第23話 KOされた時

 「小説は読まれてこそ完成する」っていう言葉を初めに聞いたのがいつだったのか、すっかり忘れてしまったけども、これは本当にそうだと思うのね。

 作者の手元を離れて、読者が読んでくれた時、そこに初めて小説が完成するって。


 だからこのエッセイでは、小説を一生懸命書いてもなかなか読んでもらえないって悩んでる人に、少しでも役立つ事を書けたらと思ってる。ちゃんと役立てるかどうかは別にして。


 で、一つ提案したいんだけども、このエッセイの読者には、読まれなかった時「アマチュアだし」だとか「趣味で書いてるし」だとか「自己満足で書いてるし」なんて言い訳を自分に許さないようにしてくれたらって思うんだ。なぜかというと「読者」にとって、作者がプロかアマか、趣味や自己満足で書いてるかどうかなんて全く関係ないから。

 読者が自分の貴重な時間を割いて小説を読む時、そんな事いちいち考えないでしょ? だいたい作者がどんな気持ちで小説を書いてるかなんか、ほとんどは知る由もないし。読者が小説を読み始めた時に漠然と思ってるのは「おもしろそうだ」とか「これはおもしろくなりそうだ」とか「これはおもしろい」っていう小説自体に対する期待や評価でしかない。つまり小説自体でしか読者に働きかける事はできない。


 あえなく読まれなかった時、さっき書いたような言い訳を自分に許してしまうと何一つ解決も進歩もしない。それを踏まえないと、延々と読まれない作品だけが積み上がっていってしまう。


 前に小説を書くのは建築に似てるって書いたけども、スポーツとも似てるね。たとえばボクシングのリングに上がった選手はプロだろうとアマチュアだろうと懸命に闘うでしょ? で、ボコボコにKOされた時にヘラヘラと「まあアマチュアだし、趣味のボクシングだし、自己満足で楽しかった」なんてずっと言ってたら、セコンドや選手仲間や応援団は「コイツ、バカなんじゃないか?」って呆れて相手にもされなくなっちゃう。

 ボコボコにKOされた時、なんでKOされたのか、何がいけなかったのか、今の自分のボクシングには何が足りないのか、そのためには何をすればいいのか、そういう事を失意の中でも必死で考えるようになりたいね。


 小説でね。

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