第305話 耳川の戦い(2)

日向国を支配する伊東義祐は、日向南部にある島津が支配する飫肥おび攻略を中断。

日向国北部へ軍勢を集めていた。

伊東義祐は、数年前に嫡男を亡くしてから酒の量も増え、さらに仏事への傾倒が酷くなる一方であった。

わざわざ大和国から腕の良い仏師を呼び寄せ大仏を作らせ、大仏堂を建立。

京の都にある金閣寺を真似て金箔寺を建立。

生活もどんどん華美なものへと変貌し、大仏や金箔寺の建立も含めれば負担はかなりのものになり、伊東家の財政を圧迫している。

そのため、隣国の肥沃な土地を狙い戦いを仕掛けるため、戦いが絶えることがなかった。

他国との争いによる出兵などもあり、領民の年貢負担が重くなる一方である。

今朝も酒を飲んでいたのか、赤ら顔で少し息が酒臭い状態で家臣からの報告を聞いていた。

「殿。日向国に進軍してきた幕府軍は合計11万。小丸川北岸沿いに大友勢2万。相良勢1万。

さらにその後方に幕府軍。幕府軍本陣は耳川付近かと思われます」

「ほぉ〜、11万か、よく集めたものだ」

「さらに、筑前、豊前には幕府軍12万が控えております」

「足利将軍家も本気ということか」

「ですが、大友陣営で少し揉めているようで」

「大友陣営で何を揉めているのだ」

「大友家家中の伴天連の信徒たちが、幕府からの命を無視して日向北部の寺社仏閣を勝手に焼き討ちをいたしました。そのため、幕府側からかなり厳しい叱責を受け、大友義鎮は関わった者達を軍規に照らして処罰。そのことに対する不満が出ているようでございます」

「元々、大友は伴天連の影響で家中で揉めている。繰り返し謀反も起きていると聞く。異国の教えなど簡単に認めるから揉めるのだ」

「ですが殿。わずかながらですがこの綻びは使えるかと」

「なるほど、大友を切り崩せる可能性が出てきたか。ならば大友家中の対立を煽ってやるか」

「どのように煽りますか」

「フッ・・噂によれば幕府管領殿は、伴天連がかなりお嫌いなようだ。そこも使わせてもらおう。そうだな〜・・・伴天連が嫌いな幕府は、大友の伴天連たちが引き起こした今回の寺社仏閣の焼き討ちに対して、日向平定後に大友領にいる伴天連をひとり残らず撫で切りにするつもりだと吹き込むか」

「承知いたしました。大友であれば多少は顔のきく者たちもおります。早速取り掛かります」

「任せる。幕府の連中に吠え面をかかせてやれ」

「承知しました」

「ここは儂の領地。全ては儂のものだ。誰にも渡さん。幕府にでかい顔をさせんぞ」



大友義鎮は、寺社仏閣の焼き討ちに関して、できる限り最小限の処罰にとどめるために、数人の処罰にとどめようとしていた。

すぐさま首謀者数名を拘束。

幕府による九州平定終了後に処分を下すとした。

できる限り時間を引き伸ばして裁定を先延ばしにして、少し所領が減る程度に留めて、それで全て終わらせようと考えていた。

大友家の実情を考えると厳しい処罰を下しにくい状況でもあった。

だがそんな大友義鎮の考えを知らぬ者達の中には、幕府に従う姿勢そのものに不満を持つもの達もいた。

大友陣営の片隅で十字架を首から下げたもの達が集まり話しをしている。

「噂を聞いたか」

「幕府が我ら伴天連を信仰するもの達を心よく思っていないことか」

「それだけでは無い。九州の平定が終わったら、我らを伴天連を信仰する者達をひとり残らず撫で切りにするともっぱらの噂だ」

「まさかそこまでは」

「いや、それは分からんぞ」

「しかし、義鎮様がそれを許すか」

「義鎮様は既に幕府に全面的に従っている。幕府に逆らってまで我らを守るか分からんぞ」

「拘束されたもの達はどうなるのだ」

「戦が終わったら腹を切らされると皆が言っているぞ」

「何をふざけた事を、我らは邪教を討ち滅ぼしただけだ。それが罪だと」

「我らは天地に誓って恥ずべきことはしていない。邪教は滅ぼすべきだ」

「幕府に逆らうのか。向こうは我らの数倍に兵を容易く集めるぞ」

「だが、このままでは我らは滅ぶ」

「幕府軍だけで20万もいるぞ、勝てん」

「勝たなくてもいい。戦の泥沼に引き摺り込めば分からんだろう」

「義鎮様の身柄を我らで抑え、幕府軍を背後から襲えばどうだ」

「悪く無いかもしれん。大友家で幕府が油断してくれさえすれば、多少無理すれば幕府軍の横腹を食い破り、幕府本陣を抑えればいけるか」

「表向き我ら大友家は幕府に従っている。向こうも油断しているだろう」

「ならば、極秘に手勢を募ろう」

男達は密かに話し合いを続け、謀議を練って行くのであった。

そして、そんな男達を離れたところで密かに見つめている者達は、そっとその場を離れ姿を消した。

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