1-3
ジゼルの焦りなど気にも
「まさか本当に贋作だったとはな! 筆頭のあんな顔を見られて、スッキリしたぞ」
「ローガン、失礼ですよ。……すみません、彼は少々乱暴なところがありまして。ちなみにジェラルド殿は、このあとお時間はありますか?」
カヴァネルがローガンを引きはがしながら
勢いにまかせて「ありません!」と答えようしたものの、タイミング悪く
「失礼します。こちらは西の国より手に入った珍しいお飲み物です。ジェラルド様、ぜひお
にこやかに言われて、ジゼルはトレーの上に置かれたおいしそうな飲み物に目を向けた。
「ありがとうございます!」
「……うわ、なにこれめちゃくちゃ
口元を押さえながら、ジゼルは味と
ずっとぽかんと様子を見ていたカヴァネルが、予想もしていなかった事実を告げた。
「大丈夫ですか? かなり強いお酒のようですが……」
「え、これ……お酒ですか?」
先に言ってほしかった、とジゼルは顔を引きつらせた。
「私、お酒って飲んだことないです」
飲み干したものが酒だと
「お前、顔色が――」
「か、かかか帰りますっ!! さようならっ!」
ジゼルは
「困りましたね……ローガン、心配ですからジェラルド殿を送って差し上げてください」
「はぁっ!? あいつが勝手に飲んだんだぞ?」
「ボラボラ商会をやり込めたかったのは、ジェラルド殿ではなくあなたでしょう? 極度の緊張からのアルコール
「あー。まあ、たしかにやりすぎたか」
ローガンは
ジゼルはくらくらする頭を両手で押さえながら、ひとまず中庭に出ることに成功した。
「もう最悪! お酒って知っていたら、絶対に飲まなかったのに……!」
走ったせいで余計に酒が
「なんだってあんな……不味いものをみんな飲みたがるんだろう?」
「――おい、チビ助。大丈夫か?」
追いかけてきたローガンは、息一つ乱さずにジゼルの横に
「ダメそうだな……横になれる部屋に案内してやる」
「いい。ここで休んでいれば大丈夫だから」
ローガンから離れようと立ち上がった瞬間、ジゼルの視界が揺らぐ。
「
「バ、バカじゃない! 大丈夫だ!」
医者に服を
ローガンの肩に
|うす
(ああああ、マズイってこれはっ……!)
落ちないようにぎゅっとローガンにしがみついてから、身体が思い切り密着してしまっていることにジゼルは内心で悲鳴を上げた。
「ロ、ローガン! 大丈夫だから下ろせって!」
「大丈夫そうな顔をしてから言え」
暴れると頭痛が
「医者だけは本当に嫌だ!! 死ぬ!」
「うるさい! わかったからじっとしてろっ!」
「ぐっ……」
気持ち悪さと正体が
しかし、連れてこられたのは王宮医の元ではなくローガンの部屋だった。ソファーに
「すまない。少し休めば大丈夫だから」
「まったく……医者が
ぶつくさ言いつつ、ローガンは
「助かる」
だが、差し出された杯からふらふらの状態で水を飲もうとしたところで――手が
「あっ、ああああ……!」
そのまま
「……ものすごいドジだな。とりあえず服脱げ」
(――待って待って! ドジっていうか……これはダメすぎる!)
一気にジゼルの思考が回転し始めた。
「冷えたおかげでもう具合良くなった。帰る! ありがとう!」
さっと立ち上がって
「お前さ、どうせならもう少しまともな
着替えて横になれと両肩を押さえられ、強い力でソファーに
「これなら着られるか? お子様すぎるお前にはでかいと思うけど、ほかにない」
着替えを広げながらローガンに言われて、ジゼルは覚悟を決めた。
これ以上抵抗して逆に疑わしく思われても困る。アンダーシャツは着ているしそれならばいっそ……。
「わかった、ありがとう。すぐに着替えるからあっちを向いていてくれ」
「はぁ? 見られて困るもんでもないだろ……女じゃあるまいし」
(――よかった。急いで着替え……)
「やっぱり思った以上に大きかったか。こっちのほうが少しはまともじゃないか?」
濡れた服を脱ぐと、別の服を持ったローガンがあっさりとこちらを向いた。
ローガンと目が合うなり、ジゼルは動きを止める。そして……。
「きっ……!」
「きゃあああああ――――!」
「は…………?」
ローガンは二秒ほど目を白黒させたのち、
「待てバカ、
悲鳴を聞きつけたのか、バタバタと人の駆けつける音が聞こえてきた。ジゼルが身体をこわばらせると同時に「なにかありましたか!?」と
「なんでもない……あー、
ローガンの言い訳を信じたのか、しばらくすると人の気配が
(――見られた? 絶対見られたよねっ!?)
かつてないほどにジゼルの心臓が
「……ジェラルド、落ち着け……いいな? 手を離すけど絶対に声を出すなよ」
ジゼルがコクコクと
「……とりあえず服を着ろ。あっち向いててやるから」
ローガンが遠のく気配を感じ取ると、ジゼルはのそのそと服を着る。
(お酒、そうだ。私、お酒を飲みすぎて、これは夢だ。悪い夢)
目を開けたらきっと朝で……。
「終わったか?」
――ジゼルはローガンを見るなりひっと喉を引きつらせた。
「あ……、おい!」
ローガンの動じた声が耳に届いた時には、ジゼルはソファーの上で気を失っていた。
動かなくなったジゼルに近寄って見下ろすと、ローガンはなんともいえない顔をする。
「…………人の顔見て気を失うとか。とんでもなく失礼なやつだな」
ローガンはため息を
このまま放置しておくわけにもいかないので、気絶してしまったジゼルを抱え起こした。
完全に力が抜けてしまった身体は、心配になるくらいに軽くて
仕方なくベッドに運び、じっと顔を覗き込む。
「……やっぱり女か? なんで男の格好を……?」
ローガンはしばらくジゼルの顔を見つめてから、ひらめいたと言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべる。
そして、ジゼルの半身を抱え起こすと、水差しの水を取った。
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