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次の日、出社した田中くんからの申し出は、俺の目を二倍に大きくさせた。
「こちらでの仕事を、辞めさせていただこうと思うんですが」
「辞めるって、ど、どうしてだ? なにかイヤなことでもあったか?」
俺は、彼がそんなことを言い出す理由がわからずにパニックになっていた。
一部の女子社員のようなアンチ田中派も、今ではまったく訴えに来ない。
「いえ、ここの皆さんはとてもよくしてくれました。特に、佐藤主任には感謝の言葉もありません」
それならどうして、との言葉が出ずに唖然としている俺に、田中くんはこう説明した。
「出すことばかりに集中して、力の制御を考えていませんでした。昨日、主任に言われたことで、破っが出たとき、会社に迷惑をかけると思ったんです」
俺はなんと言った。壁に穴は空けるな。
その前に、いつか出るかも、と言ったかな。
「この趣味を話して、今まで何度もバイトの面接に落ちました。受かっても気持ち悪がられたり」
確かに俺も以前は、彼を採用しようか迷っていた。しかし今では違う。
部長と飲むときなど、彼の正社員登用をそれとなく持ちかけたりするほどだ。
「主任は、僕の生きがいを理解してくれて、そのおかげで僕も、ここでは居心地が良くて……」
田中くんが声を詰まらせていた。彼の感情がこれだけ動いてるのを見るのははじめてかもしれない。
なんてこった。俺が軽い気持ちで放った言葉を、彼は真剣に思いつめていたのだ。
――そんなものは出ない、壁も壊れない、だから安心してここで働き続けろ。
俺は、危うくそう言いかけた。しかし、言えば彼のすべてを否定することになると思い、言えなかった。
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