1-3
「レイチェル様、ご覧になって。キャナリーさんのお皿。すぐに空になっていきますわ」
「すごい勢いですわよねえ。わたくしも、つい眺めてしまいましたわ」
「無理もございませんわ、ブレンダ様、エミリー様。あのように次から次へとお料理をたいらげるなんて、きちんとしたレディにとっては、はしたないことですもの」
ひとつのテーブルを囲む三人の令嬢の目が、
彼女たちの視線の先にいたのは、同じテーブルについている、キャナリーだ。
しかしキャナリーは、それどころではなかった。
目の前に、美味しそうな料理の数々が、湯気を立てていたからだ。
そこで歌姫の顔合わせを兼ねた、昼食会の席についていた。
(んんー、このパン、外側がカリカリで中がふわっふわだわ! 分厚いステーキの
キャナリーは現在、子爵家の養女になっているので、一応は令嬢だが、実は森の中の
薬草作りの名人の、ラミアという
ラミアはケチで
ただし、死ぬほど貧しい暮らしだったため、キャナリーはいつもお腹を空かせていた。その感覚は、今も変わっていない。
だからつい、出されたものはなんだって食べてしまうのだ。
それが
「まあ、あの大きなお肉への食いつき方ったら!」
「魚の皮や、
「見ているだけで、めまいがしそう。あんなにぽいぽいお腹に放り込むなんて、なんてレディにあるまじき不作法でしょう」
三人は、ヒソヒソながらもわざと聞こえるように話すが、キャナリーの全神経は、目の前のとろりとしたスープに向けられている。
(根野菜がたくさん入ってるわね。どれどれ、お味は……おっ、美味しいいい! 具材に味がしっかり染み込んで、バターがかすかに香って、とろとろでホクホクで、ああもう口にスプーンを運ぶ手が止まらない!)
スープに夢中になっているキャナリーと
「そういえばわたくし、噂を聞きましたわ。キャナリーさんは子爵家に来る前、どこぞの森の中にいたとか」
「ええっ! 森暮らしだなんて恐ろしい」
「
ほほほほ、と三人は、レースや羽の
確かにキャナリーは、自分の親がどこの誰なのかも知らない。
なぜかキャナリーを引き取りたがり、半年前に養親になった子爵夫妻も、親らしいふるまいはまったくしなかった。
だから出自については、何を言われても気にならなかったのだが、キャナリーは不思議になって、思わず
「あのう。もしかして貴族の方々って、おしゃべりに興じて料理が冷えるまで放っておくのが
三人はぐっと言葉に詰まり、こちらを
キャナリーはパンのかけらで皿を綺麗にぬぐい、パクリと食べながら言う。
「さっきから、全然食べてないじゃないですか。せっかく美味しいのに冷めちゃって、もったいない」
令嬢たちはキャナリーの質問には答えず、目を
「森出身の
「ええ。そう考えると、ワクワクしますわ。わたくしは、レイチェル様ではないかと思っておりますの」
ブレンダの言葉に、あら、とレイチェルは、口元に
「そうとは限りませんことよ。ブレンダ様もエミリー様も、
彼女の視線を追って、キャナリーも目を向ける。
(パールって、貝の中にできるのよね。貝と同じなのに、食べられないなんて不思議。つやつやして、キャンディみたいで美味しそう)
キャナリーの心のつぶやきが聞こえるはずもなく、三人はなおも
「私のパールなんて、たいしたものではありませんわ。エミリー様の赤いイヤリングはドレスにも合っていて、本当に素敵です」
(ラミアが育てていた赤い
思い出し、キャナリーは森でのご飯が
「いいえ、なんといっても、お美しいのはレイチェル様ですわ。本日の
(本当に。まるで大きな
キャナリーが心の中でつぶやき続けている間に、テーブルにはデザートが運ばれてくる。
ふっくらした
先ほどの想像でお腹がすいたキャナリーは、喜んでぷるぷるした桃色のプディングをたいらげたのだった。
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