1-2
「……お前、天才と噂されるくらいだから絵画を見る目もあるよな? 作品が本物かどうか
「はぁ!?」
「絵を観たいからわざわざ来たんだろ。このままじゃ永遠に鑑賞できないぞ」
なにを言っているんだとローガンを見れば、彼の瞳が意味深にきらりと
断る間もなくジゼルの腕を摑んだかと思うと、次の
「ボラボラの筆頭さん!! その作品の
ローガンのよく
「失礼な! これは、
「鑑定書がそもそも本物かどうか、わからないよな?」
筆頭が言い返すも、ローガンが聞く耳持たずでぶった切る。
「だから、天才画家、ジェラルド・リューグナー殿に真贋を鑑定してもらおうと提案しているんだが……」
(ローガン……! なんて余計なことをっ!!)
ジゼルは逃げ出そうとした。がしかし、強い力で腕を摑まれ動くことさえままならない。
「
「ごちゃごちゃ言うな。これなら作品を間近でゆっくり鑑賞できるだろ」
「こんなにいっぱいの人がいたら、緊張してそれどころじゃない!」
ローガンの発言に、招待客たちは
「まさか……。そちらの子ど……少年が、あの天才画家、ジェラルド・リューグナー殿ですか? ほとんど誰も姿を見たことがなく、実在するのかさえ――」
「ああ、招待状もあるし間違いない。ここにいらっしゃるのが、噂のジェラルド殿だ」
ひょいと前に押し出され、会場中の興味がジゼルに向けられた。もちろん、
「これは、大変失礼をいたしました。ですが、わざわざジェラルド殿に見ていただかなくとも……」
「本物だったら価値が上がって国宝に
(ちょっとやめて!! 誰が命をかけるって言った!? 女だってバレたらどうするの!?)
ローガンの
「もし贋物だったら、あいつの鼻を明かすことができる。お前もボラボラ商会が気に入らないんだろ?」
「それは、そうだが――……」
なんで商会を気に入らないことがローガンにバレたのだろう。
だが彼の言う通り、招待客たちが張りついている現段階ではせっかくのファミルー作品を観ることができない。しかし、鑑定するとなれば、至近距離で鑑賞できる……でも、注目されるのは困る。
「お集まりの皆様も、いつも姿を見せないジェラルド殿がせっかくいらしているので……
いきなりすぎる展開に
「ほら。お
間近で鑑賞できる機会をくれたことには感謝するが、やり方と言い方にはつくづく腹が立つ。
「……わかった、確かめてくる。でも、あとでしっかりたっぷり文句言わせてもらうから、
「あーはいはい。よーく見てこいよ」
ローガンは、こちらの
(あぁっ……
ジゼルはファミルーの
(え……? これ、ファミルー作なんだよね。でも……)
ジゼルはすさまじい集中力で絵を
しかし、鑑定時間のあまりの長さに
「―― ……
ジゼルがぴしゃりと言い放ち、広間は
「バカな、ここにある鑑定書には」
「それなりに研究して描かれたのでしょう。すごく上手に、
筆頭が慌てた声を出すも、ジゼルはファミルー絵画において
「ファミルー作品は、流れるような独特のタッチが
画面の一部を指さすと、会場中の視線がジゼルの指先に集まってくる。
「こちらの
本来絵に
よく見ないと気がつかないが、触れば
「ファミルーは絵の具の
ジゼルは指についた絵の具を、ふっと吹いて地面に落とした。
「この絵は、ファミルーに似せて描かれた、まったくの贋物です」
堂々と『贋作』の断言をしてから、ジゼルは辺り一帯が静まり返ったままなのにやっと気がついた。
(……げっ! 私これ、結構やらかしちゃったかも……!?)
「で、ですが、絵の
慌てて取りつくろったところで
( ―― ……まずいっ!)
ジゼルの
「――さすが、ファミルーの再来と名高い、天才だ」
声の発せられた方を向くと、ベール
ジゼルは青ざめてその場で
(しまった……ここには女王陛下もいらしたのに! つい夢中になっちゃった!)
「ボラボラ商会も、贋作を摑まされたとあってはとんだ災難だったな。この場は私に免じて怒りを
女王は
「
女王の
オーケストラの演奏が始まると、余興に満足したのか方々で
「……時にジェラルド。そなたには、改めて私の肖像画制作を受けてもらう。
自分で自分の首を
(やっちゃった……ローガンのせいだ!)
ジゼルは深々と礼をし、心底
これ以上注目の的になるのは
(もー! 許さないローガン!! 帰る前に、一言文句言わないと……!)
ローガンはジゼルが怒っていることには気付かず、
「――よくやったな天才!」
「っ……!?」
しっかりと肩を抱かれて密着してしまい、驚きでジゼルの怒りがすっ飛んだ。
(まずいまずい、男装がバレたら大変だから離れてっ!!)
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