第71話 私の方が大きいでしょ!!
「あ、朱日ちゃん?」
「……」
「朱日ちゃーん!」
「……」
「朱日ちゃん! おーい!」
「……」
私の要君が。
わ、私の、要君が。
私の……わた、私の、要君が。
「しっかりせぇ朱日ちゃん! 戻ってこーい!」
パシッと頭を叩かれ、ようやく冷静さを取り戻した。
瑠璃さんはやれやれと肩をすくめ、要君たちの席を覗く。
「こればっかりはしゃーないって。ちゃんと身体張って助けたんやから、むしろ褒めたらんと」
迷惑客が要君たちに絡むが、当たり前のように撃退され、彼らはセコセコと店を出て行った。
そして湧く三つの黄色い声。三人は彼を強引にソファに引っ張り込み、自分たちの間に挟んで根掘り葉掘り聞きつつ、お酒も入っているせいか過剰にボディータッチをする。
要君に興味を持つのはいい。
あんなことをされたら、誰だって話を聞きたくなる。
それに要君が皆から評価されているのは、純粋に嬉しい。
……でも、触るのは違うんじゃないかな?
私の要君なのに! あんなにペタペタ触るのは、違うんじゃないかなぁ!?
「うわ、あの子おっぱいデカいなぁ。あんな押し当てられて、ゴリラ先輩も照れ散らかしてるし」
「……」
おっぱい? 照れ散らかしてる?
確かに大きいけど、私より小さいじゃん。小さいじゃん!!
「ん? 朱日ちゃん、どこ行くん? 向こうに顔出してくんの?」
「まさか、そんな。お手洗いです」
今すぐ駆けつけて引き剥がしたいが、ここにいるだけでも余裕がない女なのに、そんなことをしたら余裕がないどころの話ではなくなってしまう。とはいえ見過ごすこともできないため、私は真っ直ぐトイレへ向かい
「どしたん。えらい早かったやん」
「……一つ、要君にわからせておきました」
「は? どゆこと?」
「……続きは帰ってからにします。ふふっ」
「ちょ、今笑わへんかった!? なになに、ゴリラ先輩に何したん!?」
私はひたすらにフライドポテトを口に詰め込む。
表に出そうな感情を抑え込むように。
◆
迷惑な酔っ払いたちを撃退した結果、彼女たちの俺を見る目が一気に変わった。
所謂、両手に花という状況。
こんなのまったく迷惑極まりないぜと紳士ぶるのは簡単だが、俺だって男の子なわけで、正直ちょっと嬉しい。
ただそれ以上に、朱日先輩に対して申し訳なさ過ぎて酷い頭痛に襲われていた。
あとさっきから、店内の空気がやけに冷たい。
店の中で堂々といちゃつきやがって、と何人かから思われているのだろう。また絡まれないためにも、早々に離れなければ。
そんな時、タイミングよく一条先輩が戻って来た。
三人の意識が彼女に向いた隙に、「呑み直しましょうか!」と俺は元の席に戻る。
「……ねえ糸守クン、これは一体なに?」
コソコソと、一条先輩が耳元で言う。困惑と憎悪が入り混じった声で。
「……どういうつもりなのかな? 僕から天王寺さんを取り上げて、まだ足りないってこと?」
「取り上げてって、そもそも一条先輩のものじゃないでしょ。変な客が絡んできて、俺がちょっと言って帰ってもらったら、あんなことになったんです……!」
「ちょっと言って、ね。……まあ、状況は理解したよ」
釈然としない顔で言って、胸ポケットから煙草を取り出した。
しかし、この居酒屋は全席禁煙。それに気づいて小さく舌打ちをし、ため息を落とす。……気持ちはわかるけど、不機嫌になるなよ。俺だって予想外の事態なんだから。
「……ん?」
ブーッと、ポケットの中のスマホが震えた。
見ると、朱日先輩からだ。画像が一枚送られてきている。
「――――っ!?」
画像を確認した瞬間、俺の頭の中は疑問で埋め尽くされた。
それは、朱日先輩の自撮り写真。
どこかはわからないが、おそらくトイレの中。白いニットとたくし上げ、煽情的なデザインの赤い下着と胸の谷間をガッツリ強調している。
【朱日:私の方が大きいでしょ!!】
そして記された、謎のメッセージ。
大きいのはよく知ってるけど、方がって何だ? 誰と比較してるんだ?
「あれ、今度は何だ……?」
スマホが震え、またしてもメッセージが入った。
雪乃さんからだ。
【雪乃:あーちゃんに何て写真送らせてんのよ!! ぶっ殺すぞ腐れチンポコ性犯罪者!!】
「……」
そいやあの人と初めて会った時、俺が朱日先輩に送ったはずのメッセージの内容知ってたっけ。たぶん、何らかの方法を使って遠隔でスマホの中身を覗いているのだろう。……普通に犯罪だぞ、これ。流石にあとで朱日先輩に報告しておこう。
「……まあ、いいか」
朱日先輩が何を思って自撮りを送って来たのか、まるで理解できないが……。
とりあえず、この画像は保存しておこう。
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