第199話 義元対信長の戦い【弐】

尾張国那古野城

「心配しておりましたぞ道三殿。無事で何より」

信長は、美濃国を追われた斎藤道三らをもてなしていた。

既に斎藤道三の家族の内、斎藤利尚以外の者達は万が一のために先に那古野城に避難していた。

そこに、斎藤道三が1200の手勢と共に那古野城に逃げ込んできたのだ。

「申し訳ない。婿殿のお陰で命拾いした」

「帰蝶も心配しておりましたぞ」

「心配をかけた」

「上杉はそれほどまでに強かったですか」

「圧倒的な兵力の前に、何もさせて貰えずに終わってしまった。圧倒的な兵力の前に美濃国衆のほとんどが戦わずして上杉に切り崩されてしまった。最後の最後に一撃くれてやったが、向こうからしたらかすり傷にも思っていないだろう。それほどまでに違う」

「利尚殿も結局敗れ、伊勢長島に逃げたそうです」

「フン。あの馬鹿者が、あの状況で籠城は無理と申したにもかかわらず、籠城戦を選んだのだ。命があるけ儲けもんだろう」

道三を受け入れた信長は、道三が正室の帰蝶の父というだけでは無く、信長なりの計算もあった。

今の信長の周りは敵だらけ。

従っているものの、弟とその家臣達はいつ牙を剥いてくるかわからない。

そんな中で舞い込んできた道三と1200の手勢。

これを有効利用しない手はない。

道三もそんな信長の状況を分かった上で、自らを高く買ってくれる信長の下に飛び込んできた。

両者の計算と思惑が一致してのことである。

「婿殿。今川との戦はどのような状況なのだ」

道三は尾張国に来たばかりで、織田と今川の戦の状況は正確に把握出来ていなかった。

「前線はこう着状態となっている。弟信行の家臣達も集めてことに当たっているが、奴らは儂のために本気で戦う気がない。今川も上杉の支援のための牽制と、今川を裏切り我らに付いた知多郡の制圧が目的だろうから、こちらに本気で攻め寄せる気は無いだろう。しかし、油断すれば尾張の奥深くまで、一気に攻め込まれることになる。今川は知多郡の村木に砦を築いた。砦を足場に我ら織田に寝返ったもの達を制圧するつもりだろう。そして、砦ができたため、知多郡の多くは今川に寝返ってしまった。残っている水野信元から助けを求める書状が届いている。水野の居城緒川城までの街道は全て今川に抑えられ孤立している」

「婿殿。元々知多郡は亡き信秀殿が今川との和睦のために今川領として認めた所。そんなところは損きりしてしまった方がいい。それよりも、弟の信行を抑え織田弾正忠家の統一と守護代織田大和守家を倒し尾張をまとめる事が先だ。足元を固めることを急ぐべきで、今川とは早々に和睦すべきだ」

道三は自らが美濃を失ったのは、美濃国内の足元を固めきれていなかったことが敗因と考えていた。

自らの失敗を振り返り、信長に足元を固めることを最優勢にすべきだと話していた。

「一度我らの見方についたもの達を何もせずに見捨てたら、この先誰も味方につけることができなくなる。それだけではなく、儂についてきている家臣の信頼も失ってしまう。今川との和睦による手打ちはいいが、味方についたものは簡単に見捨てるべきでは無い」

「ならば、どうする。何か策はあるのか」

「策はある。それには舅殿の協力が必要」

「厄介になっている身だ。なんでも申してみよ」

「村木の砦を焼き払う」

「待て、知多郡への街道筋は全て今川に抑えられているのではないか」

信長は道三の言葉に笑みを見せる。

「今川の背後から村木砦を強襲する」

「待て、待て、だから街道は全て・・・・・背後からだと、まさか・・・」

訝しむ道三。

「陸路がダメなら海路を使い背後を突く」

信長の言葉に腕を組んで考え込む道三。

「う〜ん・・悪くないな。だが、危険でもあるぞ。こちらの動きが知られたら罠を張られる」

「危険でない戦なんぞ無い。ダメなら直ぐに引き返す。水野の為に我らが動いたことが重要なのだ。当然、この信長自ら指揮を取る」

「自ら危険を冒して皆の忠誠心を得るのか」

「自ら体を張らなくては誰も付いてこん」

「ならば、儂の役割は」

「留守の間、この那古野城を守って欲しい」

「婿殿。お主は儂らを信用しすぎだ。儂らは尾張に来たばかりだぞ」

「フフフ・・・裏切るおつもりで!」

「ふ〜!困った婿殿だ。蝮を信用しすぎるとロクなことにならんぞ。いいのか」

道三は呆れたようにため息をつく。

「これで消えるならその程度の男ということ」

「ハハハハ・・・怖い男だ。いいだろう。婿殿が尾張を統一することに力を貸そう。儂も含めて好きに使うといい」

「ならば、戦いの手順としては、那古野城の手勢を率いて船で軍勢を移動させる。深夜上陸したら村木砦に向けて速やかに移動を開始。夜明けと共に村木砦を攻め落とす。その間、那古野城を守って欲しい」

「分かった。くれぐれも無理をするな。無理なら直ぐに引き返せ。引く勇気も必要だぞ」

「それは分かっている。あと、もう一手必要だな・・・」

織田信長は水野信元を助け知多郡を奪い返す為に、海路を使い村木砦攻略することを決断した。

そして、密かに尾張の水軍衆の準備が始まった。

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