第35話王都に舞う砂塵 急 邂逅
「ああああああ!」
俺たちはメタルマイマイ2世で、エリモスへの道を直走る。この勢いなら凡そあと2時間もかからずに到着するだろう。
王都まで約6時間、エリモスまで1日の距離をどう縮めたかといえば、メタルマイマイ2世の実力に他ならない。
ならないのだが……
「リ、リテル!これっ早過ぎ!ゲフッ」
「……中々、目が」
「いいいい、言ったじゃろ?急ぐには最適じゃと!」
メタルマイマイ2世のパワーアップモード。
メタルダンゴムシ2世モードにより、エリモスまでの道を凄まじい勢いで戻っていたのだ。
それはメタルマイマイ2世の殻の部分に搭載された可変機構であり、車体全体を覆うようにして球体になる。
更には魔力によってスラスタージャンプのように加速。勢いで回転を始め、道を転がるように走るという際物なのだ。
『道にある他の車は勝手に避けてくれる。車内のワシらは例によって伸び縮みするからの。"頭をぶつける心配は"ない』
先ほど交わした会話を思い出し、ため息を吐く。大分急ぐことが出来てるとはいえ、着いた時にはろくにたてないんじゃないかと思う。そんな事を危惧していた時だ。
メタルダンゴムシ2世が浮いたのは
「な、なんじゃ?コントロールが効かんぞ!」
コントロールできていたのか?という疑問は置いておいて、緩やかに回転が収まり始め、停止。ふわふわと浮いている感覚がし始めた。
変な所走って遂に飛んだかと危機感を覚える。が、ウェスが窓から外を見て口を開いた。
「2人とも、大丈夫です。援軍ですよ」
ウェスが上を指差した先。未だ回る目には赤と白と、金の縁取りの紋章が見えた。
「シェブローラ!まあ、これだけの騒ぎになれば特装が出張るか」
ふう、と一息をついたリテルとウェスに対し、状況を把握できていない俺は、とりあえずあの回転が止まった事を喜ぶのだった。
『3人とも、合流できてよかった』
俺たちはメタルマイマイ2世ごと、魔法で引き上げられた。
この船の名はシェブローラというらしいのだが、現在俺たちは後部ハッチの部分に格納されている。
『すまないが、作戦開始地点到達まで時間がない。このままの状態で君たちを空輸させてもらう』
セーマさんの声がメタルマイマイのスピーカーから聞こえてくる。
リテルの持ってる通信端末を何らかの魔法的技術でメタルマイマイに繋げて、やり取りしているらしいが。
正直、ファンタジーさのカケラもない光景だった。
(うーむ、使用しているのが魔法的な物でも、見えてるものが…)
そう思ったところで、俺は思い直す。
【高度に発達した化学は魔法と見分けがつかない】というのは、こういうことだろうかと。
ここでは意味が逆になるのかもしれないが、向こうで当たり前にやっていたことも、実は魔法のような事だったのかもしれない。
そんな事を考えながら、フロントガラスから格納された場所を見渡す。
数人のスタッフのやり取りが見え、今は大きな木箱の運搬が行われている所だった。
ふと船の壁の方に視線を移すと、外壁は鉄のような物で覆われているようでしっかりとした造りのようだ。
(空を飛ぶんだから、そりゃそうだよな)
以前流れ込んだ知識の中に、飛行機械は魔力で文字通り浮くとあった。
その為、エンジン音などが一切しない。なんだか不思議な感覚だ。
「トウヤ、そろそろ到着です」
キョロキョロと窓からシェブローラを見渡していた俺に、ウェスからの声がかかった。
「え?もう着いたの?」
「はい。この船は特殊装騎が持つ最速の船ですので。例えばグラナリトスを横断するくらいなら1時間で着いてしまうくらいには」
(グラナリトスって、そういやどれくらいでかい大陸なんだ?)
俺は思い出そうとするが、その必要はないとばかりにウェスが続けてくれた。
「この大陸はトウヤの住んでいたニホンより少し小さいですが、そうですね。あちらの換算で2500キロ程になります。なので、どれだけ早いかはわかっていただけるかと」
「それは、大きいね。なんか、いつも身近な例えで助かるよ。ありがとう」
「いえ…」
何でもない事のように笑ってくれてるけど、こういう細かい気遣いがウェスはすごい所だと思う。
特に最近はウェスが俺の考えていることに先回りする事が増えたし。なんだろ、俺の考えってそんなにわかりやすいんだろうか?
(そう!まるで心を読まれてる、よう、な……?)
ほんの一瞬、思考によぎった、くだらない考え。
しかしその一瞬。なぜか寒気がした気がした。
(……って、いやいや)
ウェスは心を読むのをオフにしたと言っていた。勿論オンにもできるとは言っていたけど、俺に関してはウェスに対して害意がないから読む必要がない、という信頼を置いてくれていた筈。
(……ウェス?)
試しに心の中で問いかけてみるが、ウェスはすでに俺のそばを離れ、リテルに今からの段取りか何かを話しているようだ。
2人の談笑が聞こえて来る。
(まあ、そんなわけないか。あれかな、ウェスと一緒に戦う内に以心伝心になりつつあるとか。なら、嬉しいな)
「……ふふ」
リテルと楽しげに笑うウェスの声が聞こえた。
それは、なぜか強く印象的に、俺の耳に残るのだった。
『再確認します』
あの後少しして。
俺たちはエリモス上空に無事到達。
セーマさんからの状況説明を受けていた。
『この砂嵐は、王都に向けて道中の魔力を吸収しながら進行、規模としては王都を飲み込む程の竜巻となった』
それはマルティアが聖弓というものを使って一度は散らしたらしいが、勢力は衰えず、むしろ増しつつあるとセーマさんは言う。
『このままでは確実に王都を飲み込む。魔層壁があればそう簡単には落ちないが、この砂のように高濃度の魔素を受け続ければ流石に危険だ』
『そこで、あなた方の出番だ。シェブローラには触れた魔力、魔素を霧散させる装甲がついている。つまり、砂の中を突っ切って進んで着陸可能な所に君たちを降ろすから、トウヤ君には砂を操る何かと対峙し、可能であれば止めてほしい』
「ん?ワシらが先陣をきるのか?」
リテルが訝しげな声でセーマさんに問いかけるが、確かにそうだ。
ディブロスさんの真意を問いたい俺からしたらありがたいことではあるけど、本来こういう時ってセーマさん達みたいのが先に動くんじゃ?
そう考えた俺たちに対して、セーマさんからの返答はシンプルだった。
「はい。トウヤ君も魔素に耐性があるでしょう?あなた方が適任です」
「あーあー、大変なことになっとるの」
エリモスの郊外、例のあばら屋付近に俺たちを下ろしてくれたのち、シェブローラは現在エリモス上空を旋回しながら待機している。
俺たちはといえば、吹き荒れる砂嵐の中をメタルマイマイ2世を頼りに突き進んでいる最中だ。
目的地はとりあえずあの宮殿にセットして進んでいたのだが…
「む、家屋が倒壊しとる」
「人も沢山倒れてますね。恐らく…」
「魔素中毒か、魔欠か。そのあたりはみてみんとわからんの」
「…ふむ」
俺はまた聞きなれない単語を聞いたので"思い出す"努力をする。いつまでも2人に捕捉してもらってたら迷惑だろうし……
と、頭をめぐらせた所、一瞬で答えは出た。
【魔素中毒】
濃密な魔力は魔素となり、魔素は人にとって毒となる。濃縮酸素みたいなもの
【魔欠】
魔力が圧縮された際に魔素となる為、人間の呼吸に必要な魔力が空間から消失。酸欠と同じもの
「……あの人たち死んじゃうんじゃ?」
俺達は何で平気なんだ?メタルマイマイ2世に仕掛けが?と考えた所、またすぐに答えは出た。
【魔素耐性】
亜人の魔素への耐性は非常に高い。
人間は体を作り変えられる事で抵抗を持たせることも可能
(なるほど?つまりリテルは亜人、俺はこっちにくる時に作り替えられてるし。……あれ?)
何か、ほんの些細なことだが、引っかかる状況に思案していると、リテルは先程の俺の問いに冷静に返答してきた。
「そうじゃな。このままいけば確実に。もう死んどるかもしれん」
俺は、リテルの一瞬とても冷めたような口調に驚き顔を見る。
そんなリテルの顔は、死に慣れているような、或いは……
なんとも言えない、冷たい目を見て、何もいえなくなってしまった。
「…トウヤ、とりあえずディブロスさんを見つけましょう。そうしないともっと多くの人がこうなります」
ウェスは車内から周りを見渡す。
倒れ伏している人々の中には、いつか見た、子供の姿もあって。
「急ごう」
スピードを上げた。
……暫く進んだ俺たちは、ディブロスさんを見つける事が出来た。
しかし、はたしてあれがディブロスさんなのか?と言われれば、多分としか言えない。
手にはアレゾーク、煌々と光り隆起した角と大柄な体格。あの時見た鬼、のはずだった。
「なんじゃ?アレは…」
鬼の下半身には、いつか海に叩き落としたはずの。
悪しき者が言う魔竜がまるで、下半身に寄生するかの如く喰らいついていたのだ。
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