第1話 運命のカードに身を任せる
今は色々とバイトを掛け持ちして学費や食費やら電気代とか稼いでるんだ。でも裕香さんが家賃だけは払ってくれてるんだよね。
少しでも俺の料理人になる夢に近付かせてくれるからって。バイトばかりじゃロクに学校にも行けないだろうってさ。
裕香さんは俺にとっては、もう1人の姉ちゃんであり、もう1人の母さんだ。だから、いつか自分の店を出したら裕香さんに最初に食べてもらいたい。
「刃。」
「どうしたの?純弥。」
「退院祝いに何か食わないか?」
「良いね!ちょうど腹が減っちゃった所だよ!!あっ…でも金が…」
「良いよ。刃はキツキツの生活なんだし。俺は金なら幾らでもあるからよ。俺の奢りだ。」
「有り難う!純弥!!大好きだッ!」
「お、おい…ったく。」
そんな感じで俺と純弥はガッツリ食べられる店である定食屋に行き着く。やっぱりガッツリと腹がいっぱい食うなら定食屋だよな。
「刃。遠慮しないで好きなだけ食えよ?」
「じゃあ…遠慮なく。カツ丼の大盛りとチャーシュー麺の大盛りに焼きソバの大盛りに炒飯の大盛り!!」
「本当に遠慮ないな…じゃあ、かき揚げ丼の蕎麦のセットを。」
暫く時間が経つと定食屋のオバチャンが注文したメニューを運んできて全部のメニューが揃ってきた所で俺はがっつく様に食い始める。
「ん~…うめぇな!やっぱり定食屋の飯は最高だな。」
「刃。もう少し落ち着いて食ったら良いんじゃないか?食い物は逃げやしないんだから…」
「いや~…腹が減って仕方がないんだよ!あーんッ!」
「はぁ…」
そうやって、がっついて食べること1時間ちょい。俺と純弥は米粒から汁まで全てを食い尽くして完食。
「ふぃ~…食った食った!ごちそうさん。」
「ごちそうさま。少し休憩したら店を出るか?」
「そうだな!ゲップ…」
「下品だな。」
「アハハハハ。」
しばしばお茶を飲んでから純弥の会計をしてオバチャンは優しく微笑みながら゙また来てね゙って言って俺達は店を出る。
そしていつもより遅めに歩いていると公園の目の前を通りすがる。
公園には子供達がブランコに乗ってこいだり、滑り台で滑ったり、友達同士でシーソーをして、ジャングルジムで遊んだり、お父さんと一緒に砂のお城を作ったり…
その姿はかつての俺が幼い頃の思い出として蘇る。もっと父さんと一緒にキャッチボールしたかったし、母さんと砂のお城を作りたかったし、姉ちゃんとシーソーしたかった。
そんな思いが強く、強く俺の頭の脳裏に平穏でいながらも暖かった幸せの日々を思い出す。だけど、その平穏で暖かく幸せの日々を思い出すと辛い記憶も思い出す。
「刃?」
「どうしたん?」
「なんか大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫~食い過ぎて少し苦しいだけ~」
「…そうか。」
純弥は何かを見透かした様な顔をしながら、それ以上は聞かない。だけど俺は純弥に余計な心配を描けたくないから適当にはぐらかす。
たぶん。この公園に遊んでいる子供達を見て純弥も辛いんだと思う。純弥は無表情だけど…俺の一歩前を歩く純弥の背中が寂しそうだから。
それも、その筈だ。純弥は…
両親の愛情を知らずにこの年まで生きてきたんだから。
純弥の家は不動産を営む不動産王の父親だ。だけど純弥は不動産王の父親とその゙愛人゙から生まれた子だから…
純弥の母親は純弥を産んでから蒸発して引き取られたのは純弥の父親の家だ。だけど、その家は純弥への扱いが酷かった。
純弥の父親は既に他界して残った腹違いの2人の兄さんに姉さんに本妻達は純弥を家族としてではなく、奴隷の様な扱いだった。
純弥を人としてではなく、純弥を物として扱った。衣食住をあげて貰ってるんだから仕事をしろ。そこには純弥の主義も主張もない。
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