のやつだな。俺が雉さんになっちゃったやつだわ。
「言ったらどうなるの? って私の問い合わせに碓氷くんはなんて答えた?」
「……力になるよ」
「よろしい」
水谷さんは満足げに頷き、一転して笑顔を作る。やっぱ女子って恐いわ。
「碓氷くん、困ったことがあるのだけれども」
「……俺でよければ力になるよ」
まさか本心を置いてけぼりにしてこんなセリフを吐くことになるなんて思いもしなかった。人生って本当にままならないな。
「リフィスのとこにいってきます」
「はい、いってらっしゃい」
水谷さんが笑顔で送り出してくれた。弥生さんはドン引きしてるけどな。
仕方ないから倉庫に向かい、小麦粉やら薄力粉やら砂糖類やらが山積みになってる部屋に入ってく。リフィスがいたのはその一番奥だ。デスクトップパソコンが置かれた机の前でパイプ椅子に座ってる。室内の照明は落とされ、パソコンのモニターだけが光を出してるせいで妙に雰囲気があるな。
それにしても。露骨に姿勢が悪い。パイプ椅子の背凭れにぐでーって背中を完全に預けてるぞ。やっぱ疲れてんじゃないのか。
「悪くない数字じゃね?」
俺はドアからまっすぐ来たが、リフィスにしてみれば真横から来た感じの位置関係になる。最初から侵入者に気付いてたみたいで驚いたような仕草は見せなかった。
「悪くないどころか2日の臨時休業を設けてもお釣りがきますね」
顔も身体もこっちに向けない。姿勢も正さない。確かにこれはちょっと変だな。
「あっちで何かあったのか?」
気付いたら口走ってた。これは随分と俺らしくないね。
こういうのはモブの役目じゃない。油野にお願いすりゃよかったなぁ。
案の定とでも言うべきか、リフィスは1分以上が経っても返事をしなかった。リフィスだって話すなら話すで相手くらい選ぶわな。表示されてる部分はもう見終わってるはずなのに、黙ってパソコンのモニターを眺めてる。
「悪い。踏み込み過ぎたな」
俺には荷の重いクエストだった。潔く戻るか。
「人でなし」
ぼそっとリフィスが言った。
「ん?」
「人でなしって。僕の誕生日に、正確には次の日の早朝だけどさ。千早がそう言ったじゃないか。そのことを思い出してたんだ」
リフィス口調じゃないことにも驚いたが、原因が水谷さんだってことにもっと驚いた。これってある種のマッチポンプじゃなかろうか。
「教え子に悪口を言われて傷付いたって話か?」
「いや、そうじゃない。あの時は特に何も思わなかったからね」
リフィスが左隣にあるパイプ椅子を引っ張った。座れってことかね。
「あの日、きみに店をお願いして地元に戻ったじゃないか」
腰を落とした直後にリフィスの回想が始まった。
「まず驚いたのはね。母がまったく取り乱していないことだった。気が動転するあまりに感情が動かなくなっているのかと思ったけど、そうでもないみたいでね。淡々と説明された。通勤中に交通事故に遭った。意識不明の重体。今晩中に結論が出る。思えば電話で伝えられた時も大して動揺してなかったなってその時に気付いた。それくらい僕の方が混乱してたのかもしれないね」
当日の泣きそうな顔が思い浮かんだ。冷静だったとは確かに思えない。
「手術の結果を待ってる間に母が言ったよ。父は盆も正月も帰ってこない僕に悪態をついてたと。事故の日の朝も、今年も帰ってこなかったとぼやいてたそうだ。育て方を間違えてしまったのかもなって呟いてもいたそうだよ」
リフィスはなぜか笑った。自嘲かとも思ったが、違う気がする。
「僕は思った。そのことを考えてぼーっとしてたから事故に遭ったのかなって。僕が家を出なければこんなことにはならなかったのかなって。散々ね、考えたよ」
気持ちは分かるが。根本は不注意と不運だ。リフィスに落ち度はないと思う。
「母は手術の間に水の一滴も飲まなかった。彼女はね。不幸にも主体性のない人だった。父が命じたことに従い、父が禁じたことを守り、父の存在がすべてって感じの人だったんだ。だが最初からそうだった訳じゃない。父が論理や合理や効率を理由に母の行動にケチを付けてばかりだったからだ。お前が考えるよりも俺が考えた方が早いから従え。お前に決めさせると間違いを犯すから勝手な判断をするなってね」
そう、と続けたリフィスはやはり笑っていた。
「僕は父にそっくりなのさ。あそこまで頑固じゃないけどね。根っこは同じだ」
正論だ。そんなことはないって言ったら感情論になる。けど言いたくなった。
「長い手術が終わって、お医者さんが出てきて、手術は無事に成功しましたって言われたとき、母は泣き崩れたよ。つられて僕も泣きそうになった」
ドラマでよくあるシーンだから簡単に想像ができる。少し、胸が温かくなった。
「絶対安静だから今日のところは僕らにできることがないって言われて、タクシーを拾って実家に帰ることにしたけど、母の体調が心配だったから何か食べていこうと思ったんだ。けどね。母は言うんだよ。お父さんが大変な時に私達だけ美味しいものを食べることなんてできないって。お父さん、このまま元気になるのかしら? って」
依存度のせいかな。どこかリフィスと水谷さんの関係に近い気がする。
「どうにか言い聞かせて、それでも外食は嫌がったから僕が作ることにして。父の意識が回復するまで親子水入らずの穏やかな時間を過ごしたよ」
ふっと息を吐いた。見れば右手を固く握ってる。
「そう、父の意識が回復するまではね」
リフィスが後頭部をくしゃくしゃと掻きむしった。
「僕を見た第一声はこれだ。今さら何をしに戻ってきた」
カッとなった。それが。それが心配して駆け付けた家族に対する言葉かよ。
「お前が呼んだのか。余計なことをするなっていつも言っているだろうが。そう怒鳴って近くものを母に投げ付けようとして、お医者さんに止められた」
異世界の話を聞いてる気分だ。本当にあるのか、そんなこと。
「けどね。最もショックだったのはその後に母が伝えてきた言葉だった」
リフィスが俺を見つめてきた。瞳に宿るのは、闇そのものだった。
「あんな人、死んじゃえばよかったのに」
息が、止まった。
「そこで気付いてしまったんだ。お医者さんが手術成功の報告をくれたとき、母は泣き崩れるだけでお決まりのセリフを言わなかったことに」
あぁ。
「ありがとうございますって」
思わず口を塞いだ。
「そうなると色々と考えることになる。例えば、お父さんが大変な時に私達だけ美味しいものを食べることなんてできない」
だって後で何を言われるか分かったものじゃないから。
「例えば、お父さん、このまま元気になるのかしら?」
そうならなかったらいいのに。
これほど純粋な悪意は初めて知る。人はそこまで人を憎めるのか。
胃酸が逆流してきた。口の中が酸っぱくなり、前かがみになって耐える。口から出さずに済んだ分、目から涙が出てきた。
「離婚を提案したけどね。ずっと専業主婦だった母は1人で生きていく自信がないと言ってた。その辺もきっと父に散々言われたせいだろうね。お前が外に出て何ができるとか。どうせ人に迷惑を掛けるのがオチだとか。そのせいかは分からないけど、一緒に暮らすかって提案も断られたよ。迷惑を掛けるのが嫌だって」
リフィスが背中を擦ってくれた。それでも吐き気は消えなかったが、気分は少しだけマシになった。本当はこっちが慰めないといけないのに。
「そして母と相談して愛知に戻ることにした。それで義務感で父にも伝えにいったらね。ここに残れって言ってきたんだ。お前1人いなくなったところで誰も困らんだろって。俺がこっちで働き口を探してやるってね」
勝手なことを言いやがって。何も知らねえくせに。
「父の手元にはスマホがあった。仕事の都合で使用許可を得たのかなと思ったら、ツイッターを見ていたようでね」
心臓が跳ねた。
「そう。ここ数日間のリフィスマーチの公式ツイッターだよ」
リフィスの顔色を窺ってしまった。彼は、それを見越したかのように笑顔を用意していた。
「くだらん。こんなことをするためにお前は出ていったのか。お前はどれだけ俺に恥をかかせたら気が済むんだ」
自然と右手を握り締めていた。その直後に、ドン! とリフィスが拳を机に叩き付けた。俺は目を瞠る。
「お陰で気付いた。育て方を間違えてしまったのかもなって吐露は、決して家族を顧みなかったことに対する反省じゃない。あれは、もっと自分に従順なしもべに育てるべきだった。そうしたら俺はこんな気持ちを味わわずに済んだのにって悔恨だ」
リフィスは息を吐いた。大きく、深い、しかし重くはない吐息だった。
「その時に思った。僕もね。母と同じことをさ」
目を閉じる。今は感情のコントロールを上手くできる気がしない。胸のざわめきが収まってくれるのをじっと待つ。
「けどね。同時に理解もさせられた。最初に言ったよね。僕は父にそっくりだって」
「似てねえよ!」
そこに論理性はない。ただの感情だ。さっきと違って勝手に口から出てった。
「お前は、そいつと全然似てねえよ」
「そうだといいね」
そう思ってなさそうな調子で言ってきた。
「虐待の連鎖って分かる?」
深呼吸をして無理にでも心の換気を行った。効果は薄いが、話はできそうだ。
「……虐待された子供は自分が親になった時に子供を虐待するってやつか?」
「それ。親の背を見て子は育つってやつだね。さすがに遺伝子のせいじゃないと思いたいけどさ。僕には限りなくその可能性があると思う」
「将来の嫁さんや子供を不幸にするって言いたいのかよ」
「弥生や宿理に死んじゃえばいいのにって思われるのはきついなぁ」
「そんなことを思う人じゃないだろ」
「そんなことを思う人にしちゃうんだよ。きっと」
リフィスは卓上の右手を頬杖に変え、
「それならどっちも選ばない方がマシだなって思った」
「それは。否定できんけど」
「というかさ。きみはあの誕生日の出来事のことをどう捉えた?」
「……シュークリームのことか? 今回の件を聞いて、やめときゃ良かったってちょっと思い始めてるよ」
「そこじゃない。あれは普通に美味しかったし、やられたなって思ったよ」
自然な笑みを見せてくれた。嘘には見えないな。嘘だと思いたくもない。
「千早と上条さんが僕らの恋愛関係について説教みたいなことをした時の話さ」
あぁ、あれか。
「本音か?」
「当然」
「黙れボケって思ってた」
笑われた。
「お前ら関係ねえだろって思ってた。相談した側だから言えなかったけどな」
「相談は相談でしかないよ。それ以上は余計なお世話。お節介ってやつだ」
リフィスは思い出すかのように言う。
「千早と圭介がシンと寺村さんの仲を取り持ったって話は知ってる?」
「堂本から聞いたな。裏のあるWデートをしたとか」
「そう。その時に僕は圭介に説教をしたんだ。望まれてもいないくせに他人の人生に深く干渉しようとするのは極めて愚かなことです。だっけかな」
「なるほど。まさにそれだな」
「だから圭介は僕らの件に対して中立を保ってるんだと思う」
あいつは優姫の件でも中立だったからただの性分な気もするけどなぁ。
「ちなみにお前はあの時の説教をどう思ったんだ?」
「んー? めんどくさいなって」
「……思いのほか雑だな」
「ならもっと細かく言おうか。実はカードを切るか悩んだよ」
その表現に胸騒ぎがした。こいつがそう言う時は大抵が、
「宿理との縁を切るかって」
想定通りの冷酷な解答だった。しかも理由が分かる。
「宿理先輩は上条先輩の幼馴染で、水谷さんの彼氏の姉だ。その人を傷付けることによってあの2人に後悔させてやろうって考えか?」
「ご名答。あの2人は出来がいいからね。これまでの人生でも後悔をしたことがさほどないんだと思う。だからあんなにぐいぐいと来る訳さ。自分は間違ったことをしてないって絶対の自信を持ってね。だからその鼻っ柱をへし折ってやろうかなって」
「宿理先輩からすれば最悪だな」
「そうだね。それもあの2人なら理解する。だからこそ効果がある一手さ」
2人に報復できて、恋愛の対象が弥生さんに固定されることで周りから煩いことも言われずに済む。ついでに言えばそれを契機に水谷さんはリフィスに対して頭が上がらなくなり、上条先輩の性格も多少はマシになるかもしれない。
「実に合理的だ」
「その評価はびっくりするね。素直に人でなしって言いなよ」
「まあ、どっちにしてもお前が弥生さんを選べばあの出来の良い2人はあの日のことをきっと思い出す。それで自分のせいかもって考えると思うから結局は同じだ。結論が早い分だけ効率的とも言えるんじゃね?」
「きみもまあまあ酷いね。知ってたけど」
「できれば宿理先輩の涙は見たくないけどな」
「僕とくっついても母みたいな人になるリスクがあるんだよねぇ」
「あの元気の塊がそうなるのは想像できんけどな」
「それは言えてる」
笑い合う。そして、
「実は昨晩に優姫と川辺さんから告白された」
リフィスが目をぱちぱちさせた。
「相山さんもか。これはまた随分と面倒になったね」
「面倒ってお前」
「違うの?」
「状況だけで言えば面倒だな。気持ちは嬉しいけど」
「モテる男はつらいねぇ」
「お前が言うな。実際、どっちに傾いてんだよ」
「二者択一なら弥生になる」
「それはただ宿理先輩が未成年で結婚できない年だからって理屈じゃねえの」
「正解。今年の4月から女性も18歳以上になっちゃったからね」
「逆に言えば来年以降ならワンチャンか?」
「どうだろ。この店のこともあるしなぁ。弥生との関係がこじれるのはちょっとね。けど宿理の好意も素直に嬉しいとも思うんだ」
「ふむ。つまりだ」
俺はイケメンクソ野郎を睥睨しながら言ってやる。
「選ぶのはこっちじゃない。選ばせてみろってことか」
要するに、惚れさせてみろ。話はそれからだ。ってことだな。
「そういうことだね。ってことで1個相談があるんだけどさ」
「なんざんしょ」
「手を組まないかい?」
「……急に胡散臭くなってきたな」
「調べてみたら例のリアル脱出ゲームってスマホの利用が可能なんだよね。たぶん知識量の要素で詰みを出さないための保険だと思うんだけど」
「それはLINEで答えを教え合うってことか?」
「そんな感じだね。全員が同じ問題になるかは運任せだけどさ」
悪くない話だ。素直にそう思った。
「カンニングの扱いになるかもしれんからルールを確認してからだな。問題なかったら受け入れるわ。俺のチームが役に立てるかは分からんけど」
「OK。条約の内容についてはまた明日にでも詰めよう。というかそろそろ戻らないと仕事をサボってると思われるよ?」
弥生さんが絡んでるから大丈夫だとは思うが、
「じゃあ戻るわ」
「うん。ありがとね。色々と」
「おう。気にするな。色々と」
立ち去る際にリフィスの背中をぽんと叩いた。他意はない。ただそうしたかった。
一応はトイレの手洗い場で顔を洗ってから厨房に向かう。通路に2人の姿はなかったが、厨房のドアの前で突っ立ってたら5秒ほどで2人がこっちに来た。
「どうだった?」
水谷さんの電光石火。
「怒ってたし、悲しんでた。その結果で疲れてた感じ」
「……悲しんでた?」
首を傾げる水谷さんにちょっとイラっとした。だから俺は言う。
「水谷さん、セクハラしていい?」
「……程度によるけれども」
程度次第でいいのかよ。まあ言うけど。
「自分の胸に聞いてみな?」
一瞬で思案顔になった。そこにコンプレックスを持ってるやつだと答えのバリエーションが豊富過ぎて難しいだろね。
少なくとも自分のせいかもしれないってことは分かるだろ。
せいぜい苦しめ。人でなしと鳴いた雉は撃たれるべきに決まってんだからな。
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