第83話 新諏訪城と真田忍者

甲斐の武田晴信が躑躅ヶ崎館を再建したようだ。

ただし、こちらに対する敵愾心はかなりのものらしい。

おそらく、なりふり構わずに小山田を倒しに掛かるだろう。

そのために新たな人材を雇いれたらしいと報告が来ている。

忍びと軍学者の山本勘助らしい。

山本勘助は本来ならまだまだ今川領で燻る筈なんだが、早くも武田に士官して雇われた。

忍びも本格的に整備に取り掛かるようだ。

小山田を倒したら信濃の諏訪へ向かって来るだろう。

そうなると諏訪頼重に取って代わり、諏訪氏惣領となりたい高遠頼継に調略をかける可能性が高い。

高遠頼継が武田晴信と手を組んで諏訪に攻め込んでくる可能性を考えねばならん。

ならば、諏訪に対武田の城を築くか必要がる。武田と高遠が手を組んだら諏訪家の上原城では持ち堪えることはできんだろう。

越後上杉家で築城といえば真田幸綱。

最近では、すっかりローマンコンクリートの使い方に慣れて、富山城築城ではその腕を発揮。

工期短縮に一役買っている。まさにコンクリートマスターと言えるかもしれん。

富山城は、内部からの工事のみで既に真田幸綱がいなくとも問題ない状態になっている。

富山城の留守役として宇佐美定満と虎豹騎軍第一軍を残し、第三軍と第四軍を越後府中に戻していた。間も無く入れ替わりに弟の景康が富山城代として富山城に入る予定だ。

「晴景様、諏訪にも城を築くと聞きましたが」

「幸綱、将来武田晴信が諏訪に攻め込んできた場合に備える必要がある。周辺国衆を調略して攻め込んで来ることも考慮せねばならん」

「晴景様からみて、南信濃で調略の可能性がある国衆はおりますか」

「あくまでも可能性ではあるが、諏訪惣領を狙っている伊那郡の高遠頼継が武田の調略の狙いとなる可能性が高い。他にも何人かいるが、力のある国衆の中では高遠だろう」

「なるほど、ならば甲斐からの街道、佐久からの街道、伊那からの街道が集まる周辺に築くのがよろしいかと、城代は誰を」

「村上義清を考えている」

村上義清なら武田晴信に負けないだろう。我らの後押しと支援があれば跳ね返せる。

本来の歴史なら二度武田晴信の侵略を防ぎ、三度目は家臣の裏切りにより負けてしまった。

家臣の裏切りが無ければ負ける事は無かったであろう。

だが、今度は最初から越後上杉の全面的な支援がある。

ただし、家臣が足りないだろうから、その分は用意してやる必要がある。

「さらに対武田に備え、これから築城する新諏訪城と佐久城の連携も考えねばならない。そのために、真田幸綱を佐久城城代とし、さらに信濃南部の軍勢の指揮を任せる。さらに、虎豹騎軍第四軍をさらに増員。新諏訪城と佐久城それぞれに配置とする」

「この私めに、佐久城城代と信濃南部の軍勢の指揮権でございますか」

「信濃南部をお前なら任せられる。引き受けてもらいたい」

「承知いたしました・・・真田幸綱、全力で信濃南部を守って見せます」

思いもよらない大役に驚き、そして感動のあまり涙を流す幸綱の姿があった。



真田幸綱は、新諏訪城築城の前に一度故郷信濃小県郡に戻っていた。

「佐久城代に南部の軍勢の指揮権とは、めでたい、めでたい。まさしく大出世」

父の真田頼昌は大喜びであった。

「まさか、儂が佐久城代と南部の軍勢の指揮権を預けられるとは思わなんだ」

「お前に対する晴景様の期待は大きいぞ、これからますます忙しくなることは覚悟しておけ」

「そんなことは覚悟している。そこで頼みがある。晴景様の期待に応えるために、真田の忍びを何人か貸してほしい」

「どうしてだ。晴景様の忍びも多数いるであろう」

「全てを晴景様の丸抱えではいかんと思う。せめて自分の目や耳となるものには直属の者を使いたい」

「わかった。いいだろう。大して人数もおらんから全て連れて行け」

「いいのか!」

「十人程度しかおらんぞ、その程度でよければ全て使え。里に残しておいても大してやることも無い。残しておいても勿体無いであろう。自由に使え」

「親父、面倒をかけてすまん」

「その代わり、しっかり真田の名前を売ってこい。敵が真田の名を聞くだけで震え上がり、逃げ出すほどにな」

「承知した」

「利助はおるか」

「ここに」

頼昌の呼び声とともに一人の男が現れた。30歳ほどの柔和な顔立ちの男であった。

「真田の忍びは今日より全員、幸綱の指示に従い、幸綱を助けよ」

「承知いたしました」

「利助。よろしく頼む」

「幸綱様、お任せください」

真田幸綱は、真田の忍びを引き連れ佐久城へと戻っていった。

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