第23話 砂上の独立都市(前編)
王都アトレーシスから何キロ南下しただろうか?
舗装された随分乗り心地の良い道路を下がり続けて1日と6約時間。
寝ている間についていたのは砂漠の独立都市。
・・・砂漠の独立都市
そう聞いて俺がまず思い浮かべたもの。
それはオアシスがあって、酒を飲んでるような荒くれ共がいて。
石でできた造りの建築物、それでいて椰子の木が生えていて、それでいてこう。
なんと言うか。
「・・・思っていたのと違うなあ」
舗装路や、目の前の景色以外は見渡す限りの砂漠に違いはない。
違いないのだが。
俺の前には近代化された街並み。
魔法によって制御された気温。
もはやファンタジー要素や砂漠のオアシス要素など全くない街が広がっていたのだった。
なんというか、これは、そう。
駅ビルが砂漠のど真ん中にあるような違和感というか。
いや、海外にはあった気がするけれども!
ここ!異世界!
なんて。
そんな風に憤慨する俺とウェスとリテルの三人は今、ここ独立都市エリモスの往来を歩いていた。
目的地はこの都市の王が住む宮殿、なのだが。
見える景色見える景色すべてにファンタジー要素を感じない。
王城の方がまだ趣がある。
それに加えてこの都市は亜人、異人が少ないようだ。
さっきから人間しか見かけない。
「リテル、ここ。なんか熱くないし、道もじゃりじゃりしてないよ?」
はあ?といった顔をしたリテルは、俺の顔を不思議なものを見るような顔で見てくる。
「そりゃそうじゃろ。物資の運搬もあるんじゃから道路も固めねばいかんし。なにより熱いのは住むのには不便じゃろが?」
どんな物を想像したのやら、とリテルは肩を竦めて言う。
今日のリテルは麦わら帽子をかぶり、もけごん。がプリントされたぽんちょを着ている。
全身を隠しているような格好で。
・・・白状すれば、顔がちょこんと見えている様はもう子供にしか見えなかった。
これを着始めたリテルは「紫外線はお肌の大敵じゃからのう」などとほざ・・・
・・・言っていたが、紫外線どころではない格好のため、これは突っ込み待ちなのだろうかと俺は訝しむ。
対してウェスは紺のジーパンに白い半そでのブラウスを着ており、麦わら帽子をかぶりつつも髪を束ねていた。
シンプルな格好だが美人が着ると何でも様になる、というのは本当だと確信する。
サングラスでもしてコーヒーでも飲んでそうだ。
そこまで考えたとき。リテルから一瞬鋭い視線が飛んだ気がするが、まあ気のせいだろう。
俺はといえば、アロハシャツのような格好に黒いチノパンという出で立ちだ。
自分でも無難だろうと思うがしょうがない。オシャレに自信がないからな。
怪しい露天商にも見えるであろう俺は、想像していた物をリテルとウェスに力説し、いかにこの景色が想像と違ったかを語っている。
・・・自覚はある。
傍から見たら、妹か弟を連れた女性に恐れ知らずにもナンパしているようにしか見えないだろうと。
暫く俺の話を、“とりあえずは“最後まで聞いたリテルは呆れた顔だ。
「そんなもん、何百年前の話じゃ。グラナリトスは一応世界の中心じゃぞ?そんなに治安が悪くてたまるか」
なんだかケッといいそうな顔をしている。
態度が前より悪い気がするのに、リテルと少し距離が近づいたような気がするのは昨日の件の影響だろうか?
ちなみに、譲り受けたじいちゃんの日本刀は腰のベルトに差してある。
この世界では300年前の物なのだが、きちんと手入れがされ続けていた。
鞘と刀身に魔法がかけてあるらしく、余程の力を加えられない限りは折れず、錆びずという大業物になっている。
さらに。
鞘には魔力を蓄えられる機構になっているらしく、魔力のタンクにすることもできるし。
元からかけてある魔法のおかげで万が一かけたり折れたりしても復元されるという。
・・・最早執念だ。
じいちゃん、リテルとなにがあったのさ
「・・・」
そんな俺たち二人を生あたたかい目で見るウェス。
そばに寄ってきて、小声で伝えてくる。
「トウヤなら勘違いしないのはわかっていますが一応。それを差しているとジンヤさんに見えるときがあるとかで、その」
「態度が少し変わる?」
「はい。気を悪くはしないで上げてほしいといいますか・・・」
ウェスも今のリテルに少し戸惑っているようだ。
ということは、コレがじいちゃんと居たときのリテルなのか。
リテルを見る。
先をトコトコと歩き、ぽんちょがふわふわしている。
「・・・」
何とも言えない感情が俺たちの間に駆け巡っているが、まあ。
「・・・見守ろうか」
「・・・はい」
そう結論付けるのだった。
エリモスは王都に比べて面積は広くないが、ガラス工芸品が盛んな都市だ。
観光地として体系化され、多くの観光客が訪れる。
また、エリモスのガラス工芸品は一部の職人が作った物は非常に高値で取引されているらしく、王都でも重宝されているようだった。
というのは思い出した知識ではなく、リテルの談である。
リテルが身振り手振りしながら色々と説明してくれる。
この世界の知識を深め、理解を進めるのにはやはりウェスとリテルから学ぶのが一番いいと思った。
が、往来を三人で歩き、しばし観光を楽しんでいた時だ。
その楽しさを奪うような景色が見えたのは。
「亜人は消えろ!この悪魔の手先!」
「そうだ悪魔の手先はでていけえ!この裏切りの罪共!」
往来で。
男女数人が民家に向かって石を投げている。
ギョッとして家の方を見ると、小さな角の生えた子供が震えているのが見えた。
その子に石が当たりそうになって
「・・・!」
俺は思わず飛び出そうとしたが
「トウヤ!!!」
バシっと、リテルに止められた。
「リテル!?」
「亜人差別、異人差別、人間差別はままあること。とりわけここではその傾向が強い」
顎で方向を指し示した。
その方向には何人もの人間が、石が当たって泣いている子供のその様を見て。
“笑って”いるのが見えた。
怖気が奔る。
人は、ああして笑えるのかと。
・・・俺の世界でも“ああいう“ことはもちろんある。
分かっている。
俺は、それが全部間違っていると言えるほど子供のつもりはない。
じいちゃんや親父の仕事柄、そうした諍いによって起きた悲劇を聞きくことはままあったし。
なぜ犯罪が起こるのか?と勉強したときはそこから戦争の歴史を学んだ。
人は、他者を排斥する。
それは、繰り返される人の営みの一つ。
だけど!
「大丈夫ですよ、トウヤ」
こちらを向くウェス。
その手には、影のような炎があって。
「彼らの認識をずらしました。あの子は、怪我を負っていません」
「え?」
よく見る。
ウェスが手を振ると、きょとん、とした子供が見えた。
「大人には、大人でしかできない解決の仕方。飲み込まなければならん問題もある」
少し、微笑んで。
亜人の子供を一瞥したリテル。
「全く、ままならんもんじゃな」
そう言って歩いていくリテルの背中は、なんだか大きなものに見えたのだった。
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