第4話
午後七時十分に唐揚げ定食が提供されて、そこから二十分掛けてゆっくりと夕飯を平らげた。精神的には落ち着いているが、もしかすると最後の
スマートフォンを所持していないぼくは、夕飯を食べている間、ぼんやりと定食屋に備え付けられたテレビを眺めていた。今時、店の角の高い位置に、ブラウン管テレビが備え付けてある。今、この手のタイプのテレビってちゃんと映るのか? と疑問に思ったけれど、実際に映っているのだから映るのだろう。もしかすると、何らかの法に触れているのかもしれないが、ぼくにとってはどうでも良いことだった。世の中は犯罪が
————今になって思い返してみれば、ぼくはここで『
ともあれ、夕飯を食べ終えて八百円を支払ったぼくは、特に寄り道することなく、
犯罪の
この世の中は、どこもかしこも。
監視なんて行き届いていない。
午後七時四十五分に、廃墟のパチンコ屋の前を通り過ぎた。いくら人目のない場所とは言え、さすがに廃墟の駐車スペースに車を駐めるわけにはいかない。ぼくはそこから四百メートルほど離れた路肩に車を駐めて、ハザードを
路駐した場所から、四百メートル。大体五分ほど歩いて、パチンコ屋の前につく。取引時間まで、十分ほどあった。中で待っていても良いのだけれど、正直言って、この廃墟は幽霊を信じていなくても入場を遠慮したくなるような暗さを持っている。ここには以前、日中にも来たことがあったが、パチンコ屋という施設のせいか、昼間でも室内にほとんど陽が入らない仕様になっているのだ。加えて、床には
こんなときに喫煙の趣味でもあれば暇を潰せるのだろうな……いや、喫煙なんかしたら、証拠が残るか……などと考えながら、一応は車道から見えないように朽ち果てた看板(留め具が外れて、ポールに立てかけてあるだけのもの)の内側に身を隠して、月明かりを頼りに腕時計をじっと見つめていた。耳に聞こえるのは、断続的な車の走行音だけ。渋滞するほどでもないが、かと言って完全に途切れるわけでもない走行音は、なんとか十分程度、ぼくの退屈を溶かしてくれそうだった。
が——
まるで、海岸で一瞬、全ての波がリズムを揃えて音を消すように、凪の時間が訪れた。意識を奪われるような——ぼくに意識があるかどうかは別として——そんな感覚が、脳裏を過った。静けさだった。ほんの一瞬、聴覚か、あるいは世界に異変が起きたのではないかと思えるような静寂が、ぼくを襲った。あるいは、見放されたのか。
そこで、ぼくは廃墟の中から、思いも寄らない音を聞くことになる。
控えめながら不満気な男の声と、抵抗する女の声を。
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