甘いため息

 私はため息をついた。なぜなら恋に落ちたからだ。


 あの運命の出会いの日、公衆の面前で悪霊に捕まっていた私は、恥ずかしさで死にそうだった。


 そんな私の前に彼は現れ、

「ちょっとごめんね」

 と四つん這いの私の肩に触れた。


 痺れるような感覚と共に身体が軽くなり、私を抱き起こした彼はなんと……


 そのまま熱烈なキスをしたのだ!


 心まで吸い取られそうな甘~いやつ。


 放心状態の私をベンチに座らせ、

「じゃ、キスしてごめんね。悪いやつには気をつけて」

 そう言い残し、彼は足早に去っていった。


 キモデブ悪霊はいつの間にか消えていた。

 彼は私を助け、ファーストキスと心を奪ったのだ。


 私は彼に会いたくて堪らない。




「私の救世主さん、どこ~? 」


 私は今日も渋谷の街を探し歩く。人がうじゃうじゃいるこの場所で、正直彼を見つけられるかは自信がない。


 私の王子さまの特徴は、


 黒ぶちメガネで少しクセのある黒髪

 優しい声と話し方

 白の襟つきシャツと黒パンツを着ていた

 細身で20代後半くらい


 そして、キスが甘い!


 ということだ。


 片っ端からキスするなんて16歳のウブな私にはとてもできない。


 いや、普通に考えてもできない。


 地元には恋愛対象になる男の子もいなくて、手を繋いだこともなかった。

『きゅんっ』未経験だった。


 今はこうして放課後渋谷に通うだけでドキドキする。ラブパワー恐るべし!


 ハチ公像の前で、キョロキョロと周りを見渡す。芸能スカウトやナンパが寄ってくるが冷たく断る。


 私が願うのはひとつだけ。

 彼との再会だ。キスの理由を教えて欲しい。


 そして、もう一度……


 人混みの中にあの日の面影を見つける。



 私は声をかけた。

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