第3話 第二の月
第二の月。月の出現。
死神が現れて二十四時間が経過した。
セレーネは眠れずにベッドの上でシーツを被って蹲っていた。不思議なことに、昨晩はまるで気絶したかのように眠れた。そして悪い夢を見たようだ。死神が現れて自分の余命を宣告したのだ。細かく三十日とも言っていた。そのことが気がかりで眠れない。そして体も痛む。
セレーネは病の痛み以外は夢であると決めつけた。死神など存在してなるものか。自分の生き死になどわかってたまるか。久々に寝ついたものだから、きっと酷い夢を見たのだ。
「おい、ここにいるのか?」
不意に聞こえた不吉な声とともに、シーツがふわりと浮いた。
抱えた頭を上げると、目の前の闇に見覚えのあるドクロが浮かんでいた。セレーネが被っていたシーツは死神によって引っぺがされた。
「死神……」
「ケケケ、言ったろ? 明日も遊びに来るって」
「聞いてないぞ」
「おや? そうだったかな? 確かに言ったと思ったんだが。それよりお茶をくれ。今日はシュガーも欲しいな」
セレーネはしぶしぶ給湯室へ向かい、昨晩と同じように二人分の紅茶を淹れた。死神の存在も紅茶を淹れている自分も、夢ではないらしい。
そして、彼女が告げた余命のことも。
◯◯◯
「いいかい。余命が知れるってのはありがたいことなんだぞ。大抵の人間はふとした拍子に死んじまうモンなんだから。誰も今日死ぬと思って生きちゃいないのさ。それに比べて君はどうだい。死ぬまでの三十日間、大切に生きようと思ったろう?」
紅茶を飲んだ死神は、まるで酒が入ったかのように饒舌に語り始めた。セレーネはただそれを黙々と聞いて、たまに紅茶を口に含むだけだ。死神という不可解な存在、そいつが口にする死生観、一緒に紅茶を嗜んでいると現実を忘れられる。やたら人間臭いのが原因なのかもしれない。
だが、それと同時に現実を思い出させるのも死神の役割だ。彼女の帰り際の一言。
「三十日目が来るまで遊びに来るからね」
暗闇に引き戻されたセレーネの眉間を突くと、死神はいつものように笑った。
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