第1話 運命のカードに身を任せる
俺は乾いた笑いで誤魔化しながらペコリと頭を下げて謝罪する。
「それにしても。本当に今回ばかりは本当に心配したんだからな。」
「本当に…すいませんでした。」
裕香さんは俺の頭をいつもの様に優しく撫でて笑顔を浮かべる。
「まぁ、若い頃は色々とはっちゃけて馬鹿して青春を送らないとだな!」
「ゆ、裕香様。またそうやって言うから刃がまた調子に乗りますよ?」
「良いんじゃないか!私だって刃の年は色々とやったんだぞ。大人になると馬鹿なんて出来ないんだからさ!」
「やっぱりそうですよね!裕香さん!」
「全く…」
裕香さんは俺の肩をパンパンと叩きながら笑いザンギエフさんは頭を悩ませながらヤレヤレと言った様子。
こんな風に父さんや母さんに姉ちゃん達と笑いあっていたかったな。
「あっ!そうだ。裕香さん。ザンギエフさん。今からお茶を出しますね?」
「いや大丈夫だ。私もザンギエフもこれから仕事なんでな。あとコレな。」
「なんですか?」
「退院したと言えどまだ無茶は出来ないだろ?取り敢えず1ヶ月くらいは生活費の足しになるだろ?」
「い、いえ!そんな!」
「ん?足りないのか?」
「そんな事ではなくて…ただでさえ家賃を入れて貰ってるのに、今回の入院費も裕香さんが…」
「別に良いんだよ。気にするな刃。お前を含めて私が拾った孤児はみんな私の家族さ。家族が苦しい時に少しでも助けるのが家族だろ?」
「はぁ…確かにそうですけど…」
「取り敢えず貰えるものは貰っておけ刃。人の親切をそうそう無下に返すものではないぞ。」
俺が溜め息混じりに困った様に言っているとザンギエフさんの低い声が響き渡る様に言う。
貰えるものは貰っておくか…
「有り難うございます。裕香さん。大事に使わせて頂きます。」
「まぁ、じゃんじゃん使いな。」
「じゃんじゃんは使いませんって。」
「まぁ、お前が自分の店を出した時にイの1番に私がお前の料理を食べるから、その前金って事でな。」
「はい!」
「じゃあ、私は失礼するぞ。ザンギエフ。」
「はい。」
そして裕香さんもザンギエフさんも俺の部屋を後にして扉を開けて2人が出ていくのを見送り取り敢えずやる事をやる。
まずはバイト先に退院をした事を電話する。携帯にバイト先に電話をして今まで心配を掛けた事。暫くはまだバイトを休む事を連絡する。
バイト先の人達は人柄も良く何1つとして文句を言わずに快く暫くの間も休む事を許してくれた。
更に俺の事情を知っているから休んだ間も半分だが給料を払ってくれるそうだ。バイト先の人達は温かい声で゙いつでも戻ってこい。待ってるから゙って言ってくれた事に涙を浮かべたのは内緒だ。
バイト先への連絡も済んだ事だし入院した分の部屋の掃除をしないとだな。なんか帰ってきた時には既に埃っぽかったし。
俺は部屋の窓を全部を開けて掃除機を部屋の隅まで掛ける。ダ●ソン吸引の劣らない、ただ1つの掃除機でな。
そして窓拭きやら布団干しに入院で使った着替えやらを洗濯して干してから一息。
洗濯物が乾くまでボォーっとする事にする。゙お前が自分の店を出した時にイの1番に私がお前の料理を食べる゙その裕香さんが言った言葉が素直に嬉しくて仕方がない。
これから、きっと大変な事や嫌な事が起きてくるけど諦めなきゃきっと努力は報われるし夢は叶う。
絶対に夢は逃げないから、逃げるのはいつも自分って言葉を誰かが言っていた様な気がする。
「はぁっ~…なんだか眠くなってきちまったよ。」
俺は欠伸をしてから、そのまま本能の赴くままにゴロンと横になって意識の遠のくまま眠りに落ちて夢の世界に旅立つ。
それは…まるで…
これから起こる…
奇妙な旅の物語の序章の様に…
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