=3 =3 =3

 その選択は、俺にとっても会社にとっても正解だった。田中くんは総務係に配属され、業務上のあらゆる雑用を瞬く間に覚えた。

 事務所は心なしか綺麗になり、会議や催し物の下準備はスムーズに運んだ。消耗品の補充も先を読んで的確に行われている。

 加えて、田中くんは驚くほどの怪力でもあった。分厚いファイルを何冊も抱え、体勢を崩さずに資料室へ運んでいる姿は会社の名物になりつつあった。

「毎日、鍛えてますから」

 田中くんは平然とそう言った。やはり、破っ、とか言うのを出すために必要なのだろうか。

「心身ともに充実していないと、とても達成できないと思うんです」

「そうか、俺にはどうやったらそんなもんが出せるのかわからんが、夢中になれることがあるのはいいことだ」

 そう答えたときに俺は、これは自分が義父から言われたことじゃないか、と気づいて可笑しくなった。

「毎日頑張ってるなら、いつか出るかもな」

 軽い冗談のつもりで俺は言った。しかし田中くんにとっては、真剣に追い求めているテーマなのだろう。

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