第12話
「ユータ君は今日はボク達の部屋で寝るですよ?許可は取ってますですよ」
「ん?そうなのか?それなら了解した。それよりも皆んなに、見てもらいたいものがあるんだ」
そう言って俺はカバンから小型カメラを取り出して再生ボタンを押す。そこにはコッチの世界に来て最初に会ったオジサンの後ろ姿が映っている。
「これはカメラと言って、見たものを記録しておける道具なんだ。このオジサンがこのあと魔法を使うんだけど、なんて言っているか分かるか?」
「なんだこれは!箱の中で小さなオッサンが動いているじゃないか!何処から……モゴモゴ」
カメラを初めて見るフィンは、驚いて大声を上げるがラミに口を抑えられ、モゴモゴしている。まぁ大体予想はしていたけど…
「今はそれはどうでも良いんだ。それよりもなんて言っているか分かるか?」
「なんか小声で途中はよく聞き取れないですけど、エアースラッシュと言う魔法のようですね。もう1つはストームと言う魔法のようですね。こちらも途中は聞き取れません」
イヤリングをしているから俺でも聞き取れるようになっていたのだが、確かに最後の魔法名は聞き取れるのだが、途中は全くわからない。
「魔法はギルドに行くと教えてくれるとかはないのか?この切る魔法は是非使いたいんだが」
「すまない、わからない…戦闘ジョブが付いてからは魔法を使おうなど考えたことも無かったから…はなから使えない物だと思っていたからな。ユータは不思議な発想の持ち主だな、全く」
「多分皆んな一緒だよ?魔法の事なんてなんにも知らないよ?ウチ達は近接戦闘職だからね?」
こちらの世界はジョブが全てのようで、戦闘職が付くと、近接以外はどうでもよくなってしまうようだ…まあ魔石を使う事で魔法を使える事を知らなければそうなってしまうのも当然か…。だが俺は楽がしたい!
腰すら屈めずに、一回魔法を撃てば畑一面の刈り取りが終わってしまうんだぜ?もう一回撃てば一箇所に集めることが出来るんだぜ?
やらない手は無いだろうよ!
「ちょっくら魔法ギルドに行ってくる!今ならまだやっているよな?」
今は午後の6時を過ぎたところだ。ダンジョンギルドは夜8時で閉まってしまう。何せ城門が夜の6時に閉まってしまうからな。商人ギルドはもう少し遅くまでやっているとボスが言っていたっけ。魔法ギルドも流石に8時まではやっているだろう。
「ボス!チョット魔法ギルドに行ってきていいすか?色々と調べたいことが出来ちゃいまして」
「おう、分かった!行ってきていいぞ!あ〜それならこれを持っていけ!ちゃんと帰って来いよ?」
と言って金貨1枚を放り投げてきた。
「ならウチもいくよ?何処へでも。ね?」
「あーズリーぞ!それならアタイも行くからな!」
だそうなので3人で魔法ギルドへと向かう。ギルドが纏まっている所までは娼館から歩いて10分位。門までは更に10分位掛かる。ただ平地なので楽に歩くことが出来る。
魔法ギルドに到着して入り口を開けて入ると、カウンターの手前で案内係に声を掛けられる。
「いらっしゃいませ。魔法ギルドにはどういった御用で?」
「あーえっとですね、魔法について聞きたいことがあって…」
「ほほう。魔法職の方達ですか?」
「いや、そういうわけでわないんだが…ちょっと興味があってさ」
「それはそれは。それで魔法の何をお知りになりたいのですか?」
「エアースラッシュと言う魔法があるじゃないですか。それの呪文を教えてもらえないかな〜って…ダメ?」
「エア〜スラッシュですか?あ〜はいはい。駄目ではないですよ?ですが魔法は知識ですのでタダでは教えられないのですよ。エアースラッシュは初級の風魔法なので、魔法書は銀貨50枚となりますが、いかが致しますか?」
何故かニヤニヤしながら金額を伝えてくる案内人。上から目線が何か気に食わないがしょうがない。このためにボスは金貨をくれたのだろう。流石だぜボス!
「それならその魔法書買います。その書を読めば誰でも魔法は使えるようになるんですか?」
「ほほう。あなた…面白いですね。何か少し違うようですね…ブツブツ」
「あの〜大丈夫ですか?なんかブツブツ言ってましたけど?」
「あぁ、失礼しました。魔法職の人以外は魔法は使えませんからね?後で使えなかったからと返品されても受け取れませんので注意してくださいよ?」
ん〜魔石のことは知らないのかな?それならこのまま黙って居たほうが良さそうだな。
俺は黙って金貨1枚を渡して穴開き銀貨と魔法書を受け取る。
「こいつ嘘付いてるぜ!魔法は誰でも使えるだろうよ!ませ……モゴモゴ」
マジでこういうときのフィンの危うさと、ラミの機転の速さは神業に近いな。
「今何と言いましたか?私が嘘を付いたと?それに、ませ?なんですか?」
さっきまでの穏やかな雰囲気は消え去り、少し俺等を警戒しながらもこっちを探ろうとにじり寄ってくる。
「ん〜?そんな事言いましたか?何かの間違いじゃないですか?それよりも転移の魔法陣の事について聞きたいんだけど…アハハハ」
ふう〜マジで危なかったんじゃないだろうか?無理やり話を変えて誤魔化してみる。
「……転移の魔法陣が知りたいですって?あなた…それを知ってどうするのです?貴方、危険分子ですね…これはこちらへ来て頂いて、色々とお聞きしないと行けなそうですね……」
俺の言葉に完全に態度を変えて、俺等に更ににじり寄ってくる案内人の男。周りを見ると他の職員も立ち上がり、こちらに注目している。これは何故だか分からないが触れては行けない質問だったようだ。
「フィン、ラミ、逃げるぞ!全力だ!」
言うが早いかフィンラミは瞬間に反応し全力で走り出す。むしろ俺が1番出遅れた。
その一瞬でフィンラミと俺の間に、職員に滑り込まれてしまった。職員が俺に向かってタックルをかましてくる。多分避けられない。
だがそこで俺は不思議な感覚を味わう。
全ての人間がスローモーションの様に動き出した。タックルしてくる職員や、こっちを振り向こうとしているラミ、扉を開けようと手を伸ばすフィン、慌てたせいで、躓いて転けそうになっている案内係の職員。
その全てがスローモーションで動いている。俺以外は。
俺は普通にタックルを交わして後ろに回り込む。そこでその現象は何も無かったかのように時間が動き出す。
「ダーリンこっち!早く!」
そう声を掛けられたので我に返る。こういう時に名前で呼ばないラミはやはり賢い!皆んなで急いで建物を出る。後ろではタックルをかわされた職員が、案内係にカマして引き倒していた。
さっきの現象は何だったのか?あれもサバイバーのジョブ特性か?それともゾーンに入ったってヤツ?
俺等は娼館の手前まで一目散に走った。流石に追跡は無さそうだと確認してから娼館の中に入り、ボスの前に向かう。
「おう、帰ったか?早かったじゃねーかよ!偉い偉い!お釣りは明日のギルドの分だから取っておきな。それよりも知りたいことは知れたのか?」
「それなんだが…ちと不味い事になってしまって…」
「何だ何だ?何をやらかしやがった?人でも殺しちまったか?返済額がべら棒に増えちまうぞ?ウチはそれでも構わねーがな?ガッハッハ!」
「いや、そうじゃないんだ…転移の魔法陣について質問したら急に態度が変わって囚われそうになったんだ…だから3人で全力で逃げてきた…不味いか?」
「ほほう、そりゃあ面白れーな。捕まらなきゃ不味かねーだろうが、知られちゃ行けない何かがそこには有るって事だろ?こりゃあ楽しくなって来たじゃねーかよ!どっちにしろしばらく3人はギルド周辺には行かねー方が良さそうだな!門の方は…まあ反応することはないだろうな。まぁ俺の奴隷に手を出そうもんなら…な?ガッハッハ」
最後の方のボスの目つきはマジのやつだった。俺はボスに「そうするよ」と言って挨拶を済ませ部屋に戻る。すると部屋にはまだソラ、アキ、ポムと、メイドのミアもベットの上に座っていた。
「魔法書は手に入った?」
とソラに聞かれたので、事の顛末を全て話した。魔石と転移の魔法陣の件である。ひょんな事で口からポロリしてしまう事もあるだろうから、情報の共有はとても大事だろう。
「怖いですね…魔石の件もナイショなんですね…気を付けないと、捕まってしまったらどうなってしまうのだか…」
「まぁ今日はもう寝るですよ。ほらユータ君はあっちの部屋で寝るですよ!」
そう言ってソラとミアも一緒に部屋を移動する。ん?3人?ソラとポムは約束していたから構わないけど、ミアもいいの?
「あら?アタシもいいでしょ?仲間はずれなんて寂しいじゃない?それに何かユータの事が評判になっている様だしね?」
「俺は構わないよ。ミアの事は初めて会ったときからカワイイと思っていたからね。だからミアの事はちゃんと一晩買うよ!それ位しか返済の手伝いが出来ないからな」
「あら、嬉しい!それじゃあたっぷりサービスするからね?」
そう言って俺達は部屋にあるベットをくっ付けて激しく交わるのであった。16才の精力と体力舐めんなよ?と思っていたのだが、皆さんの精力の方が上でしたわ…。こりゃ今度、コッソリとナイトポーションが必要になりそうかも…。一本幾らか聞いておけばよかったな…
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