第1話 運命のカードに身を任せる

殺したんだ…


恐らくは金目の狙いの強盗だったんだろう…強盗は無惨にも父さん、母さん。そして誰よりも好きだった姉ちゃんまでも殺したんだ。


俺は物陰に隠れて怯えて身体を震わせて声を殺しながら涙を流していた。恐怖と悲しみと悔しさが涙となって流れ落ちていった。


俺は耳を手で塞いで音を自分の頭に入って来ないようにした。だけど嫌でも聞こえてくる。父さんが…母さんが…そして姉ちゃんまでもが殺され絶望の悲鳴が聞こえてくる。


そして、みんなの悲鳴が消えて足音だけが聞こえてくる。そして悟ったんだ。みんなアイツにコロサレタンダって…


そしてアイツの足音は物陰に隠れてる俺の所まで近付いてくる。血の水溜まりを歩く音は俺の心臓の鼓動を飛び跳ねる様に上がる。


そして俺の恐怖心を煽り確実に俺はアイツに殺されてしまうと言う最悪のビジョンが頭に浮かんでくる。


アイツは一歩とまた一歩と歩く度に血の水溜まりを歩く音がヒタリ、ヒタリと聞こえ始めてくる。そしてソイツがあと一歩で俺に近付く所で……


一発の銃の弾丸の音が聞こえた。


そしてソイツは俺の目の前で声も何も出さず黙ったまま倒れ込んだ。とても呆気ないほどに…


すると玄関から別の足音が聞こえてきた。1人ではなく複数の足音がズカズカと土足で上がってくるのが分かる。


「ちっ!遅かったか…もう少し早ければな。他に誰か居ないか家の中を探せ!!」


「はい。裕香(ゆか)様。」


1人は派手な赤いスーツにベージュのコートを羽織り拳銃を片手に煙草を加えた赤毛に近い茶色の髪をした女の人。


そして、もう1人は身長が高く体格の良いマッチョな黒人で坊主頭にサングラスをして黒いスーツの男の人。


俺は何があったのか分からずまた別の恐怖が現れる。すると坊主頭の人がサングラス越しから俺を見付ける。


「ひっ!!」


「安心しろ坊主。俺はお前の敵なんかじゃない。」


俺は思わずまるで地獄の恐怖に突き落とされた様な声を叫んでしまう。しかしサングラスの男の人はサングラス越しに悲しみと優しさを入り混じった目をしていた。


「裕香様。子供が1人居ました。」


「この子だけか?」


「はい…」


「くっ…もう少し早ければ!」


サングラスの男の人は俺を軽々と抱えながら裕香様と言われる女の人は、苦虫を噛み潰した様に壁に殴り付ける。


「済まない坊主…私達のせいで、こんな事になってしまって…」


裕香様は本当に、本当に申し訳なさそうに少しだけ涙を浮かべながら顔を下に俯かせながら俺に言う。


「お母さんが言ってた。人が本当に謝ってくれた時は許してあげなさいって。だから僕はお姉さんの事を怒ったりしないよ?」


「…」


「そうか…優しいんだな坊主は。」


すると裕香様は俺の頭を優しく撫でながら涙を流す。まるで、お姉ちゃんの様に優しい笑顔で…


それから俺は裕香様、いや裕香さんとサングラスの坊主頭の男の人であるザンギエフさんに引き取られた。


裕香さんは裏社会の女王って言われる程の凄腕の掃除屋(スイーパー)でザンギエフさんはその助手だって後から聞かされた。


裕香さんとザンギエフさんに連れて来られたのは寮だった。そこは裕香さんが事件や事故で親を無くした孤児が集まる場所で裕香さんの裏社会での依頼報酬を注ぎ込んで作ったらしい。


俺の他にも事件や事故で親を無くした身寄りの無い子供達が居て小学校、中学校までは行かせて貰い、高校は自分達で働いて行けってのが寮のルールらしい。


そこで今の俺は定時制の学校を希望して働きながら1人暮らしをして学校に行っている。


寮に居た人の中には裕香さんの裏社会の仕事をして生計を立てて居る人もね。正直、俺には怖くて出来ないし何よりも夢がある。


それは料理人になって自分の店を出して俺の料理を美味しいって言いながら笑顔にさせる事だ。

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