2-8
「この人は、俺の命の恩人だ。どこの誰ともわからない俺たちを助け、家に入れ、
力強く熱弁を振るわれ、そこまで感謝してくれているのか、とキャナリーはすっかり照れてしまった。人に
そんなに言ってくれるなら、もっとたくさんキノコを採ってくればよかった。
「べ、別に、そんな、おおげさよ。二人とも、 悪い人には思えなかったし」
「それだけではない。では呼び捨てにさせてもらうが、キャナリー……」
ジェラルドは一度言葉を切り、青い瞳をキャナリーに向ける。
「俺は昨晩、目は閉じていたが、痛みでなかなか寝つけなかった。ところが、きみの優しい、
「私の、歌?」
「ええ。先ほどお話ししようとしたのは、そのことなのです」
テーブルにつきながらアルヴィンも言う。
「椅子でうつらうつらしながら、子守歌を耳にするうちに、打撲の
関係ないわよ、とキャナリーは照れるのを通り
「昨日話したとおり、私の歌は披露会で、地震を起こしたのよ。今回は違う歌だから大丈夫だったみたいだけど……。子守歌は昨晩みたいにラミアにいつも歌っていたから、この歌だけでも地震の魔法が発動しないようでよかったわ」
ほっとしつつキャナリーは言うが、ジェラルドは難しい顔になった。
やがてアルヴィンが、思いがけないことを聞いてくる。
「その、ラミアさんという方は、かなりお年を
ううん、とキャナリーはラミアとの日々を思い出す。
「そうね。私が物心ついた時には、もうおばあちゃんだったから、曲がった腰が痛いとか、目が
「きみが物心ついた時に、すでにそんなご
ジェラルドの問いに、キャナリーはうなずく。
「おばあちゃんていくつなの? って初めて聞いたのが、私が十歳くらいだったかしら。その時、ちょうど百歳じゃよ、って言われてお祝いしたのを覚えてるわ」
「「百歳?」」
二人は同時に叫ぶ。
「待ってくれ。ラミアさんが
「今から、一年半くらい前よ。私が十四歳のころ」
「キャナリーが十歳の時に、百歳。では、亡くなったのは百四歳ということか」
ジェラルドとアルヴィンは、顔を見合わせる。
「そんな! 信じられません。我が国に記録してある、歴史の中の最高齢が、 先々代国王の九十八歳です。延命の魔法でも使える者がいたら、別だったでしょうが。そのような癒しや回復魔法が使える者がいるとしたら、伝説の大聖女くらいです」
そうなの? とキャナリーは驚く。人の
子爵家の家庭教師からは、基本は上流階級の
「自分が歌うようになったのは、何歳くらいか覚えているかい、キャナリー」
なんでそんなことを聞くのだろう、と思いつつキャナリーは答える。
「え、ええと、そうね。ああ、思い出したわ。木こりのおじさんに、森の
「寝込んだ後、ラミアさんは回復されたのか?」
「ええ、あの時は。いつの間にかすっかり元気になって。私が養女に行く前の年までは、キノコ採りにも行ってたわ」
ということは、とジェラルドは、重要なことを打ち明けるように言う。
「キャナリーが
で? とキャナリーがきょとんとしていると、アルヴィンがガタン! と音をさせて席を立つ。
「そ、それでは、やはり推測どおりキャナリーさんの歌に、治癒や回復の魔力が秘められていると? だとしたらそれは、とんでもない魔力の持ち主ということですよ!」
「ないない、それはないわ」
キャナリーは思わず、笑ってしまった。
「言ったでしょう? 私の歌に魔力はあるにはあるみたいだけれど、目覚めの儀式でも、何も感じなかったし」
「自分で気がついていないだけで、実はとっくに魔法に
「あれは別の歌だったから、魔力がのらなかったのかもしれないわよ。それにダグラス王国には地震って、ほとんどないって聞いてるわ。少なくとも、王国の歴史書に
「もしかしたら、地震を起こす魔法ではないのかもしれないですよ」
アルヴィンの言葉に、キャナリーはびっくりしてしまう。
「地震が起こったのは本当よ? それに何種類もの魔法が使えることなんてあるわけないじゃない」
笑いを含んだ声で言ったが、ジェラルドは妙に
「たしかに王族以外では何種類もの魔法を使えることはない。だがアルヴィン、何かそう感じるのか?」
「はい。
まさかグラス王国に用事がある人々なのか、とキャナリーは察する。
商用か、それとも交流のある貴族がいるのか。
自分の魔法に、ダグラス王国――空気が変わるのをキャナリーは感じていたのだった。
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