6/27 Mon. ミステルテイン
空梅雨終了のお知らせ。もうすぐ期末テストっていうのも相まって心まで曇天模様になってしまうな。勉強したいのは山々だが、今はソシャゲの周回イベの最中だからなぁ。1日2時間ネトゲをやっても学力が下がらないチート野郎がむかつくぜ。
そんなことを考えていたせいかもしれない。技術科棟への渡り廊下を歩いてたら唐突にバシン! と身体が前に傾くほどの強さで背中を叩かれた。なにこれ天罰?
恐る恐る振り向いてみたら美少女がいた。なんだ、見知ったタイプの美少女か。ラブコメに発展させるには初見タイプの美少女を見つけないといけないのに。
「よっす!」
宿理先輩だ。なるほど。あのイケメンクソ野郎をチート扱いしたから姉として罰を与えにきたのかね。エスパーかな?
「すんませんした」
一礼して前進する。油野姉弟は見た目が良いせいで長く一緒にいると様々な問題が生じるんだよ。特に宿理先輩の場合は知名度も高いせいで普通に校舎裏とかに呼び出される。呼び出すなら宿理先輩にしろよ、チキン野郎どもがよ。
「ちょいとお待ちよ!」
背後から肩を掴まれた。ホラー映画よかよっぽど恐い状況だわ。どうしてこの手の女子って男子相手に軽々しく触ってくんのかね。自分の魅力を自覚しろよ。
「3秒以内に離さないと惚れますよ?」
「いいわよん。3秒後にふってあげるから!」
クソ! 可愛いなぁ! もう! いいわよん、の部分までを録音して落ち込んだ時に聞きたいわ! ヘビロテしたいわ!
いや、にやけてる場合じゃない。そこかしこから殺気を感じる。ジャンルがホラーからサスペンスに変化しそうだ。
俺が振り返ろうとしたら宿理先輩は肩を離してくれた。これ、今なら逃げれるんじゃね? それが一番いいんじゃね?
「逃げようとしたらどうなるか分かってるかにゃ?」
やはりエスパーか。ゴクリ、と唾を飲み込み、聞いてみる。
「どうなるんすか」
「1年8組碓氷才良くんのえっち! って叫ぶ」
「ご丁寧に所属まで晒し上げて社会的に殺すのやめてくださいよ」
てか碓氷って苗字も才良って名前も珍しいからクラスの情報いらねえよ。すぐに身バレするわ。それにしても、今のまじで録音したかったな。なんかすごくドキドキした。今度どうにかして優姫にエッチって言わせる計画を立ててみるか。
「ところで技術科棟に何しにいくん?」
「あぁ。メシっす。いつも部室で食うんで」
「部室? 何の部活?」
「料理研究会っすね」
「あー、
宿理先輩ってメジャーな三河弁も使うんだな。女子の言う『かや』ってなんか可愛い。個人的には『かな』より好きだわ。男が言うと圧を感じるけど。
「愛宕部長のこと知ってんですね」
「1年の時が同クラだったし、あたしってこれでも生徒会メンバーだし」
「なるほど。それじゃあ良いランチタイムを」
一礼して技術科棟に向かう。今度は肩を掴まれなかった。宿理先輩のことは好きだし、話すのも嫌じゃないけど視線がな。周囲からのヘイトがきつすぎる。
技術科棟の入口でスリッパを履き替えて二階への階段を踏み、
「ところでさー」
ついてきてんのかよ。こういうとこが姉弟だよな。まず許可を取れよ。
「宿理先輩も技術科棟に用事っすか」
振り向いて確認する。宿理先輩はにこっと笑って、
「せっかくだし、一緒にランチでもどうかなってね」
理由まで弟と同じかよ。あんたは弟と違って愛想がいいから女子でも男子でも一緒に食べる相手はいくらでもいるでしょうよ。
正直、迷う。理由は4つ。
1つ。宿理先輩と一緒に昼食を取ったって噂が流れると困る。
2つ。宿理先輩からの誘いを断るのは気が引ける。
3つ。敬語じゃないにしてもタメ口を使えない相手と長時間過ごすのはつらい。
4つ。入学から今までこんなことはなかった。きっと裏がある。
まあいいか。打算で行動しすぎるのも良くないよな。
「階段で女性をエスコートする時って男が下に付くんでしたっけ」
「うい。足を滑らせた時に支えて貰うためにね」
俺の力で支えられるかね。宿理先輩はモデルをやってるだけあって軽そうだけど、俺のSTRは初期値に近いからな。一緒に転落するのが目に見えてる。せめてクッションとして活躍しようか。高確率で天に召されてしまうけど。
一応は宿理先輩もそれを見越してちゃんと手すりを掴んでくれた。5段くらいまで先に上って、
「あんま離れるとぱんつが見えちゃうから早うきんさい」
だったらスカートをそんなに短くすんなよ。という愚痴を飲み込み、俺は宿理先輩の背中を追っていく。そして思った。黒タイツってエロいな。
30秒ほどで2階に到着し、そこからは肩を並べて歩いていく。家庭科室を通り過ぎ、家庭科準備室のドアに手を掛けたところで気付いた。
あっ、内炭さんに宿理先輩を連れてくって言ってなかったわ。
どうでもいいか。どうせ油野絡みの案件だし、拒否されることはないだろ。我ながら宿理先輩との食事を迷う理由の中に内炭さんを入れなかったのはさすがに薄情かとも思ったが、俺らの関係性だとこんなもんだよなって感じもする。
油野は火木にしか来ないって伝えてあるから優姫がいないことは約束されてるが、はてさて。いっちょドアをスライドさせてみますかね。
がらがらと音を立ててドアは動いたが、いつものように身体を窓に向けてる内炭さんはこっちを見ようともしない。これ、何をしてんのかね。梅雨の風景に思いを馳せながら心の中で短歌でも作ってんのかね。風流だなぁ。
俺は例によって内炭さんから長机を2個挟んだ位置のパイプ椅子に座り、宿理先輩は俺の左隣、通称油野席に座った。弁当箱とほうじ茶のペットボトルを卓上に置き、
「ねぇ」
早いよ。
「なに?」
えぇ。こっちも早いよ。宿理先輩が返事しちゃったよ。
「え?」
セオリー無視の行動に、いや、声が女子のものだったせいか、内炭さんは勢いよくこっちを向いた。
「えぇ!?」
宿理先輩を視認した瞬間、内炭さんが体勢を崩して椅子から落ちそうになった。危ないな。リアクションが大袈裟なんだよ。芸人魂を見せるのはギャグだけでいいよ。
「え? なんで?」
姿勢を整えた内炭さんが俺と宿理先輩を交互に見遣る。そうだな。説明しよう。
「渡り廊下を歩いてたら背後から殴られて、逃げようとしたら肩を掴まれて、それでも逃げようとしたら脅されて、なんやかんやで一緒にメシを食うことになった」
「あたしってば超犯罪者じゃん!」
けらけらと笑う宿理先輩。対する内炭さんはドン引きだ。
「……その状況からご飯を一緒するまでのなんやかんやがすごく気になるんだけど」
「特にこれと言った決め手はないから軽度のストックホルム症候群かもしんないな」
冗談を言いながら弁当箱を開ける。おお、赤は鮭の切り身、緑はキュウリの浅漬けの黄金パターンだ。元請けとしては下請けに仕事を出せないのは心苦しいけど、こういう時代だからしょうがない。本日、内炭さんの見せ場なし!
「しゃけいいなぁ。おかずの交換してくんない?」
宿理先輩が弁当箱を差し出してくる。なんかリア充みたいな展開だな。
俺としては全くもって構わないのだが、こういう経験が全然ないから相場が分からない。鮭の切り身と鶏の唐揚げのレートは同じなんかね。これが宿理先輩による手作り弁当なら付加価値もあると思うし、けどきっと作ったのは油野ママで、この鶏の唐揚げに至っては冷凍食品にしか見えない。どうしようか。
「卵焼きでどうよ」
「卵焼きは俺の弁当にもあるんですけど」
「たぶん味が違うからいっかなあって」
「なるほど。油野家の味ってやつですか」
油野家の味というワードで内炭さんの眼光が強くなった。恩は売れる時に売っておいた方が良いって聞くしな。俺の新技たる
「じゃあ卵焼きで。油野家の味を研究するのも部活動の一環と言えますし」
完璧な論理。非の打ち所がない。これを内炭さんと目を合わせながら言った。彼女は慌てず騒がずゆっくりと、ただし力強く頷く。
「碓氷くんの飽くなき探求心にはいつも感銘を受けてしまうわ。ぜひとも私にも手伝わせてちょうだい。必ず力になってみせるから」
想定の5倍くらい話を盛ってきやがった。
「ほえー。2人とも真面目すぎっしょ」
ピュアな宿理先輩が騙されちゃってるよ。内炭さんが真剣な表情で言うから。内情は超が付くほどの不真面目なのに。
宿理先輩は卵焼きを俺の白米の上に乗っけて、焼鮭の切り身を持ってく。とても嬉しそうだ。こんなことで美少女の笑顔を見られるなら鮭の丸焼きを持ってくるのも吝かじゃないな。
俺は俺で受け取った卵焼きをまだ使ってない箸で半分に割る。あっ、6:4くらいになっちゃったな。誤差の範囲だけど大きい方をあげよう。
昨日の部活の時から誰かさんの手掴み対策として卓上に爪楊枝を置いてる。顎の動きで示唆してやると、内炭さんは爪楊枝を取って研究対象を持ち上げた。
大したサイズじゃないから2人とも一口でいった。美味いな、これ。我が家と違って全然甘くない。けど塩っ辛くもない。なのに味は濃いから米に合いそうだ。
「塩とみりんは分かるが」
目を閉じてもぐもぐしてる内炭さんは真剣そのものだ。視覚のリソースを味覚に割くとは。本気でリバースエンジニアリングみたいなことをする気だな。
「……かつお節? にしては風味が強すぎるような。普通のかつお出汁でもないと思うし、旨味成分も大きく感じるから。だしの素みたいな粉末タイプの出汁かも」
ガチすぎる。この反応には宿理先輩もやや興奮気味だ。
「すげー。ほぼ合ってるわよん。かつお節をメインに煮干しと昆布と、気分で干し椎茸をフードプロセッサーにぶち込んで粉々にしてるんよ。自家製だしの素ってやつ。気に入ったんなら圭介に少し持たせよっか?」
「ぜひ」
僅か2文字に全身全霊の力を感じた。油野家の味の入手+油野との接触を同時に提供される訳だしな。優姫にバレたらまた紛争が勃発しそうだ。
「配達先を聞いてもいいかしらん?」
ここで内炭さんが己の失態に気付いたようだ。慌てて立ち上がって、
「ご挨拶が遅れました。1年5組の内炭朱里と申します」
恭しく一礼した。丁寧すぎる挨拶に宿理先輩がけらけら笑う。
「あたしも自己紹介すんの忘れてた。2年1組の油野宿理よん」
知っとるわ。あんたはこの学校においては中世の貴族くらいの知名度だわ。
「えっと。できれば部室がいいんですけど。教室だと人の目があるので」
「気にしすぎっしょ。粉っつっても麻薬の受け渡しじゃないんだから」
陽キャに陰キャの気持ちは分からんだろね。これはフォローがいるわ。
「ほら、油野って目立つじゃないすか。あの野郎が急にクラスに来て女子を指名したら騒ぎになるんすよ。その上でプレゼントを渡そうものなら、ね?」
「なるっほ。その話を聞いたらちはやんもいい気はしないかもめ」
水谷さんのお陰で助かった。てか譲渡の話はこっちで済ませばいいな。今晩にでもLINEでその辺の内容を詰めておこう。部活中に持って来られても困るし。
そして世間話をしながら弁当を食べ、完食をしても世間話が続くから、この食事会に裏があるって考えてたのは邪推にも程があったようだ。
宿理先輩と内炭さんも打ち解けたみたいで、途中からお互いの呼び方も変わった。
「宿理先輩の載ってる雑誌を持ってるんですけど。サインとかってダメですか?」
内炭さんは油野先輩から宿理先輩に変化。油野油野うるせえから助かる。
「あたしはサインとかないんよ。すみちゃんへ、くらいなら書いてもいいけど」
宿理先輩はウッチーを内炭さんに却下されたからすみちゃんに決定した。ウッチーはなんか陽キャっぽいもんな。すみちゃんは地味な感じがあるし、陰キャ向けだ。
「それでお願いします。ところで宿理先輩」
「へい」
「今日の油野くんって少し変だったんですけど。何かありました?」
宿理先輩はぱちぱちと目を瞬かせた。それからぐでーっと長机に顔を寝かせて、
「やっぱそうなん? あいつ、昨日の夕方くらいから部屋に引きこもってて、夜ご飯も食べなくて、朝もどこか上の空って感じだったんよね」
チラッと俺を見てくる。知らんがな。今は休日に会うほどの仲じゃないし。
「サラなら何か知ってっかなって思ってきたんだけどね」
「サラちゃん、何か知らないの?」
「ネトゲのメインキャラの名前がサラだから宿理先輩はいいけど、内炭さんに言われるとなんか心が荒むからやめてくれんか」
ふむ。裏ってほどじゃないけど、やっぱ目的はあったんだな。そうじゃないと美少女が俺なんかをメシに誘う訳がないもんな。俺、ハニトラに詳しいんだ。
「そういえば宿理先輩と碓氷くんって同じネトゲで遊んでたんですよね」
「遊んでたっつーか、だべってたっつーか。そんな感じだけどねい」
「油野くんと碓氷くんからリフィスさんって人の話をよく聞いてまして」
まずい。宿理先輩の目の色が変わった。口元も緩んでるし、ついさっきまで展開してたアンニュイモードはどこにいってしまったんだ。
「ふっふふーん。学校でりっふぃーのことを話せる相手なんて圭介とサラとクボくらいだし、今日はいっちょサラを捕まえてりっふぃー話に花を咲かせようと思ってたんだけどね。すみちゃんがりっふぃーを知らないと思って我慢してたんよ」
宿理先輩が上体を起こして両手を頬杖にした。前に内炭さんが同じポーズをしてたが、プレイヤーでこうも違うんだな。超可愛いよ。
「あれ? 宿理先輩は油野くんのことが心配で碓氷くんに暴行を働いたんじゃ?」
そうだよ。あれは暴行だよ。償いとしてまたやって欲しいわ。
「んなわけないっしょ。圭介のことはついでよ、ついで」
姉の非情な発言に内炭さんが口を真一文字に結ぶが、宿理先輩はそんなのどこ吹く風と言った感じでスマホをいじった。そして待ち受け画面を俺に見せてくる。
宿理先輩と大学生くらいのイケメンとのツーショットだ。まさかとは思うが、
「これ! りっふぃーなんよ! どうよ! ちょーかっこよくない!?」
かっこよすぎてディスコードのフレンド登録を解除しそうだわ。理屈を捏ねくって相手を黙らせようとする点からネット弁慶を拗らせた陰キャだと思ってたのに。
「すみちゃんもおいで!」
手招きして後輩を呼び寄せる。これも一種のパワハラかな?
「確かにかっこいいですね」
油野くんには負けるけど、って瞳が語ってる。目は口程に物を言うってまじだね。
リフィスのイケてるとこを見ながら宿理先輩があれやこれやとデレデレした感じで喋ってると、不意に単発の着信音が聞こえた。発生源は目の前のスマホだ。
「友達からLINEが来ちゃった。ちょっと待ってね」
俺らに内容を見られないように宿理先輩はスマホを立てて、
「んんん?」
眉を曇らせた。それから俺と内炭さんを順に一瞥して、
「さっき圭介が1年の廊下で女子を怒鳴って泣かせて抱き付かれてたって」
は? あのイケメンクソ野郎。公衆の面前で何をラブコメってんだ。
「女子って。水谷さんですか?」
やや不機嫌そうな声色で内炭さんが当たり前のことを言った。
「うんにゃ。
違うのかよ。てか彼女の親友と衆目の下でハグとか。くたばればいいのに。
「その高橋さんって子が泣きながら油野くんに抱き付いたんですか?」
「らしいわねん。親友との三角関係とか圭介には荷が重そうだけど」
内炭さんの瞳に覚悟の炎が灯った。
「私、油野くんのことが好きなんですけど」
これにはさすがの俺も茶化す気になれなかった。固唾を呑んで見守る。
「私みたいなのが油野くんをって言うと笑われるかもしれませんけど」
「なんで?」
宿理先輩はこれ以上ないくらい真剣な表情で尋ねた。
「え?」
内炭さんが面食らうのも無理はない。宿理先輩らしからぬ顔だしな。
「圭介のことが好きなんでしょ? それのどこに笑う要素があるの?」
「えっと、その、私と油野くんだと色々と釣り合わないですし」
「バカバカしい」
どこか芝居がかった印象のある言い方だった。
「釣り合うだの釣り合わないだのと言った評価に何の価値がありましょうか。何の意義がありましょうか。もしもあなたがご自身を否定的に評するのなら、私がその評価を否定しましょう。もしもあなたの恋を笑う者がいるのなら、私がその者を嗤ってあげましょう。あなたの恋心は、決して、恥ずべきものではないのですから」
内炭さんの瞳が揺れた。俺も少しだけ、ほんの少しだけ心が揺さぶられた。
「あたしもすみちゃんと同じようなことを考えてる時があって、それを、まあ、卑怯なんだけど、本人に恋心を隠したまま相談したことがあって、そしたら今の言葉をくれて、パソコンの前で泣いちゃったなぁ。嬉しくってさ」
「分かります」
「分かるっす」
「まあ、ふられちゃったんだけどねえ」
宿理先輩は懐かしむようにスマホの待ち受け画面を眺めた。
「あの、すみませんでした」
内炭さんが頭を下げた。しかも上げない。下げっぱなしだ。
「お? どしたん?」
「私、宿理先輩みたいに可愛かったら恋愛で悩むことなんてないって思ってました」
「んなわけあるかい。悩んでばっかだっつーの」
笑って言ってくれたお陰で内炭さんも顔を上げやすかったに違いない。
「この写真を撮った日もさ。前日にあたしの方からデートに誘ったのにさ。もうね。姿見でどの服を身体に当てても全然似合ってる気になれなくてさ。服はいっぱいあるのに着る服がないんよ。おかしいっしょ? それで時間なんてあっという間に過ぎてっちゃうし、お父さんにメイクをして欲しかったのに出張でいなくて泣きそうになったし、お母さんにして貰って、似合ってるよって、可愛いよって言われても全然そんな感じに思えなくて。自信なんかこれっぽっちも持てなかったなぁ」
苦笑する宿理先輩を見つめながら、内炭さんは俺の方を一瞬だけ見てきた。先週にした説教のことを思い出してるのかねぇ。
恋する少女達はこのまま恋バナに興じるようだったから、俺は内炭さんに席を譲って窓際に立った。外はしとしとって表現が合うくらいの雨量だ。
空は雨雲で覆われ、真昼なのに照明を必要とするくらい部室の中も暗い。
その状況のお陰で中2の時に油野から聞いた話を思い出した。
宿理先輩の名前はヤドリギから来てるらしい。油野ママがヤドリギを好きとか、命が宿ってくれたことに対する感謝とかもあるそうだが、中2でヤドリギと言えばミステルテインとかミストルティンとかになる。
北欧神話で光の神バルドルが死ぬ原因となったもので、光の神を失った世界は闇で満たされ、中2が大好物の
この程度の暗さで大袈裟だとは思うが、こんな感じなのかなって思った。宿理先輩が笑ってないからかね。あの人は本当に笑顔が似合う。それこそ光の神をヤドリンが刺殺したとしても光の女神として世界を照らせられるほどに輝かしく笑ってくれる。
まあ、心配はいらないけどな。どうせ10分もしたら笑いだすし。
なんせヤドリギの花言葉は『困難に打ち勝つ』と『忍耐』だ。
いつになるかは知らんが、陰ながら応援していよう。
あの第2のイケメンクソ野郎との恋の成就を。
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