第258話 惣無事令
東播磨を支配する
播磨国は,元々赤松家が守護として長年君臨。
別所家は守護赤松の庶流でもあったが赤松家の家臣に過ぎなかった。
悔しい思いを抱いて成り上がる時を待っていたら,守護赤松家と守護代浦上家の対立が始まる。
その結果,赤松家がドンドン衰退して,その分国衆達の力が強くなっていくことになった。
そんな,守護赤松宗家と守護代浦上家の対立は,別所にとっては好機であった。
対立を利用して別所家の勢力を拡大し,東播磨三郡を支配下におくことに成功。
さらに東播磨全域に別所家の勢力を拡大させているところであった。
そんな,就治・安治親子に京の都から一通の書状が届いた。
書状の送り主は,幕府管領上杉晴景と書かれている。
「父上。その書状は幕府の新たな管領殿からですか」
「そのようだ。しばらく管領職は空席となっていたが,将軍家を支えている上杉晴景殿が,新たな幕府管領となったということだな」
別所就治は書状を開き目を通していく。
「新たに管領となった上杉晴景殿は,斯波家・細川家・畠山家とは縁もゆかりも無いにもかかわらず幕府管領になられた。三家意外で初めての管領。その上杉晴景殿といえば,東国をほぼ手中におさめ敵無しと聞いております。その管領殿が何と言ってきたのですか」
書状に目を通した就治は渋い表情をしている。
「惣無事令を布告すると言ってきた」
「惣無事令とは一体なんですか・・・」
「西国の大名達は自領を守るための戦以外,幕府の許可なく戦をするなと言っている。さらに他領を戦で手に入れることも禁止。大名達に私闘を禁じると言ってきている」
「何をふざけたことを,そのようなことを聞く者はおりません」
「書状では,従わないものは討伐すると脅しておる」
「そのような脅しに従うものはいないでしょう。やっと我らは東播磨を手に入れようとしているところ。そんな布告に従う必要はありません」
「当然だ。誰が従うものか。幕府管領になって思い上がっているのであろう。西国で幕府の言う事を聞く奴らがいる訳があるまい。力こそ全て。力のある者が全てを決めるのだ。脆弱な幕府に我らを止める手立ては無い。それに,我らはまだ播磨の全てを手にしていない。播磨の全てを手に入れたら考えてやるとするか」
別所親子は,上杉晴景からの書状を破り捨てるのであった。
二条城では,上杉晴景,景虎,三好長慶らが集まっていた。
「長慶。西国への惣無事令の書状は送ったか」
「滞りなく」
上杉晴景は満足そうに頷く。
元々惣無事令は豊臣秀吉が西国をまとめた後に東国の大名に出した布告。
今回は秀吉のように東国では無く,逆の西国への布告。
上杉家と同盟大名で東国をほぼ抑えている。奥州の一部を残すくらいだ。
尾張国織田信長は景虎に友好姿勢を見せているから問題ないだろう。
つまり,東国では大きな戦になる可能性は少ないということになる。
「晴景様,書状で西国諸大名に惣無事令を布告しましたが,皆従いますでしょうか」
「ハハハハ・・・西国の大名達が書状1枚を送られた程度で従う訳が無いだろう。そんな聞き分けがいい奴らのはずが無い。今頃は儂の書状を破り捨てて儂のことを罵倒している頃だろう」
晴景の言葉に以外そうな顔をする三好長慶。
「それならばなぜ書状を出すのです。書状を出すだけ無駄ではありませんか」
「幕府が軍勢を動かすための大義名分を得るためだ」
「なるほど大義名分ですか」
「儂が幕府管領になっていなければ上杉勢で勝手に攻めても良いが,幕府管領となれば流石に不味い。幕府管領が勝手に戦を起こしているとなれば誰も従わんだろう。そこで幕府管領の名で私闘を禁じる惣無事令を西国に布告。守る奴はいないだろうから大義名分には事欠かんということになる。大義名分があれば軍勢も集めやすい。場合によっては幕府御敵もしくは朝敵として認定して討伐も可能になってくる。使える手立てが増えることになる」
「播磨国では赤松家の内紛に乗じて,それぞれが領地を拡大させようと動きだしております。既に戦いが始まっております」
「事の大小は関係無い。他領を攻めれば大義名分として成り立つ」
「それではいよいよ動かれますか」
「播磨国を平定する」
「兄上」
「景虎。どうした」
「この景虎も播磨攻めに加えていただきたくお願いいたします」
「どうせ景虎のことだ。ダメと言っても来るのだろうから好きにしろ」
「ありがとうございます。それと兄上から改良するよう言われていた大砲ですが,出来上がっております。射程が以前よりも伸びております」
「それはよかった。幾つ用意できる」
「二十門は用意できます。今5千の軍勢と共にこちらに向かっており,あと5日ほどで到着いたします」
「分かった。大砲と軍勢が揃いしだい播磨に向けて出陣する」
「長慶」
「はっ」
「畿内の大名,国衆に西国平定の第一歩となる播磨平定のための準備をせよと触れを出せ」
「承知いたしました」
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