第2話ゾンビ、トマトジュースを飲む
藤岡は分譲マンションに住んでいる。住宅ローンは後、20年残っている。
嫌でも、今の会社で65歳まで働かなければならない。
こんな、得体の知らないゾンビと遊んでいる暇はない。
栗原新之丞は、途中何度も藤岡を襲いかかったが、筋肉質の男に腐った肉体のゾンビに勝てるハズがない。
自宅マンションに到着すると、玄関からベランダまで、ビニールのブルーシートを敷いた。ゾンビは裸足で砂だらけで、悪臭が強いので、真っ直ぐベランダに連れて行き、ぼろぼろの服を脱がせた。
「藤岡殿。この栗原を如何なさる気で?」
「栗原さん、あんた、臭いから腐った肉と汚れを落とすから」
「かたじけない」
藤岡は、ホースを伸ばしゾンビ栗原に水を掛け、洗車用のタワシで身体を洗った。
腐った肉はどんどん剥がれていく。
「ふ、藤岡殿。ちと、寒うござる」
「うるせえ、てめえはもう死んでいるんだ。カンケエねえ」
それから、洗濯用洗剤で何度も身体を磨いた。
頭部には毛がない。が、ゴシゴシタワシで磨き、何とか匂いは取れた。
「はい、終わり。ご苦労さん、栗原さん」
「か、かたじけない。ん?手足の肉が無いでごわす」
「腐って簡単に剥がれたよ。あんたは、単なる死体じゃない。ゾンビだから顔と腸は機能している」
藤岡は、着なくなった、ジャージの上下を栗原に渡した。
栗原はジャージを初めて見た。その前に、トランクスを履かせて、ジャージの着方を教えた。
藤岡はきれいにベランダを掃除して、ブルーシートはリサイクルゴミ袋に入れた。
それから、軽くシャワーを浴びた。
藤岡は風呂上がり、レッドアイを飲んだ。
「!!!、藤岡殿、それは生き血では……」
「酒だよ。酒」
「それがしも飲みたいですばい」
「しょうがねえなぁ」
藤岡はビールに多目にトマトジュースを入れた。
栗原は唾を飲む。
クビッ
「……うんめぇ~。さっき、この切子の中に入れたのは、何の生き血ですかいの?」
「トマトだよ」
「とまと?」
「うん。飲んでみるかい?」
藤岡は栗原にトマトジュースを飲ませた。
「……ひゃ~」
「どうした?」
「生き血より、トマト汁の方が格段にうまい」
栗原が、レッドアイとトマトジュースを飲んでいると、藤岡はニュースを見ていた。
明日の天気と今日1日の出来事を知る為だ。
栗原はテレビに気付き、ニュースキャスターに向かって、
「それがし、栗原新之丞と申す。藤岡殿には世話になりもうした。ソナタの名前をお聞きしたい」
『続いては、日経平均株価です』
「何と、難しいお名前。にっけいへいきんかぶか殿でごわすか?」
「やい、ゾンビ栗原!これはテレビと言ってこの中の人間は僕の家族じゃないんだ」
「てれび?」
はぁー、長い夜になりそうだ。藤岡はレッドアイをお代わりして、栗原はトマトジュースをお代わりした。
飛んでも八分、歩いて五分の出来事に慣れてしまった。
明日の、営業はきっと上手くいかない事を悟った。
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