優しい私

@tonari0407

ため息

 私はため息をついた。なぜなら誰も声をかけてくれないから。


 都会、待ち合わせで有名な場所、可愛い女の子、そして悲しげな顔!


 これだけ条件がそろってたら誰か来てもいいものなのに、誰一人として寄ってこない。


 見られていない訳ではない。

 視線は感じるが目が合っても近づいてこないのだ。


 都会人は非情過ぎる。

 だから東京に来たくはなかった。

 人が沢山いる場所は色々大変だ。


 出会いに期待した自分が馬鹿だった。仕事が人手不足だからって引き受けるんじゃなかった。


 過去の優しい自分を恨むわ……。

 こんなの無理! 都会サイズ!


 田舎に帰りたいよ~。

 誰か助けて!


『ケケケ……ゴーストスイーパーもこうなっちゃ形無しだなァ』



 ◇



 私はため息をついた。なぜならハチ公像の横でセーラー服の女子高生が四つん這いになっているからだ。


 その奇行に道行く人は二度見していくが、声をかけるだけの勇気のある人はいない。

 それどころか白い太ももの上を揺れるスカートを、楽しげに眺めるクソ野郎まで現れる始末。


 その内警察が来るだろう。

 でも私は知っている。これは普通の人には対処できない。


 彼女の上にドデンと乗り、拘束しているのはスケベ面した悪霊だ。しかも人間の醜い欲望を吸収しまくってブクブクに太っている。


 正直触りたくもない。


 取り巻きの一人がこっそりとスマホを取り出し始めたので、私は再度ため息をつきながら彼女に向かって歩き出す。


 前途ある若者の未来を壊すのは忍びない。

 SNSで拡散されたら、霊を祓うよりも厄介なことになる。

 私の唇が汚れる位は仕方ないだろう。



 これだから、もう除霊はやめたのに……。



 私は声をかけた。

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