第4話伸るか反るか

藤田は会社に着くと、タイムカードを切りホワイトボードに『直帰』と書いて、ミネラルウォーターで、胃薬を飲んだ。

そこに、営業課課長の前田が近付き、

「藤岡君。無謀な営業だが頑張ってくれ。万が一、仕事取れたら、君はいきなり部長に昇進だ。私は常務だ。億単位の営業だから、一人じゃ疲れるだろう。桜井をお供させるよ。彼女の承諾は取ってある。おい、桜井 」

女性社員、入社3年目のまだまだひよっこだ。

「藤岡主任。今日は勉強させてもらいます」

「うむ、良いだろう。9時には会社出るから、車出してくれ」

「はいっ」

と、桜井が言うとデスクに戻り、出発の準備をした。

前田は、

「藤岡君、万に1つだがうちが仕事を取れば、会社は名前が売れ、仕事も舞い込む。頑張ってくれ。あまり、期待はしないでおこう。大東商事の若林営業本部長は、変わり者で有名だから、気をつけて」

「はい」


藤岡は桜井が運転する社用車にのって、大東商事に向かった。

車の中で、桜井にヘラブナ釣りに付いてしゃべっていた。

桜井には、意図が分からなかった。

さて、車はコインパーキングに止め、大東商事ビルに到着した。


10時、応接室に案内された。少し経つと強面の男が現れた。噂の若林営業本部長だ。

名刺交換をして、藤岡が作成した書類に目を通していた。

「藤岡さん、今回のテーマパーク建設には、あなた方の様な中堅企業からだけではなく、国内数十社が営業に訪れてねぇ。付き合いの長い葉山建設さんのご希望に答えられるか、いまは返答できません」

桜井は緊張して固まっている。

「藤岡さん、釣りは何に始まり何に終わるか?ご存知ですかな?」

藤岡は、待ってましたとばかりに、

「鮒ですね」

「おぉ~、もしかして、藤岡さんの趣味はヘラブナ釣りですか?」

「はい。野釣りを専門に」

若林はお茶をゴクリと飲み、

「いや~、初めてですよ。釣りが好きな営業の人間を何度も見てきましたが、藤岡さんが私と同じ趣味とは」

藤岡はニコリとして、

「秋は、浮きが完全に沈んでから合わせ、アタリがなければ15cmくらいずつ、浮きをあげるのです」

「パーフェクト」

「ありがとうございます」


「藤岡さん、ちょっと出ませんか?昼メシ食べながら、ヘラブナ釣りの話しをしたいなぁ」

「かしこまりました。運転手はこの桜井がします」

3人は応接室を出て、桜井に有名な中華料理屋までお願いした。

到着すると、藤岡と若林はビールを飲み、桜井はウーロン茶を飲んだ。

3人の話しは弾んだ。若林が桜井も釣りの知識があり、楽しい時間はあっという間にすぎた。

15時。藤岡は桜井を会社に戻した。

そして、残った男2人はスーパー銭湯に向かった。

2人は湯船に浸かり、

「藤岡さん、近々、一緒にヘラブナ釣りでもどうですか?」

「是非ともお願いします」

「後、これは独り言だから、聴かなくていいよ。例のテーマパーク、4億3000万円くらいかなぁ~」

「えっ?」

藤岡は耳を疑った。

「独り言だからねぇ~」


数週間後、葉山建設はテーマパークの入札で仕事が決まった。

葉山建設は、藤岡を胴上げした。

その日は、遅くまで飲み、ゾンビ栗原に牛肉とカシスオレンジを買って帰宅した。

部屋は綺麗に掃除してあった。

「栗原~、オレやったよ!肉も買ってきた」

「殿、それがしも我が事のように、嬉しいでごわす」

藤岡は明日は休みだから、とことん栗原と飲んだ。






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