暗闇の友
結騎 了
#365日ショートショート 269
轟音。激痛。
一寸先も見えない暗闇の中で、男は呻いていた。きっと大規模な地震だろう。こんなことなら、あてもなく家電量販店をうろうろするのではなく、さっさと家路に着けばよかった。おかげで、今にも瓦礫に圧し潰されそうだ。足が痛い。折れているのは確実だ。むしろ、膝から下はもう繋がっていないのかもしれない。腕が動かせない。首も回らない。ただ煙の匂いだけが、暗闇に漂っていた。
「誰か、お~い。お~い」
蚊の鳴くような声だった。なにも聞こえない。静寂。命の終わりを感じさせる静けさだった。
「くそっ……」
その時、微かに音が聞こえた。虫の羽音だろうか。いや、よく聞くと人の声だ。なにか、繰り返し言葉を発している。
「そこに誰かいるのか。近くに、近くにいるのか。おうい、ここだ。俺はここにいるぞ」
「…………」
確かに人の声だ。なにを喋っているかは分からない。しかし、懸命に存在を訴えているようだ。助けを呼んでいるのだろうか。
「大丈夫だ、頑張ろう。助けが来るまで頑張ろう」
「…………」
見えない声は、男の呼びかけに答えるように、言葉を発し続けた。
意識が朦朧としているのだろうか。喋り続けていないと失神してしまいそうなのか。
「俺が聞いてる。聞こえているぞ。見えないけど、励まし合おう、俺たちで。きっと助かる。助かるから」
男は、暗闇の誰かに向けて激励を送った。どんな困難な状況でも、命の危険を感じても。今確かに、誰かと繋がっている。通信が、交信が取れている。それがどんなに心強いか。男は涙を流しながら訴え続けた。きっと助かる。助かるから……。
その瓦礫の向こう、半壊したスマートスピーカーは定型文を繰り返し再生していた。
暗闇の友 結騎 了 @slinky_dog_s11
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