第23話

「認識阻害か…久しいなアケチーノ。奴隷に随分と高価なものを付けさせてるじゃないか。連れは初めましてだな。私はこの下町第三商人ギルドのマスター、ジャックだ」


 鑑定持ちは、挨拶代わりに相手のことを調べてくるのか。


「久しぶりだな、マスター。コイツは裕太、うちの奴隷だ。コイツはちょっと訳ありでね。今日はコイツが開発した調味料を登録したいと思ってな」


「ほう、調味料か。興味深いな。ちなみにそれは何と言う?」


「はい。胡椒と香草ニンニクです」


「ムム、胡椒だと?あんなものが調味料になるとは思えんがな?でも試さずに却下することはない。香草ニンニクは聞いたことが無いな」


「ぜひ試して頂きたいっす。香草ニンニクは複数の素材を合わせたものなので、誰も聞いたことがないと思いますよ。今日はボアの肉を用意したので何処かで火を起こさせてもらいたいんすけど」


「それなら食堂があるのでそこで火を使っても構わないぞ。どれ、調理の様子をギルド員に見学させても構わないな?ギルド員が調理の行程と味の確認をせんといかんのでな」


 どうせ焼いた肉に胡椒を掛けるだけなのと、香草ニンニクをまぶした肉を焼くだけなんだけどね。


 ギルド職員5人を連れて、俺とボスとギルマスは食堂に向かう。そこのキッチンには魔導コンロがあったので、そこにフライパンにラードをひき、ステーキを焼き始める。


 まずはその肉に、胡椒を掛けて食べてもらうことに。


「これは!!これがあの胡椒だと?肉の独特の臭みが消えて、旨味が引き立って食欲が掻き立てられるな!」


 ギルマスは大興奮している。もちろん他のギルド職員も感嘆の声を上げている。


 なんせこちらの世界は基本的に9割が肉を使った料理だ。肉のステーキは当然、肉野菜炒め、干し肉のスープなどだ。そして味付けは塩しかないのでバリエーションも殆ど無い。なので全ての料理に胡椒は役に立つはずである。


 そして香草ニンニクのステーキも大変好評だった。匂いがギルド中に漂ってしまって、ギャラリーが増えてしまった。肉は多めに持ってきていたので、皆さんに食べてもらった。


 もちろんこの香草ニンニク焼きにも胡椒は抜群に合うので、言うことは無しだろう。


 その後、俺は商人ギルドに登録を済ませ、俺の開発した胡椒製造レシピと香草ニンニク製造レシピの買取が決定した。帝国領以外でも全商人ギルドで売られる。そして、売上の5パーセントが俺のギルドカードに振り込まれる事となった。


 ただ、採取して干して潰しただけの胡椒が白金貨1枚、香草ニンニクはほんのちょっとだけ手間が掛かってしまうので、金貨50枚となりました。合計で金貨で150枚だ!


 まだ手持ちの胡椒と香草ニンニクは娼館にあるので、宣伝がてらどんどん試食してもらわないと行けない。


「そうだ、奴隷商のアケチーノに頼みがあったのだ。少し訳アリの奴隷なんだがな…そちらの娼館で保護して貰えないだろうか?」


「ほう。訳ありですか…そこら辺の内容は聞いても?」


「詳しくは言えないのだが、さる没落貴族のご令嬢なのだよ。色々とあって、御家取り潰しとなってな。本来は娘も打ち首になるところだったのだが、何とか助け出すことが出来たのだ」


「成る程。一度奴隷に落としてしまえば、帝国奴隷法で保護されますからな。当然皇帝でも、法律を破ることは出来ないので、無理に捕まえることも出来なくなるから安全ではありますな」


「まあそういう所だ。出来れば客取りは控えてもらいたいのだがな。空きがあれば是非預かって貰いたいのだがなどうだろうか?」


「もちろん構いませんよ。今は空きも沢山有ることですし。次の奴隷市には顔を出そうと思っていた所なので」


「それは良かった。それにしても空きを出すなど、お前らしくも無いではないか。もしやそこの裕太と言う奴隷が?」


 そこでボスは最近の部屋の空き状況を説明して、既に3人を解放した事を報告した。なんせオレの部屋に皆んなを囲ってしまったのだからな…。元の部屋は誰も使っていない。


「ハッハッハ!そうかそうか!そんなことがな。裕太よ、今度の奴隷もよろしく頼むぞ。早く解放される分には何かと都合が良いだろうしな」


「俺に言われましても…その元令嬢のジョブ次第かと思いますが…」


「まぁそうなるか。ジョブは『姫騎士』だ。これは貴族の中でも、皇族に血の繋がりのある家の娘にしか現れないジョブなのだ。ジョブグレードも剣豪と同位の上位ジョブに位置づけられている。これだけでも今回の令嬢の立場が分かるだろう」


 当然俺には分からない。それより元貴族令嬢のジョブがバリバリの前衛ジョブの様だった。まぁ俺の奴隷ではないので、俺が世話をする訳でもない。何故かギルマスには期待されていますが…


「もう既にチョーカーもウチで付けておるので、価値も決まっておる。その価値は帝国白金貨30枚だ。今回はこちらから頼むので保護費として白金貨5枚で譲ろうと思うがどうだ?」


 なんと!俺が最初にサバイバーが付いた時と同じ価値だ。ということは俺のサバイバーも姫騎士と同じグレードって事か?いや、一概にそうとは言えないか。スキルも関係するからな。


 それでも今回も金貨で3000枚だ。返済金は金貨で3万枚。それを金貨で500枚で譲るという話みたい。


 帝国奴隷法では、本当の奴隷譲渡は返済金の1/3を支払うとあるので、本当だったら白金貨10枚だ。でも今回のはボスが保護をすると言う事なので適用されないのかな?


「わかりましたよ。ウチで保護しましょう。まあ裕太に任せておけば上手くやってくれるでしょうしな」


 やっぱり世話役は俺みたいでした。


「無理言ってわるいな。それでは今連れて来てもらうから少し待っていてくれ。こちらの奴隷も認識阻害の指輪をしているからな」


 そう言ってギルマスが部屋でベルを鳴らすと、ギルド職員が入ってきてギルマスに奴隷を連れてこいと言われている。


 暫くすると頭からフードを被った奴隷が部屋に入ってきた。多分変装して連れ出されたのか、格好は見すぼらしいのだがフードの脇から覗く金髪がとても綺麗だった。


「アンネよ。これからはこちらのアケチーノの娼館で保護してもらうからな?こちらの連れの奴隷はかなりの手練らしいからな。仲良くするのだぞ?」


 そう言われたアンネは、フードを取り、ボスに向かって丁寧に頭を下げる。


 ん〜?なんだろうな…何かとても誰かに似てる気がするぞ?


「ああ、あなたはあの時のお嬢様ではないですか?ほら、そこの裕太を買いたいとウチの娼館に来たじゃないですか」


 と、俺より先にボスが思い出してくれた。あの時はツインドリルで、顔にお面を付けていたからパッと見はわからなかった。今はツインドリルも巻いていないし、あんなに整っていた髪もボサボサである。


 それでも当時感じたように、恐ろしく美しい…。美しさだけならラミやソラよりも上だ。それにお面なしの顔は、とても幼く見える。


「え?!あ、あの時の…」


 そう言ってアウアウ言いながら口を押さえるアンネ。制約で俺のことは他言出来ない事になっているので発動したのかな?


 へ〜、喋ろうとするとこうなるのか。これでも無理矢理喋ろうとする人が居るのかな?それとも筆談か?指がくっ付いて制約紋が顔に出るって言ってたよな?


「なんだ?皆んな知り合いだったのか?それなら良かった、紹介する手間も省けたようだな。ワッハッハ」


「いえ、知り合いと言う程では…ワタクシがこちらの娼館を1回だけ訪れたことがありましたもので」


「そうかそうか。これからはしっかりとそちらの娼館で奉仕するんだぞ?折角助かった命だ。大事にしなさい」


 その言葉が締めとなり、俺たちは挨拶をしてアンネと共に娼館への帰路に付く。


「あんまり聞いちゃいけない事なのかも知れないけど、御家取り潰しになったのと、俺を買いに来たことは何か関係が?」


「それは…、言えません…我が家の名誉のためにも」


「裕太。それ以上は聞いちゃいけない。例えあの時の事が関係していたとしてもな」


 これ、俺が買われてたら御家取り潰しの時に一緒に首をはねられていたのではないの?だって御家取り潰しって相当な事なんだよね?アンネも殺される直前だったみたいだし…


 やだ!貴族、メッチャ怖いんですけど…





















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る