2-3
ラミアが死んだ後、子爵家に引き取られたこと。王立歌唱団と
そして、追放されたこと。
「なるほど。ダグラス王国では、歌を通して聖女を
ジェラルドの言葉に、キャナリーは答える。
「ええ、そうよ。あなたの国では違うの?」
「君主が
へええ、とキャナリーは感心した。
「先のことがわかるなんて、すごいわね。まさに
「きみの歌で、地震が?」
「そうなの。だからもう、歌わない方がいいのよね。さて、最後にこの、一番傷の深いところに取り掛かるわよ」
キャナリーが言うと、苦しそうに息をつきながら、ジェラルドがうなずいた。
「よろしく、頼む」
「痛むかもしれないけれど、
火で消毒した針と糸で、キャナリーは上体を起こしたジェラルドの深い切り傷を
ジェラルドは目を閉じて、文句ひとつ言うわけでもなく、じっと苦痛に
「はい、終わり!
ふう、と額の汗を拭い、その傷を包帯で巻こうとして、キャナリーは気がつく。
(この包帯も長いこと放っておいたから、よく見ると黄ばんで、虫食いの穴がある。これじゃ、ばい
「ごめんなさい、ちょっと失礼します」
キャナリーはすっくと立ち上がり、戸棚の後ろに隠れるようにして、びりり、と下着のキャミソールを破いた。
「キャナリーさん? なっ、何をしているんですか?」
慌てた声のアルヴィンに、申し訳なく思いながらキャナリーは言う。
「悪いけれど、包帯をこれで代用させてもらうわね。上等の布だし、ずっとしまってあった古びた包帯より、いいと思うの」
「お、俺はいいが、それではきみの服が、台無しになってしまうじゃないか」
「服は痛みなんか感じないわ。あなたの身体のほうが、ずっと大事じゃない」
キャナリーは、縫った傷口をきちっと縛った。
「さあ、これで応急処置は
「あ……ありがとう、キャナリーさん。きみの親切には、本当に助かった」
まだひどく痛むだろうに、それを
それにこんなに至近
吸い込まれそうな、青い宝石のような、綺麗な瞳。
それを見つめ返すうちになぜかキャナリーは、自分の
「そ、そんなたいしたことはしてないわよ。それよりいったいどうして、こんな大きな傷を負ったの? 盗賊? この辺りには、大型の肉食
「ゴーレムの仕業です。それも、かなりの数だったのですよ」
背後からのアルヴィンの返答に、キャナリーは首を
「ゴーレム? ええと、聞いたことはあるわ。不気味な
「聞いたことはある?」
驚いたようにジェラルドが言う。
「そんなにも、この辺りには、ゴーレムがいないのか」
「ええ。少なくとも森で見たことはないし、ダグラス王国の、国内にもいないわ。そんなに怖いものなの?」
「はい。ゴーレムは田畑を
アルヴィンが言うと、ジェラルドも続けた。
「人の手では、倒せない。
「ダグラス王国にゴーレムの出現が少ない、
ええ、とキャナリーは二人に重ねて答えた。
「うちの周りは薬草だらけだし、薬の匂いがぷんぷんするから、寄ってこなかったのかもしれないけれど。ゴーレムについて、二人は
「誰も完全には、正体を理解できていないのですが。昔々、悪い
「呪われて動く……それは確かに怖いわね」
キャナリーは想像して、ぶるっと
「二人はそのゴーレムに、襲われたのね?」
ああ、とジェラルドがうなずく。
「
ん? とキャナリーはその言葉で、自分の
どうやら二人きりの旅行者ではなく、集団からはぐれてしまったらしい。
立派な身なりをしているから、護衛を
まあなんでもいい。悪い人でさえなければ、困った時はお
キャナリーはそう考えて、ジェラルドの治療を終えると、再び桶を持って外の泉に、今度は飲むための水を汲みに行った。
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