第6話 第十五の月

 第十五の月。満月。


 月は満ち、最も強大な光を放つ。


「やあ、セレーネ」

「ルナ……そこにいるのか?」

「ああいるとも。中に入れてくれないか?」


 毎晩のように寝付けないセレーネ。

 ベッドで横になるのも無意味になっていた。今宵も死神がやってくることを見越して深夜のティータイムの用意をしていた時、不意に窓を叩く音がした。彼女が来た。そう思い、カーテンを開けたが誰もいなかった。


 こんなに明るい月が昇っているのだ。彼女の姿を見落とすはずがないと、トレードマークであるドクロを探した。しかし、その不気味な被り物はどこにも見当たらない。上下とも、左右とも、探せども死神は見当たらない。


 この時のセレーネの姿は滑稽だっただろう。彼の目の前にいるルナは笑いを堪えるのに必死だった。笑ったら声でバレてしまう。美少年がマヌケにも、死神の特性を忘れて姿なき姿を探すこの瞬間が終わってしまう。


 ひとしきり楽しんだ後、死神が声を掛けた。

 セレーネは仰天した様子だったが、ふと思い出したかのように「馬鹿なことをした」と言って、窓を開けて彼女を迎え入れた。


「言ったろ、体が消えるって」

「そういえばそうだった。昨日は頭しかなかったしな」

「お茶をくれよ」

「もうできてるよ。座りな」


 いつもの小さなテーブルにティーセットが置かれた。

 コポコポと音を立ててカップに紅茶が注がれていく。宙に触れた紅茶は湯気を纏い、ゆっくりいただくには最適な温度だ。


「ケケケ」


 死神が笑った。

 不吉で無邪気な笑い声だ。

 イタズラで可愛い小悪魔の声だ。


 途端、宙を漂う湯気が切れた。


 何かが湯気を遮った。


 テーブルの上からカコンッと乾いた音がした。


「ケケケ」

「……何をした?」

「別に。ただ仮面を外しただけさ」

「……」

「あーあ、せっかく仮面を外したのに満月だからプリティな顔が見せられないや。残念だったね」


 今日この時ほど、セレーネは死神に興味を持ったことはなかった。不気味で禍々しい、嫌なことを連想させるドクロの仮面。その下を彼女は今まさにセレーネの前で晒しているのだ。


 見えないが、確かにそこにある。寿命が縮まりそうなほど鼓動が早まる。だが、ここで表情を変えてはルナの思う壺だ。それは非常に癪で悔しい。


「ほう、そうか」

「ん? なんとも思わんのか?」

「なんとも思わんね。さ、早く飲んでとっとと帰りな」


 死神は激怒した。屈辱感に苛まれた。

 目の前の美男子はまるで自分に興味がないかのように振る舞い、カップを口にする。わたしはこんなに可愛いのに。ちょっとのイタズラだったのに。


 だがが外れたルナはとんでもない暴挙に出た。


「あーあ、今日の紅茶は熱いなぁ。ローブもドレスも全部脱いじゃえ!」

「馬鹿っ! やめろっ! やめろって!」


 この勝負、死神の勝ちである。

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