マッチを売る少女に出てくる街で何があったか

佐久間 光

第1話

 ひどく寒い日でした。今年最初の雪が降り始め、空はすっかり暗くなっていました。この寒さと暗闇の中、一人の哀れな少女が道を歩いておりました。


頭には何もかぶらず、足にも何も履いていません。両足は冷たさのためかとても赤く、また青くなっておりました。少女は古いエプロンの中にたくさんのマッチを入れ、それを売り歩いておりました。


道行く人はそんな哀れな少女を見かねてその辺の雑貨店の十倍はするマッチを買ってあげていました。


少女が持っていたマッチは瞬く間に売り切れました。


「ありがとうございます…」


少女は寒さと空腹で弱り切った様子ながらもぼったくり価格のマッチを買ってくれた人たち一人一人に健気にお礼をして庇護欲を誘っていました。


やがて持っていたマッチが売り切れると少女は家に帰っていきました。そんな少女を町の人たちは憐みの目で見ていました。






「ちょっと庇護欲をくすぐるだけでこんなぼろ儲けなんて世の中ってなんてちょろいんだろう。」


少女は家に帰ると、手と足と顔の特殊メイクを落とし、おなかの貼るタイプのホッカイロをはがし、部屋着に着替えると、コタツでぬくぬくとみかんを食べ始めました。


そんな儲かってウハウハな少女を窓から見つめる青年がおりました。


そのストーカーのような、というか着替えを覗いた以上立派なストーカーの青年はこう見えて正義感がとても強く、かわいそうな少女が助けを求めるようならすぐに助けられるように少女の後をつけてきたのでした。


正義感の強い青年はそんな少女の様子を見て激怒した。必ず、かの怜悧狡猾な少女を懲らしめなければならぬと決意した。


「とんだメスガキだ。野放しにしてはおけぬ。」


青年は、単純な男であった。青年は走った。街中を走り回り、一見かわいそうに見える少女からマッチを買ってはいけないと夜中なのにも関わらず叫び散らかした。


当然街の人は夜中に騒ぎ立てる迷惑な不審者の言うことなど信じず、次の日もそのまた次の日もメスガキから搾取され続けていました。


青年は、街中の人から夜中に騒ぎ立てる迷惑な不審者扱いをされている現状の憂さ晴らしに居酒屋に行き悔し涙を流しはじめた。もういっそ悪徳者としてメスガキと共に詐欺で生きていこうか、正義だの、真実だのかんがえて見れば実に下らない。そんな考えが浮かんでくるほどに青年は疲れていた。


ふと耳に新人のアルバイトのおまちどおさまと言う声が聞こえてきた。どうやら注文していた生ビールが届いたらしい。青年は届いた酒を一口飲んだ。ほうと長い溜息が出て急に出てきた自分なら何でもできるという全能感に支配された。


まだ出来ることはあるはずだ。行こう。と、財布を出す時間も惜しいとばかりに代金をツケにして青年は走り出した。


そして青年は叫んだ。ありったけの声で叫んだ。声がかれても喉が裂けても転んでも靴が脱げても街の人から罵声をとばされても満身創痍になりながら叫び続けた。


朝になるとやっと声がやんだ。連日五月蠅すぎる声で眠れず、不機嫌な人たちがついにキレ、半殺しにしてやろうと青年を探すと青年は道端で凍え死んでいた。


事ここに至って街の人たちは青年の言っていたことは本当なのではないかと疑い始め、ついにはメスガキの悪事が白日の下に晒されることになった。


人々はメスガキのしたことは確かに悪いことだが凍え死んでまで訴えることか?と若干の呆れと共にその無駄に強い正義感に敬意と感謝を表しマッチの転売ヤーを厳しく取り締まる条例を作った。




そしてその年の大晦日、一人の少女がマッチを売りにこの街にやってきました。

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マッチを売る少女に出てくる街で何があったか 佐久間 光 @SAKUMAHIKARU

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