第5話 「五感を表現する その1 色を書く」
皆様は小説を書くとき「色」をどのくらい書いていらっしゃるでしょうか。
「血が流れた」「血が飛んだ」と書くだけで、だいたいの人は赤系統を思い浮かべるはずです。それは「血は赤い」という共通認識があるからです。
ですが「爬虫類の血は青い」と書いてから「血が流れた」「血が飛んだ」と書くと、今度は青系統を思い浮かべるのではないでしょうか。それは「血は青い」と先に定義されたから。
このように「固有の色を持つもの」を書けば、色はそれに従うことになります。
では女性が「スーツ」を着ているとします。
あなたは彼女が「何色のスーツ」を着ているかわかるでしょうか。
黒? 紺? ブラウン? 白? 赤? 青? オレンジ? ピンク?
どのような答えが返ってくるかは千差万別ですが、ホログラムのように見る角度で色が変わるようなスーツを着ているとは思えません。
つまり何色かを書かなければ、スーツの色は特定できません。
ですが、私を含め、多くの書き手は「固有の色を持たないもの」を書いてついそのままにしてしまいます。
これでは読み手が脳内で勝手に「彼女が着ているのはきっと紺色のスーツだろう」と想像するしかありません。その結果、読み手の中では彼女のスーツの色は「紺色」だと思い込みます。
しかし読み進めていくと「緋色のスーツ」と書かれていたら。
読み手は「ちょっと待て。スーツの色なんてどこに書いてあった?」と疑問が浮かびます。
今まで書いていないのですから「緋色のスーツ」と書かれた時点で彼女のスーツの色は「緋色」確定です。
ですが、物語が相当進んでからこの情報を新たに書く必要があるのでしょうか。
書くなら断然、初登場のときです。
初登場のときにスーツの色を書くからこそ、「彼女が着ているのは緋色のスーツ」であることが読み手に過たずに伝わるのです。
初登場で「スーツの色」を書かなければ、「一般的に仕事をしている女性のスーツは黒色か紺色だよな」と「固有の色を持たないもの」だけれども「世間の常識(共通認識)」で読み手が脳内で勝手に「黒色」か「紺色」のどちらかだろう、と判断します。
すべてのものに色を書く必要はない
ではすべてのものの「色」を書かなければならないのでしょうか。
これは明確に「否」と答えられます。
たとえば、
────────
白い絹のような肌の上に黄色のサマーニットを着て、薄茶色の麦わら帽をかぶっている。金色の長髪が背中まで垂れ、青い瞳で私を見つめてくる。
────────
と書いたとしましょう。これだけ短い文に色を詰め込むとかえって何色かわかりにくくなりませんか。
ここでは「固有の色を持つもの」はあえて色味を消します。消したら共通認識から「固有の色」を連想するからです。ここでは「白い絹」「薄茶色の麦わら帽」の色味を削ります。普通「絹」は白ですし、「麦わら帽」は薄茶色ですからね。
次によく観察しなければわからない色味も消します。ここでは「青い瞳」ですね。瞳の色は一般的に顔をアップにしないかぎり判別できません。
遠めから見て「瞳が青い」と気づける人は稀です。ここでは「青い瞳」の色味を削ります。「瞳」の色はアップにしないとわからないですからね。
逆にいえば「瞳の色が書いてある」ということはカメラがズームインして顔のアップの映像になっていることの表れでもあります。そういう効果を狙っているのであれば「青い瞳で」と書くのはありです。
────────
絹のような肌の上に黄色のサマーニットを着て、麦わら帽をかぶっている。金色の長髪が背中まで垂れ、私を見つめてくる。
────────
これで色味としては「黄色」と「金色」が残って、イエロー系統に寄せられます。「麦わら帽」の薄茶色もイエロー系統といえなくもありません。
そのイエロー系統にアクセントとして「絹のような白い肌」が映えるのです。
顔のアップが出たら、明るいイエローの色味に「青い瞳」がアクセントとなります。
色味は散漫に決めるよりも、テーマカラーを決めて、そこに差し色をするようにアクセントを置くのが最適解です。
異世界で色の名前に苦労しませんか
異世界ファンタジーを書くとき、色の名前として「青色」「水色」「空色」あたりは無難なのですが、「ブルー」「アクアブルー」「マリンブルー」「ネイビーブルー」「スカイブルー」といった英語の色名を使うとファンタジー感が一気に薄れてしまうことがあります。
もちろんロングソードとかプレートメイルとかファイヤーボールとか英単語を使っているのならそれでもかまわないのです。
たとえば登場人物名をドイツ語で統一しているときに「マリンブルー」と書かれると違和感が先立ちませんか? かといってドイツ語の色名で書くと読み手にはまず伝わりません。
ドイツ語人名でも「青色」「水色」「空色」は違和感がありません。
それなら和名のものだけを使えばいい。というほど単純でもないのです。
たとえば「
どういう世界観で小説を書くかで、使える色名が決まってしまうことがあるのです。
かといってあなたの異世界固有の植物の色を色名にしてしまうと、今度は読み手に伝わりません。
あとがき
今回は「色」について述べました。
小説は文字だけですから、当然形も色もわかりません。
形については次回書く予定です。
しかし色は簡単に伝える手段がありますよね。その労を惜しんではなりません。
ただ、色を書きすぎると逆効果になるときもあります。
読み手の中で共通認識がある色はあえて書く必要はないでしょう。
麦わら帽が赤ければ、本来薄茶色なのですから共通認識から外れるため「赤い麦わら帽」と書かなければなりません。
また植物の色から名前が付いたものをそのまま書いてよいのかについても考えておきましょう。山吹やツツジがその世界にないのに「山吹色」「
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