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「佐藤主任、ちょっといいですか? 田中さんのことなんですけど」
総務の女子社員が三時のお茶を飲んでいる俺にそう言ってきたのは、田中くんが採用されて二ヶ月ほど経った頃だ。
「彼がどうかしたか。なにか仕事にミスがあったとか」
たまにはそんな話を聞きたいと思うくらい、彼の仕事振りは完璧だった。最近では簡単な会計作業も任せている。
「あの人、変ですよ。人のいない会議室とか、廊下の角でなにかやってるんです」
「仕事をサボってか? 田中くんはいつ見ても、勤務時間の間はキリキリ働いているじゃないか」
事務所を離れて、会議室や倉庫での雑用があるときは、基本的に俺もその仕事をしている。
彼が人目を避けて仕事をサボっているということはありえない。
「いえ、その。田中さんがお昼の休憩をしているときだと思うんですけど。あれ、絶対にかめはめ波の練習ですよ」
俺はあやうく飲んでいたお茶を吹き出すところだった。笑いをこらえて女子社員を諭す。
「休憩中ならいいじゃないか。俺も昼休みにエアギターしてるぞ」
「でも、気持ち悪いって他の子も言ってるし……」
その話を聞いて俺は邪推した。田中くんは電話番の都合で、他の職員とは時間をずらして休憩をとっている。
田中くんの修行を目にしたと言うことは、お前らが仕事をサボって人目に付かないところへ行ってるんだろう。
「わかった、俺のほうからそれとなく言っておくよ」
そう言ってその子を納得させ、仕事に戻らせた。
彼女たちの気持ちもわからないではない。新入りのバイトが働きすぎると、今までサボっていた職員が相対的に目立つ。
だが、心の中で俺は吐き捨てた。
自業自得だ。給湯室ですることがないなら田中くんの爪の垢を煎じてろ。
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