第19話 フラグ管理は慎重に (前編)
俺たちは騎士に囲まれ、コレから厳重な取り調べが始まる。
筈だったのに。
何でこうなった?
「ゴㇽァ!腰が引けてんぞ!?そんなナメクジでもマシな腰の入れ方じゃアント・ルーすら斬れると思うなよ?このボンクラ共が!」
複数人の騎士に、特殊装騎から檄が飛ぶ。
俺たちはといえば、メタルマイマイ2世の周りに椅子を置いて騎士の方がくれた現地のフルーツに舌鼓をうっている。
まるでキャンプのようなこの現状は、さっきまでの騒動が起因する。
「貴様、何者だ!」
騎士十数名に囲まれた俺たちだが、何で?
「いや、何者も何もアンタら二人を助けようとしてだな。てか、いきなり貴様はないでしょ?」
ハッとした騎士は、以外にも素直に頭を下げてきた。
「それは、すまない。ありがとう。だが、ここは作戦展開のために進入禁止となっていたはずだ」
騎士の男女のうち、男性の方が素直な感謝を伝えてきつつも冷静に詰めてくる。
どうやら逃げていたのではなく、アリを引き付けていたようだ。
続いて女性の方が
「封鎖された場所に立ち入りは危険ですよー」
えっと、こんな時は身分証の提示をお願いして、とか小声で確認しているのが分かる。
新人さんなのかな。
なんというか、あーこれどっかで覚えが・・・
『職質、ですね』
花篝のウェスから突っ込みが入る。
“そうだ、それ”
ウェスがすぐ近くにいるからか、俺は冷静だった。
多分一人で異世界の警察に職質喰らってたら向こうでのトラウマと併せて変な風になってる自信があるもの。
でも、封鎖?
「いや、そんなものなかったぞ。看板とかあったのか?」
「え?イヤそんなはずは」
ちらりと横を見る男性騎士
なにやら携帯のようなものを取り出す新人さん。
確認をとるようで、どこかと話を始める。
「念のためこっちの運転手にも確認とりますね」
俺は騎士たちと離れ、リテルのところに小走りで駆け寄って聞いてみる。
リテルは車の扉のタラップに座ってこちらを見ている。
「リテル、あっちの騎士の人。なんか封鎖がどうとか言ってたんだけどそんなものあったの?」
きょとんとしたリテルは、思案顔を浮かべるが、すぐに頭を横に振った。
「いんや、封鎖なら警告としてワシの腕輪に来るはずじゃ。それに、車がそれ以上動かなくなるはず」
どうやら車に魔力が行かなくなるような装置が封鎖現場近くに置かれるらしく、そもそも車が止まるはずとのことだった。
「うーん?」
そうなのか。だとしたら向こうの手違いか?
そう思っていると、騎士数名がこちらに駆け寄ってきた。
「申し訳ない。ありえないことですが、こちらの魔導達封鎖装置が破壊されたようで」
“まどうたつふうさそうち?ああ、さっきのリテルが言ってた”
『はい。しかし妙です。アレは先ほどのような高位の魔獣でも破壊が難しい筈。トウヤ、どのように破壊されたかを聞いてみてください』
“わかった”
騎士たちも若干混乱しているようで、それだけありえないことなのだろう。
「あの、あの装置って壊れるんですか?」
こういう時は“知っている体“で話すのがセオリーだよな。
「うむ、じつは装置の不具合かと思い確認しに行った数名から、粉々になった装置があったと報告がな」
『粉々?』
ウェスからも一瞬疑問の声が上がる。
リテルも立ち上がり
「粉々?なんじゃ?アント・バリオンでも出おったか?」
けらけらとリテルが笑っているが、さっきから会話に知らない固有名詞がたくさん出てくる。
あ、そうだ。
“思い出そう”として記憶を探る。
生きるために必要な知識が入ってるなら、名前が知れた魔獣の名前なら出てくるはずだ。
そう思い、数秒まつ。
すると
【アント・バリオン】
出た!と思うのと同時に、俺は嫌な汗が出る。
【アント・ルーの中でも特別個体が成り上がる特殊個体。アント・ルーを100喰らい、魔銀で身を固めた者がその称号を得る。現れし場合は小国程度であれば滅びかねない厄災の一つである】
魔銀?
【ウェスタの子供達の生成時にも用いられる素材の一つ。非常に硬い硬度をもつ】
へえ・・・
えっ!?
割ととんでもないものじゃないとその装置が壊せないことを知り驚愕する。
『・・・ウヤ?トウヤ!』
“な、何?”
どうやらぼーっとしていた俺がいきなり驚愕の感情を発したように見えたようで、ウェスが心配の声をかけてくれた。
思い出しをしていたことを伝えると
『ああ、なるほど。私の方には警告と違って来なかったので・・・』
とのこと。
警告はウェスにも関係するからだろうか?
『まあ、とにかく。早く離れた方がよいかもしれません、ね・・・?』
早く王都に。そう言おうとしたのだろうか。
途中で言葉が止まる。
でも、俺はなぜウェスが途中で黙ったのか。
身をもってわかる。
ああ、嫌な汗が噴き出る。
『警告 厄災の兆し 継承者を守れ』
『警告 厄災の兆し 継承者を守れ』
『警告 厄災の兆し 継承者を守れ』
鬱陶しい声が加速する。
ウェスと一体化していて、なおかつ視認していないにも関わらず出る警告。
とんでもないものが殺意をもって現れる、ということか?
そんな風に考えたときだ。
俺たちからそんなに離れていないところ。
そこに大きな顎がまるで二本の塔のように、けたたましい地響きを伴って地面から生えたのだ。
“『・・・』”
いや、何で?
フラグか?
「そうか。リテルが悪いんだな」
最早八つ当たりに近いが、そんな冗談をいいつつリテルを見ると、目をそらす。
おい
騎士たちは悲鳴を上げ俺たちに避難するように言って来る。
先ほどまでの男女が陣形を整えようと身振り手振りをしているようだ。
『トウヤ・・・』
“・・・ごめん”
『はい』
俺とウェスはあの大顎に向かって歩く。
騎士たちは逃げろだなんだと言っているが、思い出した知識が本当なら、この人たちは多分全員、あいつの食事になって終わりだろう。
その後はさっき通ってきた赤レンガの家々に住んでるであろう人たちや、ワシワシ食べてた牛みたいななにかも。
特殊装騎ってのがどれだけ強いのかはわからないけど。
間に合うかもわからない物を待っていたら、その間に助からないのは身をもってよく知っている。
それこそ、奇跡でも起きない限りは
後ろを見るとリテルがまあまあとか言って騎士たちを落ち着かせようとしているが、子供は早く逃げなさいとか言った騎士が投げ飛ばされている。
ああ、うん。
これで後ろは多分大丈夫だ。
歩いてきた俺たち、いや俺に対して騎士の女性は駆け寄ってくる。
「なにしてるんですか!?アレが見えないんですか!早く逃げてください」
多分ですがアレはアント・バリオンです!なんて言ってくる。
「知ってる」
「知ってるって、いや待って!?」
俺個人は、多少強くなっただけの人間だ。
それだってウェスが魂に色々刻んでくれてなかったら、あの濃い4日間がなかったら。
さっきのアント・ルーとすら戦えるわけがない。
でも、ウェスが力を貸してくれるなら。
振るえる力があるのなら、それを誰かのために使いたい。
『力の貸し借りは、お互い様です』
“ありがとう”
大地を裂いて現れる、やはりでかいアリ。
違うのはサソリのような尻尾が生えており、脚の一つ一つが鋭い刃物のようになっている、ということだ。
「君は!?」
陣形の指揮を執っていた男性騎士と並ぶ。
「こっちも多少は戦える。手伝うよ」
「アント・ルーを両断していたのは見ていたからそれはわかるが、市民を巻き込むわけには・・・」
「いいから。何すればいい?」
目を合わせ、俺はひかない。
「・・・なら、遠距離から援護は出来たりするかい?あの炎弾を攻撃に使えれば」
どうやらウェスが撃ったあの花火を俺が撃ったと思っているようだが、それは後で誤解を解けばいい。
今は好都合だ。
「わかった。騎士の皆さんは?」
「援護に合わせてジリジリ詰めて時間を稼ぐ。なに、特殊装騎が来るまでの辛抱だ」
「了解」
俺は花篝を影に落下させ、纏う
その瞬間、完全に姿を現すアント・バリオン
「来たぞ!各員、援護に合わせて接近戦だ!盾持ちを起点に死なないように、少しでも時間を稼げ!」
俺は少し離れた位置にとり、魔力で刀身を練り上げる。
花篝の影だから、今後は影篝と呼ぼう。うん。
『・・・では、影の支配権は影桜、というのはどうです?』
少しワクワクしたようなウェスの発言に、なんだか緊張がほぐれた。
“決まりね。じゃあ、いこうか”
咆哮を上げるアント・バリオン
迫る厄祭
「いったれー!ウェス!トウヤ!」
俺たちなら全く問題ないと、信頼しきったリテルの声援を背に魔法陣を展開する。
「行くぞ!」
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