第158話 小田原城落城
上野国に進軍した北条勢は兵糧不足に陥っていた。
上杉勢に兵糧を焼かれ、周辺には作物は無く、農村は人影は無くさらに米一粒すら無かった。
周辺の城は全て焼かれており、大軍を休ませる場所も無い。
「氏康様」
満身創痍の者が連れられて来た。
「これはどうした」
「我らが通って来た道は既に上杉勢に封鎖されております。幾重にも柵が作られ、大量の鉄砲が用意されて、突破することはかないませんでした」
満身創痍の家臣が答えていた。
「誰も武蔵国に入れなかったのか」
「申し訳ありません」
そこに北条が抱える忍びである風魔がやってきた。
風魔小太郎であった。
風魔小太郎も全身に多くの怪我をしている。
「一大事にございます」
「小太郎。何が起きた。それとその傷はどうした」
「上杉勢が甲斐より侵入。一気に国境の備えを破壊して突破。そのまま小田原城に迫り、小田原城を包囲しております。この事をお伝えするため上杉の包囲網をいくつも突破して参りました」
「心配無用だ。小田原城は包囲されたくらいでは落城はせん」
「いえ、小田原城は落城の危機でございます」
風魔小太郎の言葉に北条氏康は驚きの声をあげる。
「落城の危機だと!そんなことがあるか。我らの小田原城は難攻不落だ」
「既に、三の丸、二の丸は上杉の手に落ちております。残るは本丸のみ」
「馬鹿な、何かの間違いでは無いのか」
「事実にございます。上杉勢は、奴らが大砲と呼ぶ巨大な鉄砲を多数用意して、我らの弓矢も届かぬ遠方から小田原城を攻撃。その破壊力は凄まじく、大手門、三の丸、二重櫓は完全に崩壊。瓦礫の山と化しております。さらに、二の丸に攻撃を加え二の丸は半壊状態となり、上杉勢に占拠されております」
呆然とする北条氏康。
「そんな馬鹿な・・上杉晴景を罠にかけるはずが、罠にかかっていたのは儂であったとは・・・」
放心状態の北条氏康に北条綱成が声をかける。
「氏康様、お気を確かに。氏康様、これからの方針を至急決めねばなりません。上杉景虎に決戦を挑むのか、小田原に戻るのか」
北条綱成の言葉に我に返った北条氏康。
「上杉を罠にかけるはずの我らを逆に罠にかけるのだ。簡単には戻れんだろう。幾重にも包囲網を敷いているはずだ。この状態では、戦に同行していない武蔵国衆は信用出来ないだろう」
「決戦を挑むのであれば、上杉景虎を討ち取ってご覧に入れましょう。小田原に戻るならば上杉勢を蹴散らして見せましょう」
「綱成。お主の気持ちはわかった。小太郎」
「ハッ」
「上杉の包囲の弱い場所は分かるか。そこを突き破り、できる限り兵を失わずに小田原に戻る道はあるか」
「いま風魔を総動員して探っております。しばらくお待ちください」
しばらくすると風魔の忍び達が小太郎の下に報告に来る。
風魔小太郎は風魔の忍び達の報告を聞いた後、北条氏康の下にやってきた。
風魔小太郎は北条氏康の前で周辺の地図を広げた。
「氏康様。この道を通り、こちらに抜ける道が手薄のようです。ですが、敵がこちらの動きを知り包囲を狭める恐れもあります」
「それは今更であろう。その道しか無ければその道を駆け抜けるまでだ」
「ならば殿はこの北条綱成にお任せください」
「綱成・・すまぬ・頼めるか」
「お任せを、必ずや上杉の追撃を防ぎ、氏康様に追い付いて見せましょう。綱高、氏康様を頼む」
北条綱成は北条赤備えを率いる北条綱高に氏康の事を託した。
上野国厩橋城に向かい進軍していた北条勢は、一転して撤退戦に入った。
厩橋城
上杉景虎は、上野国に進軍してきた北条勢を厩橋城近くまで誘い込んでいた。
誘い込んだ上で、焦土作戦を決行。
周辺の農民を全て避難させ、一切の食料を北条に渡さないようにした。
既に武蔵国衆は調略済みであり、北条勢の動きは掴んでいた。
その上で上杉勢は景虎の指示で、北条に気が付かれないように遠方から徐々に包囲の輪を縮めて来ている。
そしてようやく各街道の封鎖が終わったとの報告が入った。
景虎は、北条勢を夜間の銃撃や砲撃で寝かせず疲れさせ、北条氏康を生捕にするつもりであった。
「景虎様、北条勢が撤退を始めました」
斎藤朝信からの報告に驚く上杉景虎。
「撤退が早い。もう少し粘り、この厩橋城まで攻め寄せてくると見ていたが、見切りが早い」
「もしや、小田原城が落城し掛かっていることが分かったのではないでしょうか」
「その可能性はあるな。包囲網を突破して伝えたものがいるかもしれん。ならば簡単に相模国に返すわけにはいかんな。急ぎ追撃を掛けよ」
「ハッ、直ちに」
既に北条勢を誘い込んで叩くために軍勢がいつでも出陣できるように準備している。
厩橋城と周辺に潜んでいた上杉精鋭虎豹騎軍1万6千が景虎の指示のもと北条の追撃を開始した。
北条氏康は、北条家赤備えとともに風魔の案内で、上杉の囲みが最も薄い箇所を突破。
必死に小田原へ向かう。
最後尾は、黄備え北条綱成の軍勢が務めることになった。
北条綱成は、鉄砲を防ぐための大量の竹束と弓矢を用意させ最後尾を駆ける。
最後尾に迫ってくる上杉勢からの鉄砲の攻撃を竹束で防ぎながら弓矢で応戦。
「竹束をもっと密集させろ。鉄砲が防げんぞ。弓を構えろ、放て」
北条綱成の激を受けた北条勢が必死に放つた矢は、上杉勢に次々に突き刺さる。
上杉勢の勢いが落ちたらその隙に全力で逃げる。
「急げ、追いつかれるぞ」
再び追いつかれたら竹束で防ぎ、弓矢で応戦。そして全力で駆ける。
これを何度も繰り返してやっと相模国に入った。
上杉の追撃は終わったようだ。
先を急ぐと小田原城が見えるところで北条氏康に追いついた。
この時点で北条勢は散り散りになり、わずか3千にまで減っていた。
北条氏康は、遠くを見つめ力が抜け落ちたような表情をしている。
そこから見えたのは、本丸だけが残され、他は全てが完全に崩壊した小田原城であった。
いつも目にしていた威風堂々たる小田原城はどこにも見当たらない。
小田原城の三の丸、二の丸あったはずの場所には、ただ瓦礫の山があるだけであった。
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