第9話

「いや、ウケない…と言うか……ユータのスキルはやはりヤバイかもな…」


 何故かソラが真剣に考え込んでいる。


「どういう事?」


「ん。ユータはこのダンジョン初めてでしょ?入って5歩目で今迄誰も気付かながったキノコを見つけたでしょ?これは凄い事だよ?」


「いやいや、普通にそこに生えていたって」


「普通に生えていたってのにアタイらは今迄誰も気付かながったって事だ!他にも生えているか?」


「あぁ。アソコにも、あとアソコにも。それにアソコにも」


「これはヤバイのですよ。ユータ君の事は企業秘密なのですよ」


「あぁ。ボスの言う他言無用はマジで他言無用だな」


「お!この石は…火打ち石だってよ!これはそうでもないだろ?」


「いや…そうでもあります。ユータさんはちょっと人に見られないようにしないとダメですね」


「でもまだレア度1だからゴミだよな?早く奥に行こうぜ!やる気出てきたぜ!」


「ユータ。取り敢えず小声で良いから見つけたものを私に教えてくれ」


「わかったよ。それじゃあ進もうぜ!」


「あ、ワライタケ!」

「こっちはネムリタケ」

「お!薬草!」

「スズラン?げ!毒草!ん?何々?抽出すると…」

「フクジュソウ。これも毒草だ。お、これも抽出すると…」

「あ!これは毒消し草だって!これじゃん」「お!バジルじゃん、あっちにはパセリ」「オドリダケ?死ぬまで踊るってヤバイよな!」

 あっちでガサガサ、そっちでゴソゴソ


「いや~楽しいな!こんなに色々あるんだな!こりゃずっと居られるよな!」


「……」

「……」

「まだ一層で既に2時間だぜ、ソラ?どうするよこれ…毒草や薬草でカバンがすでに1つパンパンだぜ?しかも見たことも無い草ばかりなんだが?」


「困ったねこれは…実はボスにユータの好きにさせろって言われたんだよね…それでもコレはな…」


 と言って皆んなでまだカバンに詰めていない草の山を囲んで頭を抱える。


「流石にユータさんに言ったほうが良いんじないです?お肉も持って帰らないとですし」


「…そうだよな…わかった。なあユータ、そろそろボアの肉を取りに行かないか?街の皆んなも楽しみにしていることだしさ?」


「ん?そうなのか?なんだよ、早く言ってくれよな!それじゃー3層を目指して進もうか!」


 3層を目指しながらも、あちこちで草や石を拾って歩く。


 マジで楽しいな!未知の世界でサバイバルするなんて!でも草とか案外地球の名前と一緒のものがあるんだな。これも翻訳されて表示されてるのか?それとも俺がワライタケと言うと、皆んなにはこっちの世界の名前で伝わるのかな?そう考えるとこのチョーカーとイヤリングはハイテクノロジーだよな。ハイテクってやつだよな!


 魔法の発達した世界だと科学は衰退するんじゃないのか?でも騒音を遮断する道具が有るとか言ってたし、そういえば街に入る門にもセンサーみたいなのが付いていたよな。後は照明も普通に有るしな。何か凄い世界だよ、ここは。


「そういえば、照明とかの電気ってどうしてるんだ?発電所が何処かにあるのか?」


「電気?それは何だ?照明は魔石の力で発光してるんだよ?家にあるキッチンも魔石で動く魔導コンロだしね。魔石はダンジョンのモンスターを狩ると手に入るから、それをダンジョンギルドに売りに行くんだ」


 とソラが教えてくれた。魔導コンロとか魔法の世界ではよく聞くアイテムだよな。でも今のところあんまり魔法使いには会っていない気が…一番最初のオジサンだけだよな?


「ギルド?やっぱり有るんだな。冒険者ギルドではないの?」


「何ですかそれは?聞いたことないですね。ギルドは他に、魔法ギルド、商人ギルド、錬金ギルド、鍛治ギルド、木工ギルド、服飾ギルドがありますよ」


「ウチのボスは商人ギルドに入っているんだぜ?商人ギルドの中でもホンの一握りが奴隷商人になることが許されるんだ。奴隷商人というジョブは無いんだぜ」


「そうなの、フィン?それじゃあウチのボスってエリートなのか?」


「まあそうなるな。見た目はあれだけどな…中身はカナリ面倒見が良いのはわかるだろ?それに良い奴隷を保護するのが上手い。って自分で良い奴隷って言ってるようなもんだな」


「いや、俺の中ではソラはきっと良い奴隷で間違いないと思うぞ?見た目も性格も。まだ会って15時間位しか立ってないけどな!」


「また出た?ユータのタラシが…ね?」


「有難うな、ユータ。そう言って貰えると流石の私でも嬉しいよ」


 喋りながら1時間位掛けて2層を通り抜けて3層に到着する。1層と2層は結構な人で賑わっていた。ウサギと鹿は比較的大人しい性格のモンスターらしく、戦闘職ではない人でも少人数で狩れるからみたいだ。


 俺等はこの層でボアを狩って肉と魔石と毛皮を集めるようだ。これからの流れをソラが簡単に説明してくれる。


「それじゃあ狩りを始めるからユータは最初は見ててくれて良いからな。移動しながらボアを見つけて狩っていくから付いてきてくれ。大抵ボアは食事中の事が多いから先手必勝で行く。ボアは真っ直ぐ突進してくるから、危なくなったら横に躱すんだぞ?間違えても後ろに引いたら駄目だからな?」


「それと消える前に捌かないと行けないから倒した都度、素材を剥いでいくからな」


「消えるって何?」


「ダンジョンでは、全ての死体はダンジョンに吸収されるからな。だからその前に捌かないと折角の素材が無くなってしまうのさ」


「そうそう。ユータだってアタイだって死んで放置されたらダンジョンの養分になっちまうって事さ!ギャハハ」


「いや、フィン…それこえーから!せめて俺の死体は外の風通しの良い小高い丘へ埋めてね?」


「要望多い?でもそれがユータの希望なら本妻のウチの仕事だよ?任せてね?」


 俺はラミの頭をナデナデしながらニッコリと微笑む。するとラミも微笑んで抱きついてくる。


「アタマナデナデ…これ好きかも…?」


「あの…ここダンジョンの中だから、イチャつくのは止めて下さいね?」


 そんなアキの頭もナデナデしてあげると。


「ホントです…これ良いです…」


 頭ナデナデは何処の世界でも大人気のようだ。


「全く…緊張感の欠片もないな…まぁ良い、行こうか」


 そう言って皆で移動を開始する。この層も壁は土で、地面は土が踏み締められただけになっている。まるで掘られた様に道が通っている。それでも薄っすらと道が光っているので普通に歩いていける。当然周りには薬草や毒草などが自生しているのだけれど、取り敢えずそれはスルーしてボアを探していく。


 先頭のフィンが止まり、手で皆んなを制する。どうやら見つけたようだ。へぇあれがボアか。イノシシみたいだな…。


 ボアは一所懸命に地面を掘り起こし、何か植物を食い漁っている。そんなボアのお尻に矢が突き刺さる。ソラの矢だ。ボアは雄叫びをあげてこっちを振り向くが、すでにソラ以外に囲まれていて、殴られ蹴られ、斬られて刺されて、フルボッコにされて昇天されました。案外簡単なんだね!防具なんて要らないじゃん。


 倒れたボアの表示を見ると、普通に「イノシシ」と表示されてたわ。イノシシの事をボアっていうのか…知らなかったわ…当たり前過ぎて翻訳されてないのか?


 こっちではあの肉が大人気なのか。日本では余り出回っていないから、俺も今回の夏休みサバイバルでの1番の目標にしていたんだよな。だから、まさかこんなところで挑戦出来るとは奇妙な巡り合わせだぜ。


 それにしてもさっきまで何も表示されていなかったのに、倒された途端に表示されるようになっている。植物も採取前は何も表示されないのに採取後は表示されるようになる。不思議だぜ。生きた物は鑑定スキルの方になるのかな。


「こんなところだよ。どう?簡単でしょ?あとは急いで解体しちゃうからね」


 ソラは俺にそう言って、解体用のナイフを取り出して血抜きから始めた。俺はボアが何を食べていたのかが気になったのでツルのような物を引っこ抜く。


 そこには小粒だが、芋が沢山くっくいている。俺はその芋に出ている文字を見ると「ジャガイモ」と表示されている。


「へぇ。ボアはイモ類も好物だからな。後はドングリも好きというのはサーチ済みだったんだ。この芋は俺らでも食えるみたいだね。これも持って帰るの?」


「……これはまた…ユータさんのスキルでしょうか…?」


「だな…何故今迄誰もボアが何を食べているのか気にならなかったんだろうか。ただボアを倒して解体するだけだったからな。それが全てで当たり前に成っていたから…」




 





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