第5話ゾンビの変化

「栗原、僕は営業部長内定したよ!」

「誰が、泣いているのでござるか?ゾンビ栗原にはとんと」

「はぁ~、偉くなったんだよ!」

「左様ですか。お祝いですな。今宵は」

藤岡は牛肉、カシスオレンジを栗原に与えた。

「殿、この赤い飲み物はもしや、生き血でございますか?」

「ま、飲んでみな」

栗原はゆっくりと、グラスに入った液体を口に含んだ。

「!!うんめぇ~。殿、この生き血、甘味があり、赤子の生き血でごわすか?」

「カシスオレンジと言って、果物の酒だよ。……、お前指先に爪がついているじゃねえか?」

「殿、この3週間で、身体に肉が付いて参りました。ほれ、足も」

栗原の骨だけの足が足首まで肉が付いていた。

「髪の毛もうっすら生えてるな」

「はい、生前は月代にしておりましたゆえに」

栗原は、生肉に食らいついた。

「だいぶ、今の暮らしになれたか?」

藤岡はハイボールと唐揚げを食べていた。

「はい、箱の中のおなごが、明日の天気を言い当てる術に驚き申した。そして、あの電話なるもの。人が居ないのに声が聞こえるとは」

「……栗原、顔色がいいな。端正…な顔つきだ。400年前はきっと、よかにせだったろ?」

「よかにせ?……殿もご冗談を」

しばらく、2人は食事を楽しんだ。


明日は休みだ。今夜は、栗原に付き合おう。

「栗原、君は働く事は嫌いじゃないか?」

「とんでもねえですばい。それがし400年前は剣術の指南をしておりましたけん。師範でござった」

「身体が完全に元通りになったら、剣術道場を開いてみないか?栗原も役立ちたいだろ」

「有り難き幸せ。一月ひとつきでそれがしの身体は再生するですばい」

「……お前、言葉の語尾が九州全土だぞ!」

「ありゃ、殿に1本取られましたですばい」

「何も、1本取ってねえよ!」


「クンクン、何かお前いい匂いがするな」

「拙者、白檀の香を焚いておりやす。この、ジャージに炊き込めておりもうす」

「風呂は?」

「湯浴みは毎晩しておりもうす」

「栗原用に石鹸買ってきた。それを泡立てて身体は洗いなさい」

「せっけん?」

「身体の汚れを落とし、匂いもいいんだ」

「さっそく、今宵、使わせていただきますけん」

「それと、昼間でも外に出られるようにパーカーと日焼け止め買ってきた。明日、ぶらりと歩こうぜ?」

「それがし、太陽で死にませんかの?」

「何をいまさら、お前は400年前に死んでるじゃない」

「ハハハ、こりゃ1本取られましたな」

「もう、人間の肉より牛の肉の方がうまいだろ。生き血より旨いもん飲めるだろ?」

「御意」

「さ~て、今夜の洋画は?『バタリアン』かぁ~」

「バタリアンって、なんでござるか?」

「人間の脳ミソが好きな、ゾンビの映画だよ!」

「この栗原新之丞。異国のゾンビをみたいでごわす」

「いいよ!変な気起こしたら、バラバラにして、燃やすからな!」

「はっ」

2人は、テレビ前のソファーに座り、カシスオレンジとハイボールを手に、「バタリアン」を観た。

「弱か、ゾンビですばい」

「映画だからね」


翌日、お出掛けの準備をしたていた藤岡に栗原は、

「脳ミソ~」

と、いいながら背後から襲ってきた。回し蹴りすると、胴体が真っ二つに折れた。

「と、殿、今のは戯れ言でござる」

「戯れ言だろうが、次、変な気起こしたら、火葬だからな!覚えて置け!」

「ぎ、御意」

2人は着替えた。



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